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『7月の夜』(振付演出:勅使川原三郎) [ダンス]

 2014年7月13日は、夫婦で両国シアターχに行って勅使川原三郎さんの舞台を鑑賞しました。ブルーノ・シュルツの短篇『七月の夜』を原作とするダンス公演です。

 ステージ上には何もなく、天井から大きな黒い垂れ幕が数枚、W字型やU字型につり下げられているだけの、極めてシンプルな舞台です。ところが、この動きさえしない垂れ幕の演出が超絶的というか、現代アートというか。照明効果によってひだやねじれが様々に姿を変え、とらえどころのない奇怪な幻想を次々に紡ぎ出してゆくのです。

 「だれもまだ七月の夜の地形図を書き上げた人はない。(中略)七月の夜! 闇の秘密の流体! 生きている敏感な流動する暗黒の物質! それは混沌のなかから絶えず何かを形づくってはすぐさまその形を次々に捨ててゆく!」(ブルーノ・シュルツ『七月の夜』より、工藤幸雄:訳)

 個人的な印象としては、走査型電子顕微鏡SEMで撮影した極微世界のモノクロ写真の中に入り込んでしまったような感じというか。そこにノイズや環境音が流れ、異空間を作り上げてしまいます。この演出は凄い。なお、『空時計サナトリウム』と違って、シュルツ作品の朗読や語りは入りません。

 この幻想的な「七月の夜」のなかで、勅使川原三郎さんがひたすら踊るのです。

 ときどき佐東利穂子さんが夜の奇怪な幻想(巨大なクモのようにみえる影、とか)となって出現しますが、公演時間の大部分は勅使川原さんが一人で踊ってくれた印象があります。

 痙攣するような動き、海中の刺胞動物のようにゆらゆらと動く手足、格闘技のような鋭い動き。独創的な動きが次々と繰り出されます。舞台が薄暗いためその姿がぼんやり滲んでいるように見え、しかも尋常ではない動きにこちらの脳が幻惑されるのか、腕が異様に長く伸びたように錯覚したり、解剖学的にあり得ない姿勢や動きに感じられたり。

 圧巻なのは、ノイズを乗せた幻想交響曲をバックに、勅使川原さんが激しく踊るシーンです。何この、かっこ良さ。もう魔術としか思えない。

 次第に見ているものが幻覚のように思えたり、あるいは本当に見ているのか頭の中で想像しているのか分からなくなってくる、といった瞬間が何度も訪れます。合法だから大丈夫。

[キャスト]

振付・演出・構成: 勅使川原三郎
出演: 勅使川原三郎、佐東利穂子


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