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『トントングラム』(伊舎堂仁) [読書(小説・詩)]

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おもしろい人と思われたいおもしろいと思われたい人じゃなく
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蝉とチョロQはあおむけでニチニチ言いながら死ぬ点で似ている
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リスニングテストが聞こえるアメです「始め」と言ったらなめてください
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 読者をくすっと笑わせる、ネット時代のキラキラ短歌。単行本(書肆侃侃房)出版は2014年12月です。

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男の子ならば直哉、女の子ならば㌧㌧㌘にしよう
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 正しく表示されているかどうか自信がないので解説しておきますと、女の子の名前は、トン トン グラム、いずれも「質量の単位」をカタカナ縮小文字で全角一文字に無理やり詰め込んだやつを、3つ並べてあります。これが表題にもなっている「トントングラム」ですね。

 キラキラですね。

 こういう感じで、いかにもツィッターなどのSNSで流れてきそうな、くすっと笑える短歌がずらりと並んでいます。まとめサイト風。

 作者の自己紹介らしい作品からして、キラキラしています。

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おもしろい人と思われたいおもしろいと思われたい人じゃなく
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母さんがおなかを痛めて産んだ子はねんどでへびしか作りませんでした
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母は連れて帰る死してなお×ボタンを連打しているおれを
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天才や猫ではないが起きてきてその2分後にPMがくる
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肛門に おしりじゃないよ 肛門に かかとおとしをされたことある
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ぼくたちできのう作った国のことききたい まずねセラミックの切手
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 そんな少年も、やがて大人への階段を駆け上がり、勢い余って踏み外して転げ落ちる、そんな人生を着実に歩んでゆきます。

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〈ササミでは太らんよな?〉に〈はず。〉とだけ返信するとき、いいなと思う
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普通って言われてる子はかわいいし男は前髪きったほうがいい
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雪見だいふく 作り方 で検索しているような子が好きである
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ぜんぶその子が答えのクロスワード作ろうとして不可能でした
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もうどこも動いてないねどうします うちに避妊具いるけど見にくる
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好きな子がとつぜん29才になってコピーのお釣りにしゃがむ
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 思わず、はっ、とするような小さな発見も、生活のあちこちに。

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この声の人は小野リサそう知った時からそこらじゅうに小野リサ
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〈この色の尿が出たら注意しましょう〉一覧表が夜景のようだ
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蝉とチョロQはあおむけでニチニチ言いながら死ぬ点で似ている
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歩きだと8年かかるらしいのでそのとき出てれば今ごろついてた
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おいやめろ どうやらこいつ ほんとうに なにもしらない みたいだいくぞ
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 わぉ、五七五七七になっているぞ、という大発見。

 さらには、妄想が止まらない系もあちらこちらに。

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〈がんじょうで象がふんでもこわれない〉の象は自分から踏みにきた
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ボタンには組体操と書かれてて押すと組体操がはじまる
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友だちでぱんぱんのバンで飲酒運転車両専用道いけばくるぱんぱんのバン
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2周目をはがしたバァムクーヘンにぼくの名字の捺印がある
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リスニングテストが聞こえるアメです「始め」と言ったらなめてください
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職員はみんな泥酔してて はぁい どぉぞ でオバマに会えた 
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誰もいないときには道でバーベキューしててもいい自動車学校
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 というわけで、いかにもネット時代の感性で書かれた、SNSで共有されることを前提としたような、おもしろい人だと思われたいという一途な思いがひしひしと伝わってくる、そんな歌集です。


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『はじめに闇があった』(長嶋南子) [読書(小説・詩)]

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早く死んでしまう夫も
暗い目をして引きこもっている息子も 職のない娘も
いっしょに住んでいるこの家族は
よその家族ではないかと疑いはじめた
夜になるとわたしの家族をかざしてうろつく
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『別の家族』より

 この人たちはなぜこの家にいるのか。家族という不可解な存在を前にして、困惑し、殺し殺され、わあわあ泣く。家族という闇を直視する、気迫のこもった家族詩集。単行本(思潮社)出版は2014年8月です。


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むっちり太った息子のからだ
シゴトに行けなくなって
部屋にずっと引きこもっている
どんどん太ってきて
部屋のドアから出られなくなった
餅を食べたら追い出さなければならない
ころしてしまう前に
家のなかに漂っている灰色の雲
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『雨期』より


 引きこもりの息子、殺したり殺されたり。

 家族というものは毎日毎日一瞬一瞬が殺し合いです。疲れ切って手を離したら、そのときすべてが終わってしまう。そんな息詰まるような家族というものを、ひたすら書き続けています。

