2016年を振り返る(4)[SF・ミステリ] [年頭回顧]
2016年に読んだ海外SFでは、まずはケン・リュウの『蒲公英王朝記』が印象に残っています。楚漢戦争の史実をベースに、架空の群島世界で繰り広げられる「項羽と劉邦」の物語。二冊が刊行されましたが、これでまだ三部作の第一部なのだそうで、続きが気になります。
『蒲公英王朝記 巻ノ一 諸王の誉れ』(ケン・リュウ、古沢嘉通:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08
『蒲公英王朝記 巻ノ二 囚われの王狼』(ケン・リュウ、古沢嘉通:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-09-12
本格SFとしては、クレオール文化やAIの自己認識など今日的な問題意識を巧みに設定に落とし込んで注目された『叛逆航路』(アン・レッキー)、第二次世界大戦で枢軸側が勝利した世界を舞台とした21世紀の『高い城の男』(P.K.ディック)こと『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』が良かった。銀河帝国や巨大ロボット、さらには後述する宇宙海賊など、古めかしいSFガジェットを、パロディや懐古趣味ではなく、現代SFとしてきちんと蘇らせる試みはこれからも続くだろうなと思います。
『叛逆航路』(アン・レッキー、赤尾秀子:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-02-25
『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(ピーター・トライアス、中原尚哉:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-12-05
短篇集では、とにかくぶっちぎりだったのがジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『あまたの星、宝冠のごとく』。SFに何が出来るかをまざまざと見せつけた孤高の作家の最後の一撃。
『あまたの星、宝冠のごとく』(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア、伊藤典夫・小野田和子:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-05-17
軽めの娯楽SFでは、多くの人々が遠隔操縦ロボットにリンクして社会生活を送っている世界での殺人事件という奇抜な設定がうまいジョン・スコルジー『ロックイン』、宇宙海賊なる古めかしい存在をハードSFとして書いてみせたジェイムズ・L・キャンビアス『ラグランジュ・ミッション』、そして二丁拳銃かまえたエースパイロットの猿がサイボーグ女や凄腕ハッカー少女と組んで大活躍という有無を言わさぬガレス・L・パウエル『ガンメタル・ゴースト』、この三冊が素敵でした。
『ロックイン -統合捜査-』(ジョン・スコルジー、内田昌之:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-04-26
『ラグランジュ・ミッション』(ジェイムズ・L・キャンビアス、中原尚哉:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-04-21
『ガンメタル・ゴースト』(ガレス・L・パウエル、三角和代:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-02-10
日本SFでは、とりあえず読んどけという年刊日本SF傑作選。これ一冊で今注目すべき作家は誰なのかが分かります。
『アステロイド・ツリーの彼方へ 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵、藤井太洋、宮内悠介、上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-07-12
年刊日本SF傑作選の表題作の作者、上田早夕里さんについては、本格SF短篇集『夢みる葦笛』と、海洋冒険小説『セント・イージス号の武勲』を読みました。前者はもちろん、後者も「SFの気配」が濃厚で、歴史小説やミステリの読者よりもむしろSF読者にお勧めしたい。
『夢みる葦笛』(上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-10-06
『セント・イージス号の武勲』(上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-01-26
2016年に最も活躍した作家の一人が宮内悠介さんでしょう。どう考えてもSFな『スペース金融道』、純粋ミステリ『月と太陽の盤』、さらに青春音楽小説『アメリカ最後の実験』やオカルトネタ満載の『彼女がエスパーだったころ』を出すという、傑作・話題作の連射には圧倒されました。
『アメリカ最後の実験』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-03-31
『彼女がエスパーだったころ』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-06-13
『スペース金融道』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-09-27
『月と太陽の盤 碁盤師・吉井利仙の事件簿』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-12-08
恒例の短篇ベストコレクションに収録された作品を読んで、その馬鹿馬鹿しいまでの変な状況を大真面目に書くという作風を個人的に気に入ったのが両角長彦さん。ついつい気になって、デビュー作から2014年までの単行本を読みました。読んだ範囲で一番いいと思うのは『ハンザキ』かな。今年は2014年以降の作品を読んでいこうと思います。
『短篇ベストコレクション 現代の小説2016』(日本文藝家協会:編)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-07-28
『ラガド 煉獄の教室』(両角長彦)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-10-26
『大尾行』(両角長彦)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-10-13
『デスダイバー』(両角長彦)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-09-29
『便利屋サルコリ』(両角長彦)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-08-31
『ハンザキ』(両角長彦)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-08-24
その他ミステリとしては、死が「日常」である戦場で起きた「非日常」の謎に挑むコック兵たちの姿を通じて戦争の狂気を描く深緑野分『戦場のコックたち』が圧巻でした。他にポーランド文学史上ほぼ唯一といってよい古典ホラー作家による鉄道奇譚集、ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』が、鉄道マニアの心情を見事にとらえていて印象的。変化球として、現代の人気作家たちが怪人二十面相の謎に挑む『みんなの少年探偵団』も面白かったです。
『戦場のコックたち』(深緑野分)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-05-23
『動きの悪魔』(ステファン・グラビンスキ、芝田文乃:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-01-14
