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『波の手紙が響くとき』(オキシ タケヒコ) [読書(SF)]

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 絡み合う人の繋がりが、被害をこんな喫茶店にまで拡大させた。でもそれとは異なる希望の糸が、すべての被害者をひとつに繋いでもいたのだ。
 糸の名は----武佐音響研究所。
 音にまつわる問題を、ほぐして解いて手を加え、解決するのを仕事とする、小さな会社。
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Kindle版No.2780

 反響定位により作り出された風景。聴こえるのに録音できない囁き声。人を破滅へと誘う危険な歌。そして聴く者の聴覚を奪う彼方からの音。それぞれに個性的な武佐音研のメンバー三名が、「音」にまつわる怪事件を解決してゆくSFミステリ連作短篇集。あるいは響きあう波が心をつなぐ長篇SF。単行本(早川書房)出版は2015年5月です。


「どんな機械やソフトウェアを使っても、人の気持ちなんて測れはしないんです」
(Kindle版No.260)

「あんたの依頼、俺たち武佐音研が叶えてみせるぜ」
(Kindle版No.309)

「では、不肖私、鏑島カリンが、本日の実験についてばばんと説明させていただきます」
(Kindle版No.343)


 武佐音研のメンバー三名が「音」にまつわる怪事件を解決してゆく、「怪奇大作戦」みたいな連作短篇集。

 ではあるのですが、それぞれの読み切り短篇にこっそり張り巡らされていた伏線とテーマが最終話で見事に結実し、全体として一冊の長篇SFとして読める仕掛けになっています。連作ミステリ短篇集としても素晴らしく、長篇SFとしても読みごたえのある、傑作です。


『エコーの中でもう一度』
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 誘拐事件や失踪事件の際、通話録音の背後にある環境音から相手の場所を特定する作業を依頼されることがある。いわゆる環境音解析だ。街宣車の声、種が特定できる鳥や虫の鳴き声、電車の踏切の音。そういったかすかな外部音を抽出し増幅し特定できれば、そこから捜索対象の土地を絞り込んでいくことが可能になる。
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Kindle版No.119

 失踪したミュージシャンの居場所を探してほしい。依頼を受けた武佐音響研究所のメンバーたちは、残された主観音響録音から驚くべき解決策を見い出す。主要メンバーが紹介されると共に、全体を通して響きわたるテーマが提示されます。


『亡霊と天使のビート』
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 毎晩のように酷くうなされ、原因不明の病に伏せる九歳の少年と、その彼が悪夢に苦しむ寝室で、虚空からわき出してくるという死者の囀り----しかもその声は、耳には聞こえるのに、どうやっても録音することができないという。
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Kindle版No.603

 古びた洋館、夜な夜なうなされる少年、そして耳には聴こえるのに決して録音できない囁き声。いかにも怪奇小説風の事件に挑み、心霊現象としか思えない恐怖体験にマジ泣きする鏑島カリン。


『サイレンの呪文』
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 人を、あのカマキリと同じ意志なき人形へと変えてしまう力。
 水辺へと誘い、溺れさせる、圧倒的な支配力。
 僕の奥底に淀む暗がりに居座り続ける怪物が、求めていたものはそれだった。
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Kindle版No.1995

 聴覚から人間の脳をクラッキングして、破滅へと向かわせる歌。そんなものが存在するのだろうか。その謎を追う若者は、歌そのものよりも危険な黒い誘惑に魅入られそうになるが……。武佐音研の創立メンバー二人の若き日の冒険をえがく短篇。


『波の手紙が響くとき』
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 その曲を耳にした者は、やがて音を失う----。(中略)聴くだけで難聴を発症させるかもしれないなどという物騒な曲が、もしその疑いの通りのモノであったとしたら、そしてそれがワールドワイドなネット上へと拡散してしまったら
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Kindle版No.2702、2738

 聴覚器官をゆっくりと壊死させてゆく音楽の謎を追う武佐音研。ついに突き止められたその音源は、誰も予想していなかった驚くべきものだった。ミステリあるいはホラーとして魅力的な導入から始まって、次々と視点人物を変えながら、これまでの三作を見事に結びつけ、やがてまぎれもないSF的感動へと展開する傑作。

 全体的に完成度が高く、それゆえに続編が期待できないというのが唯一残念なところ。お勧めの一冊です。


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