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『短歌ください 君の脱け殻篇』(穂村弘) [読書(小説・詩)]


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君が好き剛力彩芽よりも好き剛力彩芽はその次に好き
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カレー好き昨日も食べたカレー好き今日は餃子明日はカレー
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犬の真似するからみてて空はまだ灰色だからわたしをみてて
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カバーなく超能力の開発本読むOLと終点まで行く
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マンホールにひとりひとつのぬいぐるみ置いてこの星だいすきだった
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 「ダ・ヴィンチ」誌上にて募集された、読者投稿による短歌の数々と、歌人の穂村弘さんによる選評を収録したシリーズ第三弾。単行本(角川書店)出版は2016年3月です。

 連載の第61回から第90回までと特別篇2つをまとめたものになります。ちなみにこれまでのシリーズ紹介はこちら。


  2016年03月30日の日記
  『短歌ください その二』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-03-30


  2014年06月25日の日記
  『短歌ください』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-06-25


 作品は「本」「コンビニ」「忍者」といった毎回指定されるテーマに沿ったものと、自由枠とに分かれています。


 まず今回は、徹底した技巧派というか、短歌形式を使ったパズル的な作品が目につきました。

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(7×7+4÷2)÷3=17
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「SAKE AND TEARS AND MAN AND WOMAN」歌うEIGO KAWASHIMA
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 前者の数式は、これが短歌形式だということに気づくのは難しそう。念のため答えは「かっこなな/かけるななたす/よんわるに/かっことじわる/さんはじゅうなな」ですが、数式としても計算が合っていればさらに素晴らしかったのにと無茶を言いたくなります。後者は短歌形式に気づくかという以前にまず河島英五を知ってる歳かどうかが問われます。


 続いて、選者も思わず突っ込んでしまう底抜け感のある作品。

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おすすめの本を聞かれておすすめの本と検索窓に打ち込む
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    選評より「ロボット的なまでのデクノボー感」

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君が好き剛力彩芽よりも好き剛力彩芽はその次に好き
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    選評より「突き抜けた馬鹿っぽさ」

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一日に三回ドトールに行ったじぶんのことをだめだとおもう
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    書評より「最も無色透明で純度の高い「だめ」さ」


 穂村弘さんにデクノボーと評される名誉、などと思いつつ作者名を見ると、これが木下龍也さんなので、やっぱすごい人はいつもすごいなと。他にも木下龍也さんの作品はどれも素晴らしいです。


 続いて、「あるある」「ありそう」「ないけどみんな心の中でありそうだと思ってるよね」という作品。

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カレー好き昨日も食べたカレー好き今日は餃子明日はカレー
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うわ やばい 取っ手に指が入らない ここ高級な珈琲屋じゃん
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笑いつつ「これ、ほんもの?」と指で押す。
サンプルだって信じてたから
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うつくしく笑う遺影の片隅に小さく「写真はイメージです」
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教師から自由課題の注意事項「血液による作画は禁止」
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「このほうが本気でやるでしょこいつらも」
溶けるティッシュのてるてるぼうず
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風の午後『完全自殺マニュアル』の延滞者ふと返却に来る
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 そして、必死さ、切実さ、切羽詰まってる感あふれる作品。

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犬の真似するからみてて空はまだ灰色だからわたしをみてて
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カバーなく超能力の開発本読むOLと終点まで行く
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ひらがなのさくせんしれいしょがとどくさいねんしょうのへいしのために
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家中の鉛筆を折り尽くしたと話すあなたが育てるうさぎ
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マンホールにひとりひとつのぬいぐるみ置いてこの星だいすきだった
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縁日でお面を買ったその日から兄がみるみる狂っていった
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タグ:穂村弘
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