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『短歌ください その二』(穂村弘) [読書(小説・詩)]

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「あーどこかにおっぱい落ちてないかな」と言う友達よそれは事件だ
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ハブられたイケてるやつがワンランク下の僕らと弁当食べる
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「元気をもらいました!もっと元気をください!」と迫り来る少女たち
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#あと二時間後には世界消えるし走馬灯晒そうぜ
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 「ダ・ヴィンチ」誌上にて募集された、読者投稿による短歌の数々と、歌人の穂村弘さんによる選評を収録したシリーズ第二弾。単行本(角川書店)出版は2014年3月です。

 連載の第31回から第60回までをまとめたものになります。ちなみに前作についての紹介はこちら。

  2014年06月25日の日記
  『短歌ください』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-06-25

 作品は「罪」「同性」「数字」といった毎回指定されるテーマに沿ったものと、自由枠とに分かれています。

 まずは学校生活や日常生活において「あるある」と感じる共感系の作品が印象に残ります。


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ジャージ着た七三分けの先生に服装検査される屈辱
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ハブられたイケてるやつがワンランク下の僕らと弁当食べる
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「あーどこかにおっぱい落ちてないかな」と言う友達よそれは事件だ
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正しさが欲しかったから25時赤信号にひとり従う
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カーテンのチェックの柄の法則を見破るだけで終わった日など
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歯ブラシをくわえて乗った体重計 重いものだな歯ブラシって
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自販機と話す女は狂ってるわけではないよ助けてココア
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アイスノンを殺して殺して殺して朝が生きろとわたしに告げる
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旅行だしちょっといいメシ食べようとコンビニでいくらのおにぎり買った
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 後から思い出す作品といえば、何となく怖いものと、滑稽なものが多いのですが、どちらがどちらか分からなくなるケースも。


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味の素かければ命生き返る気がしてかけた死にたての鳥に
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「元気をもらいました!もっと元気をください!」と迫り来る少女たち
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透明になれる薬をゴキブリに食べさせたからもう大丈夫
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私とは違うところで泣く友が私の部屋を怖いのだと言う
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#あと二時間後には世界消えるし走馬灯晒そうぜ
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飼い蛇にウサギをやる動画好きなわたしが人混みにいる
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室外機に鳩が絡まる血まみれの夢から覚めて布団から羽
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 あとね、個人的に「猫」が登場する作品にはいちいち感銘を受けてしまう癖。


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ニャアニャアと鳴いてる猫にそっくりな生き物をみな猫と呼んでる
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タイフーン過ぎた舗道で白猫に『もち』と名付けてこねまわす朝
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このオレの入浴シーンを謎として見る猫アリス牡7ヶ月
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 穂村弘さんの寸評も面白くて、ときにはそれ自体がエッセイになっていたりします。


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 目茶苦茶な字余りで、短歌の形になってないんだけど、異様なドライブ感に惹かれました。カップラーメンの出来上がりが待てなくて2分で開けて食べちゃった。たったそれだけのことを、ここまでハイテンションに詠い切ったのは凄い。
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「女子と同じ体勢をしている、それだけで何となくそわそわしています。童貞なので」との作者コメントあり。胸を打つものがありますね。遠いものや微かなものでどきどきできるって童貞の特権だと思います。
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私はゴキブリに投げ飛ばされた記憶があるんだけど、冷静に考えるとそんなこと有り得ないから、たぶんパニックを起こして勝手に吹っ飛んだんでしょうね。
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 前作における陣崎草子さんのように、個人的に気になって仕方がない作者というのは今回はいませんでした。ちなみに、「木下龍也・男・23歳」の投稿作品が何作も取り上げられていますのでチェックしてみて下さい。



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