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『パラレルワールド御土産帳』(穂村弘、パンタグラフ) [読書(教養)]

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先日、パラレルワールドに行って来た。
あちらの世界は、こちらの世界と、ぱっと見はだいたい同じ。
日用品でも、ビジネスツールでも、こちらの世界にあるモノはほとんどあちらの世界にもある。
ただ、よく見るとなんだか微妙に違っている。
進化の分岐点における運命の誤差が、そのような違いを生み出したのだろう。
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単行本p.4


 持ち運びできるレコードプレーヤー「異Pod ANALOG」、キーボードを打つと紙に鉛筆で文字を書いてくれる「手書きワープロ」、箒と塵取りをせっせと動かして部屋を掃除してくれる「ルンパ」など、日経パソコンの表紙を飾ったあの不思議な製品の総合カタログ。単行本(パイインターナショナル)出版は2015年6月です。


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『道具』は便利であるべきもの。人の仕事や生活を助けてくれるものでなければなりません。でも、その狙いは必ずしも成功しているとは限りません。便利さが行き過ぎたり、方向性が間違って発明されることもあるのです。

彼らは完璧ではなく、なんだかおせっかいで無駄が多いのです。とても効率的とは思えません。でも、それが個性となり、道具なのに人格を持ち始めます。彼らの生真面目さは不思議と憎めないキャラクターを形作り、一人歩きし始めるのです。
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単行本p.57


 この世界とは微妙にずれたパラレルワールドに行ってきた歌人の穂村弘さんが、お土産に持ち帰ってきた「ひみつどうぐ」の数々を掲載した総合カタログ。

 というか、実際には、日経パソコンの表紙を飾ったあの何だか脱力してしまうデジタルアナクロ製品(制作したのはアーティスト集団『パンタグラフ』)の写真集です。穂村弘さんが紹介文を書いています。

 日経パソコンの表紙は当然「絵」だと(それもCGI だと)思っていたのですが、実は本当に制作され実物として存在する(機能は別です)アート作品だったと知って、正直驚きました。巻末に制作過程の写真が多数収録されていますので、工作とかキネティック・アートに興味がある方は要チェック。

 収録されている「どうぐ」ですが、まず目につくのが最近のデジタル製品と昔懐かし製品がごっちゃになってしまったモノ。携帯型ブラウン管テレビ、真空管式無線ルーター、持ち運びできるレコードプレーヤー「異Pod ANALOG」、キーが「0」と「1」しかない「デジタルタイプライター」、キーボードを打つと紙に鉛筆で文字を書いてくれる「手書きワープロ」、箒と塵取りをせっせと動かして部屋を掃除してくれる「ルンパ」、といった具合です。

 風刺作品としては、すべて再生紙で出来たノートPC「エコ・ノート」、化けて読めなくなった文字を完全収録した「文字化け辞典」、駒がすべてフォルダアイコンの形になっている「デスクトップ将棋」、USBやプリンタやディスプレイなど様々なコネクタが十徳ナイフみたいに付いている「パソコン挿入欲求解消器」、初心者マークの形をしたスマホ「若葉フォン」、タップの気分だけ味わえる「ふんいきタブレット」、モザイクをかけたように見える桜「モザクラ」などが印象的。

 意外に実用性があるというか、実際に作れば売れるかも知れないと思わせる製品もあります。赤と茶色を基調とした秋の落葉色キーが並んだ「紅葉キーボード」、薄型液晶ディスプレイで出来た壁掛け「日めくらないカレンダー」(これ、NHK Eテレの番組、0655や2355にも、よく出てきますよね)、キーボード型の氷が作れる「キーボード製氷機」、空中を漂う照明「ドローンランタン」、ありがちなマウスの形をした和菓子「マウス菓子」、スマホと見せかけて開くと双眼鏡になる「スマホグラス」。雪玉の高速連射が可能な「雪合戦ロボット(スキー付き)」、いわゆる「みくじ棒」がUSBメモリになっていて占いの内容がデータとして入っている「USBおみくじ」とか。

 マジ実用性があるものの、現代の技術では製品化困難という惜しい製品も。単行本を入れると圧縮して豆本にしてくれる「書籍データ圧縮機」、シュレッダーにかけた書類を復元してくれる「逆シュレッダー」、大量の付箋紙から緊急性が高いものを拾ってくれる「付箋リマインダー」、自分自身を組み立てる「セルフビルド・電子ブロック」。ほしいなあ。

 穂村弘さんの紹介文がまた、「不調の時は叩くと直ります」「親日派外国人に人気」「真空管なので電波の味わいが違う」「夫、妻、愛人で楽しめる」「一段揃うとデータが消える」「血と汗と涙を詰めて保存できます」「引き金を引くと寛永通宝が飛び出す(贋金判別機能付き)」といった具合に、ノリノリです。

 というわけで、日経パソコンの愛読者だった方、懐かし系の変な道具に心ひかれる方、現代アートに興味がある方、穂村弘さんのエッセイは漏れなく読むという方まで、いろいろどうぞ。


タグ:穂村弘
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