SSブログ

『希望の農場』(森絵都:作、吉田尚令:絵) [読書(小説・詩)]


――――
けど、弱った牛が死ぬたびに、
ここには絶望しかないような気もする。
希望なんてあるのかな。意味はあるのかな。
まだ考えてる。オレはなんどでも考える。
一生、考えぬいてやる。
な、オレたちに意味はあるのかな?
――――


 原発事故による「立ち入り禁止区域」となった牧場にとどまり、取り残された牛たちを守り続ける牛飼いの姿を描く絵本。単行本(岩崎書店)出版は2014年9月です。


――――
この絵本は、福島第一原子力発電所の警戒区域内に取り残された「希望の牧場・ふくしま」のことをもとにつくられた絵本です。「希望の牧場・ふくしま」では、餌不足の問題が深刻化していくなか、今も牛たちを生かすための取り組みが続いています。絵本の売り上げの一部をその活動資金として寄付いたします。
――――


 放射能汚染による立入禁止区域内にある牧場。立ち退きも殺処分も拒否して、ここで牛を守り続ける牛飼いが語る物語。

 著者は、福島原発20キロ圏内のペットレスキュー活動を追ったドキュメンタリー『おいで、一緒に行こう』を書いた森絵都さん。ちなみに単行本読了時の紹介はこちら。

  2012年04月24日の日記
  『おいで、一緒に行こう  福島原発20キロ圏内のペットレスキュー』(森絵都)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2012-04-24

 理不尽に対する怒りを直接的には表現せず、ひたすら現場にいる人の体験と思いをつづるのは本書も同じです。


――――
売れない牛を生かしつづける。
意味がないかな。バカみたいかな。
いっぱい考えたよ。
(中略)
意味をなくしたのは、牛だけじゃないぜ。
町のみんなが住んでいた家。子どもたちがかよってた学校。
おいしい米がとれるたんぼ。
魚のおよぐ海や川。きれいな空気。じまんの星空。
すべてが意味をなくした。
――――


 何の「意味」もなく突然、故郷とそれまでの人生を根こそぎ奪われたとき、人は何に意味を見出せばいいのか。読み進むにつれて、胸がつまり、涙が込み上げてきます。しかし、それにもまして、なにものにも負けない人間の強さというものが奔出してきて、その力に打ちのめされます。


――――
あしたもエサをやるからな。もりもり食って、クソたれろ。
えんりょはいらねえ。おまえら、牛なんだから。
オレは牛飼いだから、エサをやる。
きめたんだ。おまえらとここにいる。
意味があっても、なくてもな。
――――


 希望とはなにか、意味とはなにか、そして生きるとはなにか。正直、子どもには難しすぎる絵本かも知れません。国が「なかったこと」にしてまたもや意味を奪おうとしている今、むしろ大人に読んでほしい、そして考えてほしい一冊です。



タグ:森絵都 絵本
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: