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『転校生は蟻まみれ』(小池正博) [読書(小説・詩)]


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瓶を倒す匈奴が攻めてくる
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単発の煮込みうどんに院政される
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アウトなど阿部一族は認めない
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乱取りはそろそろ止めて火遊びに
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辻斬りの相手は弱くていいのです
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 異質な言葉の組み合わせから生ずる不思議なおかしさ漂う現代川柳。小池正博さんの第二句集。単行本(編集工房ノア)出版は2017年3月です。


 まずは、普通は同居しないような、互いに使われる文脈が異なる言葉を、無造作につなげてみたような作品。何とも言えない違和感が可笑しいのです。


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瓶を倒す匈奴が攻めてくる
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単発の煮込みうどんに院政される
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油舐めてから民族大移動
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駅前でぷりぷり怒るモアイ像
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アルパカの居場所としての待合室
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虫を喰う植物のいる中二階
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 地名など固有名詞をうまく使った作品。文脈をかくんと外されてつんのめる感覚が楽しいのです。


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アウトなど阿部一族は認めない
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頷いてここは確かに壇の浦
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鎌倉にサラダを添えて攻めのぼる
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道のべの火を吐く餓鬼は京育ち
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逗子まで明るい妖怪ついてくる
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 格言というか、箴言というか、うっかり含蓄を感じてしまう作品も。一瞬おいてから、特に教訓など存在しないことに気づいたときの謎の騙された感。


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猫脚がついているから叩かれる
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公家式の二行に詰めを誤るな
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言い訳はするな山椒魚を食う
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辻斬りの相手は弱くていいのです
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 ごくありふれた社交会話に見える作品もあります。実際、人が会話しているとき、意外にこういう意味不明なことを口走っているのではないでしょうか


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乱取りはそろそろ止めて火遊びに
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こんなときムササビはよしてください
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礼儀知らずにも高山病になりました
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セスナ機で決済をしに来てほしい
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正直に言います狢を呼びました
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 数はさほど多くはありませんが、天文学の言葉を使った作品にも光るものが。


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稽古はやめだ君が火星を狂わせる
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レーダーに土星の動く気配あり
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あとあしで土を蹴るとき天球儀
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島宇宙から島宇宙へと枢機卿
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 というわけで、特定の文脈ではこういう言葉を使う、こういう言葉にはこういう言葉がコロケーション、といった暗黙のルールを取っ外してみたら、すごく楽しくて意味不明な日本語が出来上がるということをまざまざと見せてくれる、驚きとくすぐりに満ちた句集です。