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『くよくよマネジメント』(津村記久子) [読書(随筆)]


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わたしたちくよくよ族は、よく「自分はさばさばしていない、くよくよばかりしている」などと思い悩みます。また世の中の人々も、得てしてくよくよせずにさばさばしていることを評価します。しかし、くよくよしていることは本当に悪いことなのでしょうか。最近そのことをよく考えるのです。
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単行本p.7


 くよくよしてばかりだと本当に駄目なのかしらと、くよくよ悩み続ける、そんな皆さんの悩みについて津村記久子さんがくよくよと自信なさげに考えるエッセイ集。単行本(清流出版)出版は2016年5月です。


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 世の中は基本的に、善悪でも、上品か下品かでも、妥当かとうでないかでもなく、エネルギーの強いほうへと引きつけられるような気がします。弱いものが嫌いなのだ、とシビアなことを考えるようにもなりました。
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単行本p.54


 いつもくよくよ悩んでいる自分が嫌、という悩みを抱えている人は多いのですが、こういう悩みは考えても考えても堂々巡りに陥ってしまい、ますます悩むという悪循環になりがちです。かといってズバッと答えてくれる助言や人生相談を得ても、それで割り切れるような人じゃないから悩んでいるのだ、ということに。

 そんなとき、自分よりもっとくよくよしている人が、さらに深く、さらに執拗に、くよくよ悩み、次第に静かな怒りをたぎらせてゆく様を見ると、不思議と心が落ち着くもの。そんな読者のための一冊です。


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 すべてに対して神経質というわけではないのですが、ある特定の物事にとらわれやすい方です。いろいろなことが気になります。自転車置き場のおじさんがどうしてよく持ち場にいないのかということや、誰かがたまたまつっかかるような物言いをしてきたこと、飲食店でしゃべりすぎてしまった時の恥ずかしさや、理不尽な行列に並ばされたこと、十数年も前の出来事に対して、ああしていればよかった、と悔やむなど、気になると眠れません。なのに、注文した家具を組み立てずに放置していたり、枕元に読み終わっていない本を何冊も積み上げていたりします。どちらかというと、後者の方が処理しなければいけない問題です。
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単行本p.117


 わかる。


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 ちなみに、わたしにはけっこう短気なところがあって、すぐに人に腹を立てたりします。家にやってきて要領を得ない話で時間を奪おうとするセールスや、失礼な感じで道を訊いてきた人や、余計な蘊蓄を言ってサービスが達成できないかもしれないと予防線を張る窓口業務の人などに、わりとすぐに怒ります。以前はそのたびに、文句を分かち合う相手を探していたのですが、この数年はもうやらなくなりました。それはそれでストレスを増幅させるからです。
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単行本p.133


 わかる。


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愚痴を自分で言っているうちに、引っ込みがつかなくなってくる場合です。あ、引っ込みがつかなくなってるな、と自分で自覚できるうちはまだいいですが、気がつかないうちに、ストレスを増幅させていることもあります。もともと、それほど怒っていないことでも、誰かに伝えようと一所懸命しているうちに、自分で自分の話術にはまり、ささいな嫌なことが、生活を左右するむかつきに変わってしまうのです。
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単行本p.33


 わかる。というか、「わかる」以外の言葉が出て来ない。

 誰かに悩みを話すこと自体がストレスを増幅させる、その上、その誰かがまた新たなストレスを与えてくる、という苦しみ。「悩みは人に話すと楽になるよ」などと言う人は、くよくよ族の静かな怒りを知らないのか。というか、知られないように怒ってるわけですが。


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 自分自身のコミュニケーション能力や、会話における耐久力(個人的には、傷つきすぎないことや、言葉の裏を読みすぎないでいられること)は、明らかに小学一年ぐらいの時をピークに下り坂であるように思えます。とりあえず女の子となら(時には男の子でも)誰とでも友達になれる、と信じていたあの頃に戻りたい、と切に思うこともあります。
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単行本p.97


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自分は他人に何でも言っていい、と思っている人が、世の中には一定数います。相手に対して不快だと思ったこと、納得できないことをそのまま口にして、相手の非を咎める形で相手を変えようとする人です。感じたことをそのまま言うのは、特に悪いことでもないのですが、困るのは、相手の悪いところを指摘したり、否定して変われと言うことを、一つの踏み込んだフランクなコミュニケーションととらえているところです。(中略)こちらをひどく非難して辟易させておいて、こちらがさっと目の前で気持ちのシャッターを下ろすと、さびしい一人遊びの下手な子供のようにまとわりついてきます。否定か取り込みかと距離が伸び縮みし、懐にもぐりこもうとばかりしてきます。そして、時間や、こちらの自尊心の欠片といったものを奪って持ち帰ります。
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単行本p.138


 というわけで、ここまで読んでイラっとした方には向いてない本だと思います。「わかる」という方が読むと、悩みが少しは軽くなるかも知れません。もちろん、二度寝シリーズなど著者のこれまでのエッセイ集が気に入った方にはお勧めです。


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 本書で記述されていることはほとんど、わたしがわたし自身に言い聞かせるようにして書いていることばかりで、(中略)この文を読んでくださっている方々よりも不器用なわたしのおろおろやくよくよの実態の報告が、少しでもみなさんの心の落ち着きの力になることがありましたら幸いです。
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単行本p.160、161



タグ:津村記久子
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