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『ウルトラマンデュアル』(三島浩司) [読書(SF)]

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「ウルトラ・オペレーションをうけると、二柳くんもこうなる。我ら飛び地の戦士は皆がウルトラマンだ。キミにとっては目を背けたくなる現実かもしれないが、国籍を捨て、地球を捨て、そしてヒトであることを捨てるとはこういうことだよ」
「覚悟をして、そしてここにきた」
「……そうか。頼もしい目をしてくれる。――では行こう」
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単行本p.14


 侵略宇宙人に制圧された地球。「光の飛び地」に残されたわずかな希望。だがそれも、次々と送り込まれてくる凶悪怪獣によって蹂躙されようとしている。守りきれるのか、命を、希望を、そして正義を。左腕に装着されたチャージャーが閃光を放つとき、二柳日々輝は光の戦士となる。「チェンジ・デュアル!」
 『ダイナミックフィギュア』の著者が放つ、凝りに凝った設定による新たなウルトラマン物語。単行本(早川書房)出版は2016年1月です。


 早川書房と円谷プロダクションとのコラボレーション企画、その初となる長篇作品は完全オリジナル設定による新たなウルトラマン物語です。著者は、『ダイナミックフィギュア』で巨大ロボット兵器が存在する世界を限りなくリアルに設定してみせた三島浩司さんですから、もちろん舞台は政治や外交が錯綜する「大人の事情」に支配された過酷な世界。


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 日常の堅守。それが大人たちが決めた方針。やられても、やり返さない。理性で暴力の報復連鎖を回避する。正義は、命の前では優先されない。優先したい者だけが人類と縁を切って戦う。
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単行本p.264


 「光の国」との激戦の末、ついに地球を支配下においたヴェンダリスタ星人。光の国サイドは唯一の生存者「光の聖女 ティア」を残して全滅したが、ヴェンダリスタ星人サイドもわずか数名と宇宙船一隻が残ったのみ。双方とも故国からの「援軍」を待つという膠着状態に陥った。そこに地球人類の希望(つけいる隙)が残されていた。


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 日本政府はティアと協議のうえ、ここで苦肉の策を実行する。ティアに練馬区の被爆地を支配してもらうのだ。つまりティアを地球の侵略者と位置づけ、ヴェンダリスタ星人に対して体裁を保つ。(中略)エネルギーが枯渇すれば、飢餓して死んでもらう。非常に消極的ながらティアに対する攻撃だ。これでヴェンダリスタ星人を納得させたかった。
 ティアも事情をくみとり、被爆地を光の国の領土として宣言する。こうしてここに宇宙スケールの飛び地が誕生したのだ。
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単行本p.54


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 ヴェンダリスタ星人は怪獣を地上に送りこんで世界を混乱させると脅してきた。それが神出鬼没では絶対に困る。人々は常にビクビクしながら生活をしなくてはならないし、こどもたちを安心して学校に送りだすことなどできなくなる。いったん世界は中立を宣言したのだから、ヴェンダリスタ星人の目標はティアに集中される。怪獣の出現を飛び地という局地に限定させることができる。ティアが侵略者で、ヴェンダリスタ星人に救世主の名誉をあたえることができる。
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単行本p.61


 「光の国」こそ侵略者、ヴェン様は救世主でございます。どうぞ思う存分「飛び地」を叩いてやって下さいませ。地球人類も及ばずながら支援いたしますが、何しろほれ、そこはそれで色々と……、というスタンスを堅持する宇宙規模で厚顔な人類。しかし苦しい台所事情ゆえ、すべて承知の上で空気読んでくる侵略宇宙人。大人の世界。


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我々ヴェンダリスタは感情で行為しない。憎しみで戦わない。侵略を楽しまない。あくまでも事業であり、仕事といったほうがわかりやすいかな。
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単行本p.381


 怪獣vs懐柔。癒着と談合。建前堅固と腹の探り合い。とりあえず獲得した平和と日常。だがしかし、そこに正義はあるのか。反発する若者。飲み込もうとする大人。


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「正義がこの世でもっとも尊いものではないということだ」
「もっとも尊いものってなんですか」
「それは人それぞれだ。しかし少なくとも地球人類70億の命と正義は釣りあわない。手放すに惜しまざるものだ」
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単行本p.229


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 このままでは暴動が起きてしまうと判断した日本政府は“ガス抜き”の方策を打ちだす。国民にティアと共闘する道筋をあたえたのだ。同時に人類が中立であるスタンスは保たなくてはならない。これを満たすために執られた処置が国籍剥奪だ。
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単行本p.62


 「嫌なら日本から出ていけ」というわけで、国籍を剥奪され「飛び地」に渡る人々。そこでヴェンダリスタ星人が送り込んでくる怪獣からティアを守る、正義を守るのだ。内心では応援しつつ、立場上「敵対」している日本政府がくだす無慈悲な「経済制裁」。

 正義、それは想像を絶する苦難の道だった。


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私たちは地球を救いたいという思いでここにやってきたわ。人であることも捨てるという、極めて強い決意をもって。だけどそれでも甘かったのよ。――ビッキー、現実とはこういうものよ。
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単行本p.91


 孤立無援、四面楚歌。そして急激に枯渇しつつある残存エネルギー。ジリ貧のなかで、それでも戦い続ける「飛び地」の人々。決して屈しない者、諦めない者はいる。そして心は受け継がれる。


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「いまできる最善を尽くせ。そうすれば、どん底からそれ以上に悪くはならねえ。なにがベストなのかを考えろ。そして動きだせ。少々おっちょこちょいでもかまわねえ。ミスったら、オレが怪獣やヴェンダリスタを叩いてとり返す。それがヒーローってもんだろ。オレがミスったら、おまえがヒーローになってとり返してくれ」
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単行本p.288


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「チェンジ・デュアル!」
 デュアル・チェンジ・チャージャーが青く爆発する。日々輝は光の渦を巻きこみながら巨大化していった。
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単行本p.206


 双方とも最初からジリ貧状態、ストーリーが進むにつれてどんどん苦しくなってゆき、最終決戦の頃には「ついに送り込む怪獣が尽きたので最後は自分たちで殴り込み」vs「もうバリア張るエネルギーさえ残っていないのでひたすら籠城」という戦いに。


 いわゆるドラマパートには不満も残りますし(登場人物の書き分けが不足しているせいか、みんな微妙に印象が薄いとか)、特撮パートも『ダイナミックフィギュア』同様わざとらしい盛り上げを回避する傾向が強く、何度も登場する怪獣対決シーンがいつもあっさり薄味で終わってしまい残念。

 ただ、読後感としては意外なほど正当的なウルトラマンです。やはり現代を舞台とした大人向けウルトラマンを作るならこのくらい気合を入れて設定してほしいという作品ですし、最後のクライマックスはそれまでの地味さを吹き飛ばす勢いがあって楽しめました。個人的には『ダイナミックフィギュア』より面白いと感じました。



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