SSブログ

『緑の祠』(五島諭) [読書(小説・詩)]

 「三毛猫はいつも退屈(地下街を抜け)三毛猫はいつも憂鬱」

 「女の子に守られて生きていきたいとときどき思うだけの新世紀」

 「歩道橋の上で西日を受けながら 自分yeah 自分yeah 自分yeah 自分yeah」


 こじらせない若さでもって新しい抒情を見つける歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2013年11月です。

 学生時代、および二十代のときに作った作品を集めた一冊だそうで、とにかく若さというものがあふれています。青春です。

 「女の子に守られて生きていきたいとときどき思うだけの新世紀」

 「シャワーでお湯を飲みつつ思うぼくの歌が女性の声で読まれるところ」

 「もう一度話したいだけ コンビニのユニセフ募金箱に10円」

 「ノルウェーのホラー映画のレズシーン 記憶を霙のように濡らして」


 いや、青春とはいえ、もちろん他のことも考えていますよ。

 「大吉を引けばいいけど引かないと寂しさが尾を曳く、でも引くよ」

 「夕映えは夕映えとして 同世代相手に大勝ちのモノポリー」

 「歩道橋の上で西日を受けながら 自分yeah 自分yeah 自分yeah 自分yeah」

 「夜も明るい公園を見ていると、就職活動しようと思う」


 世界に向けるまなざしもつい妄想に濁ってしまう、それは青春だから。

 「草原の中に大きな門があり疑いもなく子供がくぐる」

 「真っ青に夏野ひろがる(ドラム缶の中身は何だ)夏野ひろがる」

 「新興住宅地が怖いその家とその家のあいだの一拍が」

 「はなわビル2Fの気功教室は気功が人をたしかに変える」

 「十五分くらいで雪の結晶をつくる装置が原宿にある」


 その屈託あれどこじらせてはいない若さでもって、今まで誰も気づかなかった抒情と表現を見つけてゆくところが素晴らしい。

 「美しくサイレンは鳴り人類の祖先を断ち切るような夕立」

 「久々に銀だこのたこ焼きを買う雨の大井で大穴が出る」

 「朝焼けのジープに備え付けてあるタイヤが外したくてふるえる」

 「「罪と罰」の「罪」ならわかる 蝶が舌を伸ばす決意のことならわかる」

 「子供用自転車とてもかわいいね、子供用自転車はよいもの」


 ときどき繰り返しワザを仕掛けてくる作品もあったり。

 「最高の被写体という観念にこの写真機は壊れてしまう」

 「見捨ててはいけないという観念にこの写真機は壊れてしまう」

 「アルジェリアのオレンジを剥くオレンジの中にはふるさとがアルジェリア」

 「ナイジェリアのオレンジを剥くオレンジの中にはかなしみはナイジェリア」


 そして、個人的に大好きなのが、猫の歌。猫はよいもの。

 「昔見たすばらしい猫、草むらで古いグラブをなめていた猫」

 「猫に逢う時間に散歩していたら不思議な猫に遭ってしまった」

 「白猫のひとみは遠いヨットを追う 遠いヨットは白猫になる」

 「花火の音におどろいて猫が身構えるこの一夏を長いと思う」

 「三毛猫はいつも退屈(地下街を抜け)三毛猫はいつも憂鬱」

 「旅先の猫きょう明日その先の日々さようならさようなら猫」

 さようならさようなら猫。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: