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『SFマガジン2016年4月号 特集:ベスト・オブ・ベスト2015、デヴィッド・ボウイ追悼』(ケン・リュウ、パオロ・バチガルピ、グレッグ・イーガン) [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2016年4月号は、ベストSF2015の上位に選ばれた作家による書き下ろし/訳し下ろし特集およびデヴィッド・ボウイ追悼特集でした。また、草上仁さんの短篇も掲載されました。


『overdrive』(円城塔)
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超思考航法のコツは、意表をついた発想と、その発想地点までの強引な筋道づけにある。(中略)この航法に仕組みというものはない。超思考航法は、個々の思考空間を突破するために、通常航法の仕組み、思考のありかた自体を燃料にして推進力を得るからだ。
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SFマガジン2016年4月号p.12、

 光より速いもの、それは人の思考。だったら思考そのものを宇宙船にすれば光速を超えられるじゃん。というわけで、思考空間において発想を飛躍させることで超光速を実現する超思考航法が発見されたのであった。いかにも著者らしい奇想(高推進力)短篇。


『烏蘇里羆(ウスリーひぐま)』(ケン・リュウ、古沢嘉通:翻訳)
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 獣と機械がたがいに突進し、雪のなかでぶつかった。爪が金属の表面をこする耳障りな音がし、同時に熊の荒い息と馬のボイラーから発せられる息んだいななきが聞こえた。二頭はおのれの力を相手にぶつけた――かたや古代の悪夢、かたや現代の驚異。
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SFマガジン2016年4月号p.27

 1907年2月。ドクター中松は、伊東四朗と共に、満州の奥地で巨大な熊を追っていた。かつて北海道の地で何人もの村人と両親を殺された仇をうつために。妖獣+スチームパンクという、『良い狩りを』の姉妹篇的な傑作。


『電波の武者』(牧野修)
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「電波の武者(ラジオ・ザムライ)を集めなさい。今すぐ。今すぐ集めなさい(中略)ヤツが来たのよ。止めなきゃ。みんなで止めなきゃ。この世が終わっちゃう。すべてのこの世が終わっちゃう」
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SFマガジン2016年4月号p.36

 妄想宇宙に忍び寄る現実の影。非言語的存在から物語を守るため、電波言語で戦えラジオ・ザムライ。展開せよ異言膜、見よ夜空に溢れる悪文乱文線を。問答無用の『月世界小説』スピンオフ短篇。


『熱帯夜』(パオロ・バチガルピ、中原尚哉:翻訳)
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 そのこと自体が書くべき記事かもしれないと、屋根によじ登りながらルーシーは思った。本質的な記事だ。シャーリーンは他人の財産の略奪者に変わったのではない。フェニックスそのものが人の倫理観の指針を奪う場所なのだ。それが行き着くところまで行き、本人が腹をくくれば、人は別人になりうる。
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SFマガジン2016年4月号p.57

 水資源枯渇により崩壊しつつある街で、ジャーナリストのルーシーは廃品回収業者(要するに火事場泥棒)であるシャーリーンに取材を申し込む。だが、シャーリーンが提示した交換条件は、違法な回収作戦に協力しろというものだった。長篇『神の水』スピンオフ短篇。


『スティクニー備蓄基地』(谷甲州)
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投入された「生物兵器」は、貯蔵施設の物理的な破壊を計画している可能性があった。貯蔵された物資で核融合を引き起こし、フォボスごと吹き飛ばすつもりではないか。(中略)どんな手を使っても、阻止しなければならない。そう切実に思った。だが敵の動きは、予想以上に速かった。
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SFマガジン2016年4月号p.75

 ついに勃発した第2次外惑星動乱。火星のフォボス地下にあるスティクニー備蓄基地にいる波佐間少尉は予想外の攻撃を察知したが……。新・航空宇宙軍史シリーズ最新作。


『七色覚』(グレッグ・イーガン、山岸真:翻訳)
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いまではそこに、おなじみの色の境界を少しもはみ出すことなく、新しい細部が刻まれ、説明が付加されていた。その豊かさはたとえるなら、目の前に手のひらをかざしたら、渦状紋や肌の皺が百万の言葉や絵となって、ぼくのこれまでの人生すべてを語っているのが見えたようなものだ。
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SFマガジン2016年4月号p.85

 視覚インプラントのハッキングによる色覚の拡張(色彩分解能の大幅強化)が生み出す新たなビジョン。やさしイーガン短篇。


『二本の足で』(倉田タカシ)
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「いや、だからスパムなんだよ。シリーウォーカーの群れが、特定の人間をターゲットとして認識したら、最終段階の仕掛けとして、こういう人間のスパムが来る。知り合いのふりをして」
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SFマガジン2016年4月号p.108

 今や人間の資産はどんどん〈スパモスフィア(スパム圏)〉に吸収されているし、何と言っても最近のスパムは二本の足で歩いてくる。地に足ついたシンギュラリティですね。
 というわけで意識をAIで上書きされた人間が標的型スパムとして普通に歩いてやってくる時代、添付意識をうかつに開かないように気をつけましょう。
 移民受け入れにより他民族国家となった近未来の日本を舞台に、様々なルーツを持つ若者たちの迷いや葛藤を描く青春SF。


『やせっぽちの真白き公爵(シン・ホワイト・デユーク)の帰還」(ニール・ゲイマン、小川隆:翻訳)
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逃げてきた男という考えは(もとは王侯か、公爵かだろうと思って、いい気分になった)頭のなかに、曲の出だしのようにひっかかっていた。
「世界を統べるよりは何かの曲を書こう」と口に出してみて、その響きを舌に味わった。
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SFマガジン2016年4月号p.290

 心にかけられるものを求めて旅に出た公爵、宇宙のすべてを支配する男が最後に辿り着いた場所とは。とあるファッション雑誌で「天野喜孝にボウイ夫妻の絵を描いてもらう企画をたてたところ、天野氏がそれにはぜひゲイマンの小説をつけてほしいと依頼した」(SFマガジン2016年4月号p.282)という経緯で執筆された異色のデヴィッド・ボウイ・トリビュート短篇。


『突撃、Eチーム』(草上仁)
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フランク・エドワーズは、Eチーム三人分の特殊能力を持っている。スーパー級の工作員だ。(中略)ひょっとすると国策で遺伝子操作を受けたニュー・エイジかも知れない。何ということだ。これは、わがEチームに対する今世紀最大の脅威だ。
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SFマガジン2016年4月号p.354

 「虚言」「窃盗」「暴力」など、常人には不可能な超能力を駆使して任務を果たすヒーローチームの前に立ちはだかった最強の敵。その恐るべき能力とは。楽しいユーモア短篇。話題に乗り遅れているのではないかと思いきや、「実は本稿の原稿をお送りいただいたのは2年前」(SFマガジン2016年4月号p.343)とのことで、編集部で塩漬けにされたまま旬を逃してしまったらしい。ひどい。



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