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『ABSOLUTE ZERO 絶対零度2017』(勅使川原三郎、佐東利穂子) [ダンス]

 2017年06月04日は、夫婦で世田谷パブリックシアターに行って世田谷パブリックシアター20周年記念公演『ABSOLUTE ZERO 絶対零度2017』を鑑賞しました。1998年に初演された代表作『ABSOLUTE ZERO』の再演です。勅使川原三郎さんと佐東利穂子さんが踊る80分の舞台。

 20年前の初演を含め実際の舞台を観たことは一度もなく、ごく一部分(第2部の30分程度)が収録されている市販ディスクを何度か観ただけ。全体を通して観るのは今回が初めてです。

 舞台の床には、光点で構成されたグリッド。途中で背景となるスクリーン(および天井から吊り下がってくる何枚かのスクリーン)にイメージ映像が投影されますが、他には舞台道具はありません。照明だけで空間の圧力を創り出してゆきます。

 全体は三つのパートから構成されています。

 最初は躍動感あふれるパートで、様々なノイズに乗せて二人の鋭い動きが次々に飛び出します。身体の軸から四方八方に放電が走るような、あるいは過冷却水が衝撃で瞬時に凍る様子をスロー再生したような、そんな印象です。太極拳のような動きもかっこいい。

 第二パートでは、ゆったりとしたピアノ音楽に乗せて、緩やかに、ときに鋭く、空間を大きく攪拌するように二人が動いてゆきます。濃密な流体のなかを動いている圧力感。残像を残しつつ、ゆるゆると宙を滑りゆく佐藤さんの腕。勅使川原さんの動きは、これが読めない。気が付くと場所が変わっていたりして、まるで途中経過が、時間が、細かくスキップされているような戸惑いを感じます。

 第三パートは勅使川原さんのソロ。最も印象的なのは、何といっても「静止」のシーンでしょう。それまで激しく動いていた勅使川原さんが、背景となるスクリーンが青一色になると共に、ぴたりと動かなくなります。もちろん音楽もなく、無音・静止状態がひたすら続く。

 観客の気配が圧力となって会場に満ちてゆく感触がすごく、息をひそめて待ち続けます。しかし勅使川原さんは動きません。微動だにせず、立ち続けます。こちらも音を立てないよう全身を緊張させて、劇場内の気配を感じ続けます。

 こ、これが、すべての動きが消える絶対零度の領域。とか思えばいいのでしょうが、どうしても「ああ、ブルースクリーンだ。固まっちゃったか……」という思いがふり払えなくなり。そうか、初演は98年。

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 すいません。世代の病です。

 個人的には、佐東利穂子さんの出番が少ないのが残念でした。最終パートにはまったく登場しないし、最初のほうの登場シーンでもやや控えめです。まあ20年前には佐東利穂子さんいなかったし、などと思いつつ、帰宅後にディスクを確認したら、振付助手として佐東利穂子さんの名前がちゃんとありました。