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2015年を振り返る(4)[SF・ミステリ] [年頭回顧]

2015年を振り返る(4)[SF・ミステリ]

 2015年に読んだジャンル小説としては、シャーリイ・ジャクスンの短編集『なんでもない一日』が印象に残っています。じわじわ怖くなってくる話、不可解さゆえに記憶に残り続ける話、かと思うと一転してユーモアあふれる話。感情を揺さぶられる短篇がぎっしり。テイストが近いアンソロジーとして『街角の書店 18の奇妙な物語』も熱烈推薦です。

『なんでもない一日 シャーリイ・ジャクスン短編集』(シャーリイ・ジャクスン、市田泉:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-11-04

『街角の書店 18の奇妙な物語』(中村融:編)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-06-05


 海外SFで素晴らしかったのは、まずはル=グィンの短篇集『世界の誕生日』。現実とは異なるジェンダーに基づいた社会で起きる情熱的な物語の数々が、私たちの思い込みを激しく揺さぶってくれます。世代宇宙船の「中間世代」を描いた中篇も心に残ります。

『世界の誕生日』(アーシュラ・K・ル=グィン、小尾芙佐:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-12-11


 水資源枯渇による環境難民問題が深刻化している近未来の米国南西部を舞台に、謀略と裏切りが渦巻く苛烈な水利権争いを描くパオロ・バチガルピの長編『神の水』も素晴らしい。環境危機に瀕した世界を描く名手に相応しい傑作です。

『神の水』(パオロ・バチガルピ、中原尚哉:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-11-06


 「意識のアップロード」技術を具体的にどのようにして実現するのか、その最初期の開発過程を意外に感傷的に描くイーガンの長編『ゼンデギ』。不老不死、世代宇宙船といったSFの人気題材と、文化摩擦や政治問題、そして愛・信仰・人間性をめぐる真摯な問いかけを、組紐のように精微に、美しくまとめ上げたケン・リュウの短篇集『紙の動物園』。どちらも素敵です。

『ゼンデギ』(グレッグ・イーガン、山岸真:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-07-17

『紙の動物園』(ケン・リュウ、古沢嘉通:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-06-19


 スパイアクション、スチームパンク、クライムサスペンスなど、様々なジャンルの美味しいところを集めて破綻ぎりぎりの際を暴走する『エンジェルメイカー』(ニック・ハーカウェイ)。UFOと黒服の男たち、秘かに操られてきた歴史、社会に紛れ込んでいる人間モドキなど、陰謀論とパラノイアの世界を真正面から描く『楽園炎上』(ロバート・チャールズ・ウィルスン)。色物というか、際物というか、どちらも個人的には大好きです。

『エンジェルメイカー』(ニック・ハーカウェイ、黒原敏行:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-12-25

『楽園炎上』(ロバート・チャールズ・ウィルスン、茂木健:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-11-20


 古典の復刊としては、何と言ってもスタニスワフ・レムの『ソラリス』新訳。モノクロめいた印象が強かったソラリスが、どぎつい色彩あふれる世界へと上書きされてゆく興奮。ソラリス学の迷宮も新鮮に感じられます。

『ソラリス』(スタニスワフ・レム、沼野充義:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-07-24


 他にジョン・ヴァーリィの傑作選、シリーズ物では『テメレア戦記』の最新刊、などが印象に残っています。

『逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作選』(ジョン・ヴァーリイ、浅倉久志・他:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-11-27

『テメレア戦記VI 大海蛇の舌』(ナオミ・ノヴィク、那波かおり:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-04-03


 国内では、まずは上田早夕里さん。「妖怪探偵・百目」のシリーズが意外に短く完結してしまったのはちょっと残念。『薫香のカナピウム』も良かった。

『妖怪探偵・百目3  百鬼の楽師』(上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-11-24

『妖怪探偵・百目2 廃墟を満たす禍』(上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-04-14

『薫香のカナピウム』(上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-03-06


 藤井太洋さんも、引き続き注目を集めた年でした。ビットコインなど仮想通貨をテーマとした『アンダーグラウンド・マーケット』、大型システム開発の現場をリアルに描いた『ビッグデータ・コネクト』、明暗くっきり分かれる二作とも楽しめました。後者はマイナンバー問題を扱ったタイムリーさもあって、大きな話題となりました。

『ビッグデータ・コネクト』(藤井太洋)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-04-24

『アンダーグラウンド・マーケット』(藤井太洋)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-04-21


 月村了衛さんの作品も、ハズレというものがなく、確実に楽しめました。

『槐(エンジュ)』(月村了衛)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-03-31

『機龍警察〔完全版〕』(月村了衛)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-03-13

『機龍警察 火宅』(月村了衛)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-02-06


 他には、音響工学SFというジャンルを切り拓いた『波の手紙が響くとき』、精神病院と火星という意外な組み合わせを幻想味豊かに描く『エクソダス症候群』、社会と住民をゼロからすべて創造することが出来るところまで進化した3Dプリンタ文明を描く『母になる、石の礫で』、宇宙からの侵略という古めかしい事態を背景に思春期のあれこれをうじうじ描くヤングアダルトSF『シンドローム』などが素敵でした。

『波の手紙が響くとき』(オキシ タケヒコ)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-06-10

『エクソダス症候群』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-07-03

『母になる、石の礫で』(倉田タカシ)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-06-23

『シンドローム』(佐藤哲也、西村ツチカ:イラスト)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-01-21


 そして、年刊日本SF傑作選、SF宝石、NOVA+、といった恒例のアンソロジーも順調に発行され、日本SFの充実ぶりを印象づけた一年でした。

『折り紙衛星の伝説 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵、宮内悠介、三崎亜記)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-07-10

『SF宝石2015』(上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-08-25

『書き下ろし日本SFコレクション NOVA+ 屍者たちの帝国』(大森望:編、藤井太洋、津原泰水)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-10-09



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