 とりあえず、殺される前に殺します。


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ムスコの閉じこもっている部屋の前に
唐揚げにネコイラズをまぶして置いておく
夜中 ドアから手がのびムスコは唐揚げを食べる
とうとうやってしまった
ずっとムスコを殺したかった
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『ホームドラマ』より

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二階から階段をおりてくる足音が聞こえる
息子が包丁もってわたしをころしにくるのだ
ぎゅっと身が引き締まる
早く目を覚まさなくては
ゆうべは
足音をしのばせて
わたしが階段をあがっていく
ビニールひもを持っている
息子が寝ているあいだに
首をしめて楽にしてやらなくては
ぎゅっと身を引き締める
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『こわいところ』より

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自分が生んだのに悩ましい
わたしは何の心配もなく眠りたい
息子に毛布をかけ床にたたきつける 火事場の馬鹿力
なんども足で踏みつける
生あたたかくぐにゃりとした感触
大きな人型の毛布が床の上にひとやま
こんにゃく じゃがいも ちくわぶ 大根 たこ 息子
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『おでん』より


 思い切って息子を殺せばそれでもう安心かというと、そんなこともなく、家族がいる限りどうしようもありません。泣くことも出来ません。猫にもどうしようもありません。


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いっそのこと原っぱにいって
オンオン泣けば
ためこんでいたものが一気になくなって楽になるだろう
人前でひそかに泣かなくてすむだろう
まわりは新しい建売住宅ばかりで
原っぱはない
家の前の小さな空き地で大声で泣いたら
頭がおかしい人がいるどこの人だろうかと気味悪がられるだろう
部屋のなかで泣いていると猫が
よってきてなめまわしてくれるだろう
猫になぐさめられるとよけいに泣きたくなるだろう
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『泣きたくなる日』より

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安泰だと思っていた家なのに
子どもはひきこもりになっていた
傾いたらあわてて窓からとび出してきた
あさってごろには家は沈むでしょう
沈む家からはネズミが
ゾロゾロ這い出してきます
猫 出番です
わたしにはもう出番はない
舞台のそでからそっと客席をのぞき見している
猫 お別れです
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『尻軽』より

 猫との別れ。そして家族との別れ。いったい、あれは何だったのか。家族って、いったい何なのか。


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仕事を終えて家に帰ると
息子が死んでいた
猫も母もと思ったら
その通りだった
ご飯を食べさせなくていいので
調理しない
レトルトのキーマカレーを食べる
のぞみ通りひとりになったのに
スプーンを持ったまま
わあわあ泣いている
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『さよなら』より

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ついきのうまで家族をしてました
甘い卵焼きがありました
ポテトコロッケがありました
鳩時計がありました
夕方になると灯がともり
しっぽを振って帰ってくるものがいました
家族写真が色あせて菓子箱のなかにあふれています
しっぽを振らなくなった犬は 息子は
山に捨てにいかねばなりません
それから川に洗たくにいきます
桃が流れてきても決して拾ってはいけません
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『しっぽ』より


 というわけで、家族という闇を直視した作品がずらりと並んでいて、一つ読むごとに息詰まるような思いをしました。一番悲しかったのは、猫との別れを書いた詩です。以下に全文引用します。


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猫は猫でないものになりかけています

腹の手術あとをなでてやると
のどをならすのでした
荒い息をしながらまだ猫であろうとしています

キセキがおこるかもしれないと
口にミルクを含ませます
飲み込む力が弱く
わたしの腕のなかでじっとしています

重さがなくなったからだを
抱いています
わたしは泣いているのでした
猫は最後まで猫で
のどをならすのです

わたしはわたしでないものになろうとしています
のどをならします
泣いてくれるよね 猫

キセキは起こらないでしょう
季節の変わり目の大風が吹き荒れている夜です
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『大風が吹き荒れた夜』より


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『シンドローム』(佐藤哲也、西村ツチカ:イラスト) [読書(SF)]

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蒸気の手前で車両がとまった。蒸気の中で、何かが動いた。
いやな予感にぼくは震えた。これは嫌いだとぼくは思った。
これは、絶対にあってはならないことだ、とぼくは思った。
赤黒い何かが白い蒸気の下から現われた。のたうっている。
ついに姿を現わした非現実が、ぼくの前でのたうっている。
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単行本p.189

