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『理化学研究所 100年目の巨大研究機関』(山根一眞) [読書(サイエンス)]

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 理化学研究所は、1917年(大正6年)3月20日に、財団法人理化学研究所として発足した。欧州で第一次世界大戦が勃発して3年目、ロシアではロマノフ朝による帝政が崩壊した直後の時代だ。
(中略)
1990年代後半からは続々と新しい研究所、研究センターが生まれており、研究室の総数は今ではおよそ450にのぼる。また、世界各国・地域と研究協力協定、覚書の締約も重ねてきた。理研は、日本の理研から世界の理研に育ち、協力関係にある海外の研究機関の数は約460(53カ国・地域)におよんでいる(2016年3月末)。
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新書版p.47、69


 450の研究室、3000人の研究者、500人の事務職からなる巨大研究機関。今年で創立100周年をむかえた理化学研究所で行われている研究や施設の一部を紹介してくれるサイエンス本。新書版(講談社)出版は2017年3月、Kindle版配信は2017年3月です。

 113番元素、粒子加速器、スパコンなど、理研で行われている研究とそのために使われている施設を広く取材した一冊です。全体は11個の章から構成されています。


「第1章 113番元素が誕生した日」
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 2011年3月、東日本大震災による電力の大幅な使用制限は、新元素探査にとって大きな危機だった。なにしろ、たった1個の原子核を得るために、加速器とGARISは2メガワット(=200万ワット)もの電力が必要だからだ。あの電力危機の日々、理研の他の研究チームは、それぞれ実験を止めて電力を節約し、コジェネ(自家発電装置)からの電力を森田グループの実験にまわしてくれたという。それでも、2012年8月18日に劇的なイベント(成果)を得るまでの延べ照射日数は570日を超え、亜鉛原子核の照射は実に400兆回におよんでいた。
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新書版p.35

 加速器によって113番元素「ニホニウム(Nh)」を作り出す実験はどのように行われたのか。新元素の生成と検出に至る道のりを描きます。


「第2章 ガラス板の史跡」
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 ピストンリング、ふえるわかめちゃん、オフィス機器を製造する3つのメーカーは、一見、何の関係もないように思えるが、いずれもそのルーツは同じなのである。それは、社名が物語っている。ピストンリングは「株式会社リケン」、ふえるわかめちゃんは「理研ビタミン株式会社」、オフィス機器は「株式会社リコー」(発足時の社名は理研感光紙)。いずれも、理研から生まれた企業なのである。
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新書版p.46

 理研の創設から今日に至るまでの歴史を概観します。


「第3章 加速器バザール」
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 和光市の理化学研究所の敷地の東北端に、とんでもない地下実験施設がある。
 私がそこをちょっとだけ見せてもらったのは数年前のことだが、実験施設という言葉で思い浮かべていたイメージは完全にぶっ飛んでしまった。数多くの実験装置が並んでいるのだが、その一つは平べったい六角柱をしており、2階建て住宅ほどの7.7メートル。直径18.4メートルなので床面積は約270平方メートル(約80坪)という、とてつもなくごつい装置だ。ごつく見えるのも当然で、総重量が8300トン、東京タワー2つ分の重さというのだ。
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新書版p.73

 様々な粒子加速器が点在する実験施設「RIビームファクトリー」を中心に、総面積4万4643平方メートルという加速器研究センターの全貌を紹介します。


「第4章 超光の標的」
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放射光は、円形の加速器では粒子の加速速度を落とすじゃまものとされていたが、きわめてシャープにモノの立体構造を見ることができる光であることがわかり、いわばスーパー顕微鏡として世界で放射光施設の建設が始まった。これは、放射光を作り出すことに特化した円形加速器だが、物質の分子や原子のナノサイズ(1メートルの10億分の1)世界の構造を見ることができるため、今では科学研究のみならず産業界でも広く利用されている。
 なかでもスプリングエイトは、世界で最大、最強の放射光施設としてデビューし(電子エネルギー80億電子ボルト)、今もその地位は揺るがない。
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新書版p.93

