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『夏のルール』(ショーン・タン、岸本佐知子:訳) [読書(小説・詩)]

 「去年の夏、ぼくが学んだこと」

 ちょっと怖くて不思議で、そして懐かしい異世界に迷い込んでしまう少年たちの夏。『アライバル』や『遠い町から来た話』の著者による魅力的な絵本です。単行本(河出書房新社)出版は2014年7月。

 幼い兄弟が「地図の端っこのところは、実際はどうなっているのか」という議論に決着を付けるために探検に出かける。『遠い町からやって来た話』に収録されている『ぼくらの探検旅行』は、そういうお話でした。

 あの兄弟が再び主人公となって、不思議な世界を探検します。片方だけ干しっぱなしでぶらさがっている赤い靴下。開けっぱなしにしておいた裏口から、夜のあいだに家の中に吹き込んできた様々なもの。金属製のおもちゃ。そういった身の回りのものが息づいて、子どもの世界が立ち現れてゆきます。

 絵はいつものように魅力的で、不安と怖さをはらんだ赤、解放感と青空を示す青など、色が語りかけてくるようです。弟くんはまたも兄と口喧嘩して別行動をとった挙げ句に迷子になったらしく、途端に色彩が消えて、見知らぬ場所のモノクロの世界に押しつぶされそうになったり。子どもの夏の、あるある。

 各見開き左ページには、「去年の夏、ぼくが学んだこと」が、ルールの形で書かれています。「赤い靴下を片方だけ干しっぱなしにしないこと」「裏のドアを開けっぱなしたまま寝ないこと」「カタツムリを踏んづけないこと」「審判には逆らわないこと」といった具合に、何をやっちまったかダイレクトに分かってしまうところが微笑ましい。

 全体として、ものすごく立派な「ぼくのなつやすみ日記帳」という印象で、誰もが、最も大切なルールと共に、あの夏休みの日々を思い出すのではないでしょうか。

 「夏の最後の一日を見のがさないこと」


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