『みんなの少年探偵団』(万城目学、湊かなえ、小路幸也、向井湘吾、藤谷治)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-01-18
『蒲公英王朝記 巻ノ一 諸王の誉れ』(ケン・リュウ、古沢嘉通:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08
『蒲公英王朝記 巻ノ二 囚われの王狼』(ケン・リュウ、古沢嘉通:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-09-12
本格SFとしては、クレオール文化やAIの自己認識など今日的な問題意識を巧みに設定に落とし込んで注目された『叛逆航路』(アン・レッキー)、第二次世界大戦で枢軸側が勝利した世界を舞台とした21世紀の『高い城の男』(P.K.ディック)こと『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』が良かった。銀河帝国や巨大ロボット、さらには後述する宇宙海賊など、古めかしいSFガジェットを、パロディや懐古趣味ではなく、現代SFとしてきちんと蘇らせる試みはこれからも続くだろうなと思います。
『叛逆航路』(アン・レッキー、赤尾秀子:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-02-25
『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(ピーター・トライアス、中原尚哉:翻訳)
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短篇集では、とにかくぶっちぎりだったのがジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『あまたの星、宝冠のごとく』。SFに何が出来るかをまざまざと見せつけた孤高の作家の最後の一撃。
『あまたの星、宝冠のごとく』(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア、伊藤典夫・小野田和子:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-05-17
軽めの娯楽SFでは、多くの人々が遠隔操縦ロボットにリンクして社会生活を送っている世界での殺人事件という奇抜な設定がうまいジョン・スコルジー『ロックイン』、宇宙海賊なる古めかしい存在をハードSFとして書いてみせたジェイムズ・L・キャンビアス『ラグランジュ・ミッション』、そして二丁拳銃かまえたエースパイロットの猿がサイボーグ女や凄腕ハッカー少女と組んで大活躍という有無を言わさぬガレス・L・パウエル『ガンメタル・ゴースト』、この三冊が素敵でした。
『ロックイン -統合捜査-』(ジョン・スコルジー、内田昌之:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-04-26
『ラグランジュ・ミッション』(ジェイムズ・L・キャンビアス、中原尚哉:翻訳)
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『ガンメタル・ゴースト』(ガレス・L・パウエル、三角和代:翻訳)
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日本SFでは、とりあえず読んどけという年刊日本SF傑作選。これ一冊で今注目すべき作家は誰なのかが分かります。
『アステロイド・ツリーの彼方へ 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵、藤井太洋、宮内悠介、上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-07-12
年刊日本SF傑作選の表題作の作者、上田早夕里さんについては、本格SF短篇集『夢みる葦笛』と、海洋冒険小説『セント・イージス号の武勲』を読みました。前者はもちろん、後者も「SFの気配」が濃厚で、歴史小説やミステリの読者よりもむしろSF読者にお勧めしたい。
『夢みる葦笛』(上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-10-06
『セント・イージス号の武勲』(上田早夕里)
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2016年に最も活躍した作家の一人が宮内悠介さんでしょう。どう考えてもSFな『スペース金融道』、純粋ミステリ『月と太陽の盤』、さらに青春音楽小説『アメリカ最後の実験』やオカルトネタ満載の『彼女がエスパーだったころ』を出すという、傑作・話題作の連射には圧倒されました。
『アメリカ最後の実験』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-03-31
『彼女がエスパーだったころ』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-06-13
『スペース金融道』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-09-27
『月と太陽の盤 碁盤師・吉井利仙の事件簿』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-12-08
恒例の短篇ベストコレクションに収録された作品を読んで、その馬鹿馬鹿しいまでの変な状況を大真面目に書くという作風を個人的に気に入ったのが両角長彦さん。ついつい気になって、デビュー作から2014年までの単行本を読みました。読んだ範囲で一番いいと思うのは『ハンザキ』かな。今年は2014年以降の作品を読んでいこうと思います。
『短篇ベストコレクション 現代の小説2016』(日本文藝家協会:編)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-07-28
『ラガド 煉獄の教室』(両角長彦)
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『大尾行』(両角長彦)
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『デスダイバー』(両角長彦)
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『便利屋サルコリ』(両角長彦)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-08-31
『ハンザキ』(両角長彦)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-08-24
その他ミステリとしては、死が「日常」である戦場で起きた「非日常」の謎に挑むコック兵たちの姿を通じて戦争の狂気を描く深緑野分『戦場のコックたち』が圧巻でした。他にポーランド文学史上ほぼ唯一といってよい古典ホラー作家による鉄道奇譚集、ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』が、鉄道マニアの心情を見事にとらえていて印象的。変化球として、現代の人気作家たちが怪人二十面相の謎に挑む『みんなの少年探偵団』も面白かったです。
『戦場のコックたち』(深緑野分)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-05-23
『動きの悪魔』(ステファン・グラビンスキ、芝田文乃:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-01-14
『みんなの少年探偵団』(万城目学、湊かなえ、小路幸也、向井湘吾、藤谷治)
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