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『謎の絶滅動物たち』(北村雄一) [読書(サイエンス)]

 「ほんの数万年前の地球はこんな世界ではなかった。現在では見られない奇妙で巨大な動物が歩き回り、走り、食べ、狩りをおこない、大空を飛んでいたのだ。それは巨大生物が支配する豊かな世界だ」(単行本p.4)

 氷河期が終わり、人類がアフリカ大陸を出て世界中に広がっていった時代。なぜかどの地域においても人類進出とほぼ同時期に巨大動物たちが相次いで絶滅しているのだ。滅びていった巨大動物たちをイラストと共に詳しく紹介してくれる図鑑。単行本(大和書房)出版は、2014年5月です。

 ネアンデルタール人からリョコウバトまで、絶滅した動物たち45種の図鑑です。特に巨大動物を中心に取り上げています。

 全体は大陸毎に分類され、個々の項目は4ページから構成されています。最初のページには、種名をはじめとする簡単なデータ(分類、大きさ、生息地、発見年、絶滅の理由)と簡単な説明が掲載されており、次のページにイラスト、次の2ページに詳しい解説、というフォーマットです。

 マンモス、サーベルタイガー、マストドン、ドードー、ジャイアントモア。名前はよく知られているし、フィクションにも登場する機会が多く、お馴染み感が強いのですが、実はよく分かってないことが多いということが、本書を読めば理解できます。タイトルに「謎の」とあるのは、そういう意味でしょう。

 「サイの角は毛が固まったものだ。丈夫だが、化石として残ることはまずない」(単行本p.25)

 「ドードーは、絶滅から100年以上過ぎた1758年に記載された。(中略)どんな声で鳴いたのか、どんな生活をしたのかほとんどわかっていないし、何を食べたのかさえはっきりしない」(単行本p.189)

 「実際のところメイオラニアはモロクトカゲでもなく、メガラニアの頭でもなく、それどころかトカゲですらなかった。メイオラニアはカメだったのである。(中略)メイオラニアについてわかっていることは少なく、いつ絶滅したのかもよくわからない」(単行本p.169)

 本書ではじめて知ったことも多く、ページをめくる度に驚きの連続です。長さ3.5メートルという体長より大きな角を持ったオオツノジカは「あまりに巨大な角ゆえに滅びたという俗説が根強くある。これは間違い」(単行本p.30)だとか、ニホンオオカミ最後の一頭の剥製は「大英博物館で保存されている」(単行本p.197)とか。

 もっとも、本書の一番の魅力は「でかい、強い、すげえ」動物がばんばん登場することでしょう。

  最大記録で4.9メートルもの牙があるマンモス。
  史上最大級のサーベルタイガー。
  高さ2メートルに達する史上最大のクマ。
  両翼が4メートルにもなる巨大怪鳥。
  体長3メートル、尻尾1メートルの巨大アルマジロ。
  体長6メートル、ゾウに匹敵する史上最大のナマケモノ。
  体長3メートル、史上最大の有袋類
  高さ1メートル、飛べたか否かが議論になる巨大フクロウ

 少年の心がうずくー。

 3メートルとか6メートルとか数字だけ見てもぴんと来ませんが、部屋の大きさを基準にして「この動物が今ここにいたら」と視覚的に生々しく想像してみると、その巨大さに圧倒されます。でかっ。

 他に、個人的にオーストラリア大陸の絶滅動物たちにはなぜか心ひかれるものを感じます。

 オーストラリア肉食動物界の頂点に君臨した巨大ワニ
 アカカンガルーの2倍近い体重、奇怪な人面カンガルー
 体重275キロ、もはや飛べず地面を疾走した巨大カモ
 体長1.3メートル、肉食になった殺し屋ウォンバット

 恐竜についての本は沢山出ているのですが、もっとずっと近い時代(数万年から1万年ほど前)の絶滅動物たちについて一般にほとんど知られていない、実は専門家ですら分かってないことが多い、というのは意外でした。

 自分たちの先祖が直接的あるいは間接的に滅ぼした動物たちよりも、はるか太古に滅びた恐竜の方をよく知っている人類、というのは、考えてみると皮肉な話です。

 絶滅の原因や経緯について本文では客観的に書かれていますが、「まえがき」や「あとがき」ではかなり辛辣な言葉が。

 「私たちがやっていることは、ほかの生物を食いつぶして滅ぼし、我々自身へと変換する作業なのだ。1万年以上前に始まったこの電撃戦は、あと200年あまりで終わりを迎えるはずである。すべての動物の抹殺が完了し、彼らの肉体を構成していた有機物は、すべて人体につくり替えられる。そして、地球は人間だけの星になるのだ」(単行本p.211)

 生態系が消滅すれば人類も滅びますから、地球が人間だけの星になることはないとは思いますが、苦々しい気持ちは充分に伝わってきます。

 というわけで、今も加速中の「人類による種の大絶滅」について考えるための参考書としても、古生物学の図鑑としても、恐竜以外の「でかい、強い、すげえ」動物について知ってわくわくしたい方にも、大いに楽しめ、役に立つ一冊です。


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