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『カタツムリハンドブック』(西浩孝:解説、武田晋一:写真) [読書(サイエンス)]

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 日本からは、カタツムリとナメクジが約800種知られています。その多くは日本の固有種です。南北に長く、島が多い日本で、カタツムリは多様に種分化を遂げたのです。
 本書では、その中で見つけやすいと思われる147種(亜種を含む)を取り上げました。
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単行本p.2

 カラを背負って目を伸ばす。愛嬌あるその姿ゆえに昔から「でんでんむし」などと呼ばれ親しまれてきたカタツムリ。その中には、殻が小さくて身体が入らない種や、殻が毛まみれの毛深い種、肉眼では見つけにくい極小種など、様々なものがいる。日本に生息するカタツムリ800種から選ばれた147種を記載するカラー図鑑。単行本(文一総合出版)出版は2015年7月です。


 カタツムリというと好き嫌いが分かれるらしく、苦手な人はもう見るのも嫌なようです。本書はカタツムリ図解なので、もちろん全ページにカタツムリ(およびナメクジ)のカラー写真が所狭しと掲載されていますので、苦手は人は避けた方がいいかも知れません。

 写真を見るくらいは平気だけど、特に興味はないし、親しみも感じない、という方には、エリザベス・トーヴァ・ベイリーのエッセイ『カタツムリが食べる音』をお勧めします。一読すれば、カタツムリのイメージが変わる名著です。ちなみに単行本読了時の紹介はこちら。

  2014年10月23日の日記
  『カタツムリが食べる音』(エリザベス・トーヴァ・ベイリー、高見浩:翻訳)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-10-23

 というわけで、本書は、日本で見られる147種のカタツムリについて、名称、サイズ、生息域、生態、発見の難しさなどのデータと共に、すべてカラー写真付きで紹介する図鑑です。

 カタツムリは地域分化が大きく、すべての掲載種についてカラー写真をとるためには日本全国を飛び回る必要があったとのこと。それはそれは大変だったようで、写真家の武田晋一さんが色々と苦労話を書いているのが印象的です。


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 全国を巡るカタツムリ探しの旅で怖いのは、ヒル、ダニ、ハブ、ヒグマでした。ヒルはとにかく気持ちが悪い。しかし命の危険はありません。その点、ダニやハブは運が悪ければ命を失いますが、最も怖いのはヒグマです。
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単行本p.80


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 ルーペを片手に、落ち葉の中に潜むケシガイを探しました。ケシガイは殻の長さが約2mmと極小。おまけに半透明なのでとても見にくいのです。近年、若干の老眼で小さなものには自信がなく、仲間に応援を頼んだものの、ようやく見つけたケシガイっぽいものを見せると、
「小っさ、これは心が折れる」とみな言葉を失いました。
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単行本p.42


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普遍種なのに苦労したのが、主に九州南部に分布するカタギセルでした。見つけたと思ったら誤同定で、出直しが2度。3度目の正直でようやく数匹見つけても、今度は殻がボロボロで撮影には不適。探して探して宮崎の森の中を歩き回るうちに、思わぬ珍種サダミマイマイに出くわしました。「今はお前じゃないんだ。それどころじゃないんだ!」。普遍種のカタギセルに苦心をしているというのに、檄レアなサダミが何匹も出てくるのですからなんたる皮肉。
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単行本p.109



 「最も怖いのはヒグマ」「これは心が折れる」「それどころじゃないんだ!」といった言葉の数々に、尋常ではない苦労がしのばれます。

 見つけるだけでも一苦労なのに、さらに「図鑑に掲載するにふさわしい写真を撮る」というのがまた難しい。何しろ相手はモデルじゃなくて野生生物。ボロボロになっても生き延びてきた猛者たちです。


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 ありのままでいいじゃないか、と思う反面、殻に傷がない、きれいな個体を撮影したいと思うのが写真家の性。ところが、キセルガイの場合は傷みのないきれいなものがなかなか見つかりません。倒木をひっくり返すと目的の種類が何匹も出てくる場合でも、しばしば殻が傷んでいるのです。キセルガイは寿命が長く、そうなってしまうのだそうです。
 その点、ハゲキセルという命名はすばらしい。「禿げ」なのだから、殻が傷んだハゲハゲの個体でもかまいません。いや、ハゲハゲの個体が望ましいのです。
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単行本p.47


 この「長く生きていると殻が傷んでしまう」という現象は、写真家だけでなく学者も困らせるようで、西浩孝さんはこのように書いています。


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以前、図鑑に載っていない檄レアなカタツムリを見つけた! と大興奮したら、オオケマイマイの毛が取れてしまった個体に過ぎなかった過去を、この場を借りて告白しておきます。
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単行本p.71


 ちなみにこの文章には、わざと「毛の取れたオオマイマイ」の写真が添えられており、写真家が散々苦労して撮った写真を一目見て「誤同定」と却下したりする学者への「しっぺ返し」感が高まります。

 他にも、カタツムリの探し方、飼い方なども掲載されており、カタツムリに興味があり、また見つけたカタツムリの名前を知りたいという方にはぴったりの図鑑です。



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