 町外れに落下した火球。続発する異常事態。いったい地面の下で何が起きているのか。でも、ぼくにとっては同じ教室にいる女の子、久保田葉子のほうがずっと気にかかるのだ。ストレートな侵略SFと「迷妄」に悩み続ける青春小説を魔法の文体で融合させた、「ボクラノSF」シリーズ最新刊。単行本(福音館書店)出版は、2015年1月です。


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「あれは隕石なんかじゃない」
「どうして、そう思うんだ?」
 ぼくもなぜか声をひそめた。
「落ちる前に、減速していた」
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単行本p.11


 町外れに落着した火球。それを目撃した四人の少年少女がその謎を解こうとするジュブナイルです。びっくりするくらいストレートな侵略SFで、設定や展開は同じく「ボクラノSF」シリーズに収録されている『海竜めざめる』(ジョン・ウィンダム)に近いものがあります。

 語り手を除く三人は、それぞれこんな風にコメントしています。


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「町の近くに隕石が落下する。アホウがそれを見物に行く。アホウが隕石を棒でつつくと、隕石がぱっくりと割れて、中から何かが飛び出してくる(中略)『ブロブ』。または『人喰いアメーバの恐怖』、または『絶対の危機』。1958年のアメリカ映画。スティーブ・マックィーン、知ってるか?」
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単行本p.22

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「あたし、もしかしたらちょっと怖いかも。どうして怖いのか、よくわからないけど。でも、これってなんだか気味が悪い。(中略)なんて言うのか、人間性からかけ離れた、何かものすごく無情なものがやって来たっていう感じがした。最初からそう思ったわけじゃなくて、時間がたつにつれて、そういう気持ちが強くなった」
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単行本p.41、51

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「正直なところを言うと、おれはあれがあそこに落ちているのが気に入らない。なんでもいいから、さっさと正体をあきらかにして、どっかに消えてほしいと思ってる。そうでないと、おれが落ち着かない」
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単行本p.94


 ところで本作には他の侵略SFとは決定的な違いがあって、それは「語り手が人類の危機より何より、気になっている女の子のことばかり考えて、ぶっくぶくに肥大したエゴを抱えてうじうじ悩み続ける」という点。どんな異変が起きようと、語り手はひたすら自らの内にある「迷妄」と戦い続けるのです。まるでそれこそが侵略者であるかのように。


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 いかにも、真相は迷妄にあった。迷妄はぼくの衝動に呼びかけ、ぼくから精神的な人間という虚飾を剥ぎ取り、獣の本性をさらそうとする。卑劣で、そして狡猾でもある迷妄は得意のいつわりをおこなうことで、暗い影の下にも精神的な世界があると言葉たくみにささやくが、事実から言えば、そこには精神的な要素などかけらほどにも転がっていない。ただ、獣じみた非精神的な期待と願望だけが渦巻いていて、ひと一人を隠せるだけの大きさもない。
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単行本p.117


 彼が持て余している「迷妄」というのは、

同じクラスの女子である久保田葉子ともっと親しくなりたいとか、
出来ればデートしたいとか、
手を握れたらいいなあとか、
久保田が他の男子と仲良くなったら嫌だとか、
自分はそんなみっともない嫉妬をするような非精神的な人間じゃないとか、
もしかしたら久保田はぼくのことを嫌っているのかも知れないとか、

とにかく宇宙からの侵略とは何の関係もない、思春期のあれこれです。

 やたらと大仰で、繰り返しが多く、古代ギリシア叙事詩を思わせる著者特有のあの魔法の文体で、「迷妄」が執拗に書かれます。謎の異変とかもうどうでもいい感じで。

 もちろんエイリアンだか何だか正体不明の相手はその間もどんどん侵略を進めているわけで、ついに学校の敷地が陥没、校舎ごと地面に引きずり込まれるという危機的状況に。脱出不能、水位を上げ続ける地下水、攻撃してくる触手。それでも語り手が戦うのはあくまで自らの「迷妄」。もう少しエイリアンや人類のことを考えてやれよ、と思いつつも、まあ十代の内向的な少年って、こうだよね。

 というわけで、ウィンダムを期待して読むと「ええ?」となるかも知れない、鬱屈した青春小説です。一部の若い読者には突き刺さると思います。


タグ:佐藤哲也
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『プラスマイナス 150号』 [その他]

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 お父さんに会えてよかったです。
 いっしょ忘れないままです。
 そしてお父さんが知り合った人の心に残ります。
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 『プラスマイナス』は、詩、短歌、小説、旅行記、身辺雑記など様々な文章を掲載する文芸同人誌です。配偶者が編集メンバーの一人ということで、宣伝を兼ねてご紹介いたします。

