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『便利屋サルコリ』(両角長彦) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]


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「彼女がおれたちと組むのをやめて、ホステス業に専念したいと言い出したらどうする。おれたち二人そろって、彼女のヒモになるか?」
「そんなことはできない」骨崎はきっぱりと首を振った。
「リサコのタンカじゃないが、僕たちは正義の味方なんだ。現代社会にはびこる魑魅魍魎どもと、くれぐれも全力をつくすことなくほどほどに戦い、そこそこ稼ぐのが僕たちの使命なんだ。そのために、僕たち三人の名前を取ってサルコリカンパニーを設立したんだ。そうだろ?」
「まあそうだが、おれは別にヒモでもいいんだけどな……」
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単行本p.35


 頭脳明晰で性格極悪な猿田、身体能力が高くまじめな骨崎、容姿端麗なのに男運の悪さハンパないリサコ。三人の名前をとって名付けられた便利屋「サルコリ」には、次から次へと無理難題が持ち込まれる。三人組のチームが様々な事件や奇妙な依頼に取り組む連作短篇集です。単行本(光文社)出版は2013年11月、文庫版出版は2015年12月、Kindle版配信は2016年2月。

 尾行、自殺阻止、替え玉受験、ブログ執筆代行、はては人体切断や自衛隊員との競走まで。依頼されれば割と何でも引き受けてしまうチームサルコリのメンバーたちの活躍を描く作品集。どの依頼にも裏があったり予想外の問題が生じたりして一筋縄では行かないのですが、苦労しながらも何とか解決してしまうという、基本的にユーモラスな作品集となっています。

 『ハンザキ』でもそうでしたが、短篇の合間に置かれているショートショートがお手本になるようなレベルの高さで感心させられます。


[収録作品]

『最小限の犠牲』
『斬る』
『ミマデラの餌食』
『学校じゃ教えてくれないこと』
『尾行練習』
『合格率120パーセント』
『死んだ子の年齢』

ショートショート
  『疲れる夢』
  『天罰』
  『猫探し』
  『人間鯉』
  『メンバー紹介』
  『いつどこでとは言えないが』


『最小限の犠牲』
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「で、今の君は何をしてるんだ?」早川がたずねた。
「教えてあげるわ」骨崎の横からリサコが口を出した。「悪と戦う正義の味方よ」
「ほう」
「冗談です」骨崎があわてて訂正した。
「男二人、女一人で細々と営業している便利屋です」
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単行本p.21

 自衛隊で極秘研究をしているという科学者から、厳重な監視の目をかいくぐって渡された資料。軍が秘密にしている恐るべき計画とは何か。機密漏洩を阻止すべく追跡してくる(文字通り)隊員、必死で逃走する(文字通り)骨崎。世にも奇妙な追いかけっこ(文字通り)が始まった。


『斬る』
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「たしかに僕は便利屋です。しかし」骨崎は二尺三寸の大刀を上段に振りかぶった姿勢のまま、ガタガタ震えながら叫んだ。
「こんなことまでさせられるとは聞いてませんよ!」
「いいから斬れ」依頼人の声が飛んだ。
「首を落とすんだ。そのために君を雇ったんだぞ」
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単行本p.40

 君の剣術の経験を活かして、生きている人間の首を斬り落としてもらいたい。あまりに非常識な依頼に仰天する骨崎だが、他のメンバーを人質に取られて絶体絶命の窮地に。迫るタイムリミット。どうしてこうなる。


『ミマデラの餌食』
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 この番組の当夜の視聴率は、予想外の高さを叩き出した。テレビ局は、二人目、三人目を三万寺と対談させた。かれらは次々に三万寺の話術にかかって失言をし、そして失脚していった。視聴率は階段をのぼるようにアップした。ここに至って、テレビ局は三万寺の資質に気づいた。
 彼女には、人から失言を引き出す才能がある!
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単行本p.79

