SSブログ

『空飛ぶ男たち Men with Soles of Wind』(ソラス・デ・ヴェント) [ダンス]

 2016年5月5日は、夫婦で東京芸術劇場に行って、TACT/FESTIVAL 2016 の公演三本を鑑賞しました。最初の演目はブラジルのソラス・デ・ヴェント(Solas de Vento)による『空飛ぶ男たち』。出演者二名の70分ほどの作品です。

 二人の男が入国審査で足止めをくらい、空港から出ることも許されず、床はゴミだらけ天井からは水滴がぽたぽた落ちているような環境劣悪な留置所に放り込まれ、許可が出るまでそこで過ごすはめになります。

 いつとも知れぬ釈放の時を待って「宙ぶらりん」の生活を続けるうちに、最初は険悪だった二人も次第に打ち解けてゆき、やがて意気投合して友人となります。しかし、そんなささやかな人間関係も、冷酷無慈悲な社会システムによって押しつぶされそうに。


 サーカスの伝統的演目でいうと「空中ブランコ」にストーリー性を持たせたような作品です。

 最初、舞台上には何もなく、天井から何本かのワイヤが下がっているだけの寒々とした雰囲気。床は湿って不衛生なので、男たちはそれぞれ自分のスーツケースをワイヤから水平に吊り下げ、その上で生活するようになります。

 どうやら長期拘留になりそうだと分かると、空中床(スーツケース)の周囲にささやかな家具(服とかハンモックとか、霧吹きとか鉢植えの草とか)を吊るし、空中ブランコ状態ながらもそれなりに人間的な生活空間を作り上げてゆく、というのが最初の見どころ。

 生活空間を分け合うことになった二人の、いさかいも、和解も、交流も、ほぼすべて空中ブランコで表現されるところがミソ。言葉はありません。入管の非人道的な扱いによって殺伐としていた舞台も、最後の方になると空中に色々なものが吊り下げられ、空中ブランコで楽しげに「近所付き合い」するという、生活感と人間味あふれる暖かい場所に。

 どんなひどい境遇にあっても人間らしい生活や友情を育んでゆく人の強さが印象的ですが、もちろん月に叢雲、花に風、帝国の逆襲。果たして人が築き上げた生活や共同体は、国家による暴力に対抗することが出来るのでしょうか。

 というわけで大人も子供も楽しめ、大いに笑ってほろりとするいい作品。ただ個人的に、日本の入管がどれだけ非人道的なことをやってるかという報道の数々が脳裏を駆けめぐり、ちょっと笑えない気分になりました。


[キャスト他]

演出: ロドリーゴ・ルハン
出演: ブルーノ・ルドルフ、リカルド・ロドリゲス



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