[プラスマイナス150号 目次]
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巻頭詩 『我母』(深雪)、イラスト(D.Zon)
短歌 『宇宙温泉 56』(内田水果)
随筆 『花蓮名産 バター風味漂流木 5』(島野律子)
随筆 『一坪菜園生活 33』(山崎純)
詩 深雪とコラボ 『オモチャ』(深雪のつぶやき(+しまの+みか))
特集 めざせ150号 まる25年!! 50号と100号の表紙再掲
     50号表紙より『風と木』(宇野水晶)
    100号表紙より『憧れ』(深雪)
詩 『わたしへと還るみち』(琴似景)
詩 『帰省』(島野律子)
詩 『天国と地獄』(多亜若)
随筆 『香港映画は面白いぞ 150』(やましたみか)
イラストエッセイ 『脇道の話 89』(D.Zon)
編集後記
 「レシピをご紹介」 その2 島野律子
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 盛りだくさんで定価300円の『プラスマイナス』、お問い合わせは以下のページにどうぞ。

目黒川には鯰が
http://shimanoritsuko.blog.so-net.ne.jp/


タグ:同人誌
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『近藤良平のモダン・タイムス』(近藤良平:振付・演出、小林十市) [ダンス]

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彼の本当の名前は、むっしゅイレブン。
分かるね、小林十市(じゅういち)だけに。
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 2015年1月17日は、夫婦で東京芸術劇場プレイハウスに行って、近藤良平さんの新作公演を鑑賞しました。一般公募で集まった参加者を含め、総勢40名が歌い踊りスベりまくる楽しい舞台です。公演時間は約2時間。

 壁で分割された巨大な回り舞台が設置され、それぞれの分割区画でコント風の寸劇やらダンスやらが披露されます。舞台はゆっくり回転を続け、それに合わせて次から次へと出し物が続く、という賑やかな仕掛けです。背後の壁や(後半に舞台へ降りてくる)半透明の環状スクリーンに映像が投影され、これが劇的効果をもたらします。

 最初のうちは意味不明だったり、あからさまにスベったり、脱力気味だったりして、観客も期待のハードルをぐんぐん下げてしまうわけですが、すべて織り込み済。後半に向けてぐんぐん面白くなってゆき、やがて有無を言わさぬイキオイで感動的に、盛り上がってゆきます。

 『コンドルズ』の公演でウケたネタの再演から、ピナ『コンタクト・ホーフ』ごっこまで、観客を楽しませるためなら何でもアリというサービス精神はお見事。実際、大いに楽しみました。

 篠原ともえさんがデザインした派手な、はじけまくった昭和モダン風の衣装は、これがすごいインパクト。総勢40名の出演者がそれを着て踊りまくるのです。ご本人の見せ場もばっちりで、よくは知らないのですが、シノラーの皆さん大喜びだったんじゃないでしょうか。

 近藤良平さんによる小林十市いじりも執拗で、こちらもファンは大喜びでしょう。猫耳を着けさせたり(ベジャールのフィリックス・ザ・キャットごっこ、たぶん)、サングラスをかけさせたり、おいイレブン(じゅういち)とか呼び捨てにして、自分の演奏に口笛で伴奏させたり(そういう自分はジョン・レノンごっこ)、二人で互いによっかかって立って篠原ともえさんに「そう、これが、コンテンポラリーダンスなんです!」とか叫ばせたり。

 また、いちいち大生真面目な顔でつきあう小林十市さんもナイス。もちろんちゃんとした凄いダンスも何度か披露されます。まずは腰痛ネタで笑わせておいて、近藤良平さんとのデュオ、そしてビゼーのファランドールをバックにかっこいいソロダンスが炸裂。最後にはアイドル曲に乗せてアイドル振付でちゃーらちゃーら楽しそうに踊っている姿が印象的でした。素敵。

 たむらぱんさんの演奏や踊りもキマっていたし、一般公募の参加者も、皆さん踊れること踊れること。贅沢な正月公演という感じで、正月気分ぶり返し。今年も幸先の良いスタートを切ることが出来ました。

[キャスト]

構成・演出・振付: 近藤良平

出演: 北尾亘、小林十市、近藤良平、篠原ともえ、清水ゆり、スズキ拓朗、たむらぱん、デシルバ安奈、那須野綾、野坂弘、三輪亜希子、
一般公募の皆さん


タグ:近藤良平
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