 分子原子のスケールでモノの立体構造を見ることが出来るスーパー顕微鏡、放射光。スプリングエイトなどの放射光施設とそこから生みだされた成果について語ります。


「第5章 100京回の瞬き」
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光は1秒間に地球を7周半、30万キロメートル進みますが、1アト秒では0.3ナノメートル(30万分の1ミリメートル)、ほぼ水の分子サイズを通過する距離です。このアト秒の光の瞬きを使い原子の挙動がわかれば、新しいエネルギーや新しい機能を持った新素材が開発できるでしょう。
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新書版p.123

 光の速度でさえ分子サイズの距離しか進むことが出来ないほど極めて短時間の光パルスを作り出し、超高速現象を撮影する。量子・原子光学、アト秒科学、超解像イメージング、テラフォトニクスなど光・量子技術を探求するテラヘルツ光研究グループの研究テーマを紹介します。


「第6章 スパコンありきの明日」
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 原子の数で約1000~10万個分にもなるタンパク質分子のシミュレーションには膨大な計算が必要です。原子1個のサイズがサッカーボール1個分とすると、タンパク質は大きなもので50メートルプールくらい。タンパク質や水、脂質といった分子の集合である細胞1個ともなると、例えば赤血球(幅10ミクロン、厚さ2ミクロン程度)は4000メートル級の山が20キロ続くような山脈くらいの大きさになります。
 細胞の動きを追うためには、とてつもなく大きな空間の中でひしめき合うたくさんの原子同士がお互いに力を及ぼしあっている状態を計算しなければならないのです。しかもタンパク質分子などの動きは非常に速いため、1000兆分の1秒(1フェムト秒)刻みで計算させる必要があります。
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新書版p.142

 実験と理論に続く「第三の科学」であるコンピュータシミュレーション。タンパク質分子の挙動解析、防災環境、エネルギー問題、新素材開発まで、あらゆる分野で活用されているスーパーコンピュータ「京」。「京」の運用、スパコンネットワークHPCI構想、そしてポスト「京」開発計画まで、スーパーコンピュータをめぐる状況を概説します。


「第7章 生き物たちの宝物殿」
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科学の神髄は「再現性」です。実験によって大きな発見があったと発表したあと、第三者が同じ実験をして同じ結果が得られたと確認できて、初めて科学として成立します。同じ結果が出せなければSFにすぎません。その「再現性」のためには、同じ実験材料、生物資源を使わなくてはいけない。マウスや細胞は、同じものを保存、維持し、必要とする研究者に提供する必要があるわけです。バイオリソースセンターは、そういう役割をもつ施設なのです。
(中略)
細胞は1万855株。「株」というのは遺伝的な特性が均一な集団のことですが、100パーセントが凍結保存です。実験植物は83万3285株、これは99パーセントが凍結、冷蔵。微生物材料は2万5176株、遺伝子材料となると380万8264株、いずれも100パーセント凍結や冷蔵です。
(中略)
大村先生の放線菌も大隅先生のオートファジーの細胞株も、がんのヒーラ細胞も、高松塚古墳とキトラ古墳のカビも、黒マフラー姿のハツカネズミも、そしてシロイヌナズナも、そういう手数料で発送しています。山中先生からバイオリソースセンターに寄託されたヒトiPS細胞やそのマウスを完璧に品質管理してきたからこそ、研究者に提供でき、再生医療の研究が進んでいるわけです。我々が発送したリソースをもとに、その約10パーセントが論文になっていることがそれを物語っています。
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新書版p.158、159、161

 医療、生物分野の実験に使われる細胞、微生物、実験動物などの生物資源を保管し研究者に提供するバイオリソースセンター。あらゆるバイオ研究を支えているその品質管理へのあくなき取り組みを熱く語ります。


「第8章 入れ歯とハゲのイノベーション」
「第9章 遺伝子バトルの戦士」
「第10章 透明マントの作り方」
「第11章 空想を超える「物」」

 再生医療、オーダーメイド医療、脳科学、人工知能、創発物性科学、など様々な研究分野が紹介されます。それでも書き切れなかったテーマ(アルマ電波望遠鏡など)は「おわりに」で駆け足で紹介されています。


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