 三万寺陵子は相手から失言を引き出す名人だった。TV討論で彼女と対話した者はとんでもない失言・暴言をうっかり口にしてしまい、次々と社会的生命を失ってゆく。世間は大喜び。次に対談することになった政治家が震え上がって便利屋サルコリに駆け込んでくる。自分はきっと失言する、いや絶対にする、どうか助けてほしい、と。あんたそれでも政治家か。でも仕事は仕事。サルコリのメンバーは無敵の三万寺陵子に挑戦することに。彼女はどうやって相手に失言させているのか。その秘密を解きあかさない限り、勝ち目はないのだ。


『学校じゃ教えてくれないこと』
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“だって、どうせあたしも死ぬんだから。まったく学校なんて、何も教えてくれないところよね。人を殺したあとでどうしたらいいかって、大事なことじゃない? どうしてそういうこと教えてくれないのかしら。あたしは自分でわかってるからいいけど”
「ちょっと待て。いま死ぬって言ったか?」
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単行本p.120

 学校で教師を殺してしまったので今から自殺する。女子高生からかかってきた一通の電話に焦りまくる骨崎。感情の起伏が激しい彼女をなだめすかして思いとどまらせようとするも、どっちかと言えば翻弄されてる感じに。彼女の秘密とは何か。そして骨崎は彼女の命を救うことが出来るだろうか。


『尾行練習』
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「で、きのう言った条件の話だが――どうだ。これを機会にもう探偵学校なんかやめちまって、おれたち三人で商売を始めないか? 探偵よりおもしろいぞ。君たちなら十分おれのビジネスパートナーになれる」
「ごめんだわ。もうあなたの顔も見たくない」リサコは言った。
「僕もだ」骨崎も言った。
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単行本p.175

 サルコリカンパニー設立の前日譚。探偵学校で出会った三人が、試験準備として尾行した相手は、偶然にも凶悪な外国人窃盗団の一員だった。あっさり捕まって消されそうになる三人。果たしてこの窮地をどうやって脱するのか。まあ、いわゆるオリジンものなので、何とかなることは分かっているのですが……。


『合格率120パーセント』
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「なんてやつだ」骨崎は、あきれかえって叫んだ。
「自分の子供を人質に取って、自分の妻を脅かすなんて」(中略)
「よくよく男運のない女だな、君も」猿田はにやにやしながら言った。
「よくまあ、よりにもよって、あんな最低の男とくっついたもんだ」
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単行本p.197

 リサコの夫が子供を人質にして「替え玉受験」を強要してきた。仕方なく18歳になりすませて受験会場に向かうリサコ26歳。何とか彼女の夫に一泡ふかせてやろうと反撃の糸口を探す骨崎と猿田。色々な意味で困難なミッションの行方は……。


『死んだ子の年齢』
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「息子がいつ帰ってきてもいいように、ブログをあたためておきたい。その仕事を、猿田さん、あなたにお願いしたいのです」
「僕にですか」猿田はとまどった顔になった。
「しかし息子さんは、小説を書いてたわけでしょう。僕には小説なんか書けませんよ」
「それは問題ありません。なぜなら」善夫は意味ありげな笑みを浮かべた。
「正道がブログにアップしていたのは小説そのものではなく、自分の小説に対する自画自賛ばかりだからです。おそらく正道自身、小説など実際には一行も書くことなく、ただ書いたつもりになって、作家気分に酔っていたのでしょう」
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単行本p.224

 行方不明になった息子のブログを代理で更新し続けてほしい。猿田が受けた依頼は訳の分からないものだった。が、仕事は仕事。早速とりかかったものの、何しろブログ主は文章修業する気もない作家志望者。「自意識がやたら過剰なだけで内容的にはゼロに等しい文章をだらだらと書き連ねるのは、それを仕事と割り切った上であっても、なかなか精神的につらい作業だった」(単行本p.229)という今回のミッション。しかし、コメントも含めて自作自演の自己満足ブログに、謎のコメントが投稿される。失踪事件の裏に隠された真実とは。



タグ:両角長彦
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