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『なんでそんなことするの?』(松田青子:著、ひろせべに:イラスト) [読書(小説・詩)]

 「だれかの好きなものや好きなことを変だなんて言ったり、バカにしたり、だれもそんなことしちゃいけないんだよ。本当にひどいことなんだよ、それは」

 友達にからかわれて、とても悲しい思いをしたトキオ。そのとき、突然あらわれた飼い猫のミケがその友達をぱくっと飲み込んでしまった……。松田青子さんによる書き下ろし絵本。単行本(福音館書店)出版は、2014年3月です。

 いじめをテーマにした絵本です。お話を書いたのは、『スタッキング可能』と『英子の森』が大きな話題となった松田青子さん。きれいな色彩、子どもの絵のような優しいタッチで描かれたイラストは、ひろせべにさんです。

 「ぼくたち男なんだから、ぬいぐるみ持ってるのおかしいよ。ぼく、この前お父さんにきいてみたんだ。そしたらお父さんも言ってたよ。それはおかしいって」

 「トキオくん、変だよ。いいかげんわかろうよ。(中略)ぼく、トキオくんのために言ってるんだよ」

 お気に入りのぬいぐるみ「トラ」を学校に持っていったトキオは、男なのに変、などとからかわれて悲しい思いをします。そのとき、突然現れた飼い猫のミケが、友達をぱくっと食べてしまったのです。

 それだけではありません。トキオがからかわれたり、嫌がらせをされたりして、悲しむたびに、ミケが現れてその友達をひどい目に合わせるようになったのです。透明にされたり、その子の席にだけ雨が降ったり、キツツキの大群に襲われたり、ハリネズミに刺されたり。いじめを止めようとしない先生も容赦なくリスにされます。

 トキオを守っているつもりなのかも知れませんが、何しろ猫なので、やることがごっつえげつないです。むしろトキオを口実にやりたい放題、猫として獲物いたぶり本能を発揮しているだけかも。

 「やめてよね。みんなぼくをからかってるだけなのに、なんでそんなことするの? トラを学校に持ってきて、悪いのはぼくなのに」

 「からかってるだけって言うくせに、じゃあなんでトキオくんは、毎回悲しいの? 傷つくの? いやな気持ちになるの? からかってるだけって本当は思ってないからだよね」

 これ以上の犠牲者を出さないよう、トキオは決心します。これからは、黙ってないで、からかわれたら言い返そう。みんなを守るために、勇気を振り絞って言い返そう。

 「なんでそんなことするの?」

 たとえやる方が「いじめ」だと思ってなくても、悪意がなくても、大したことがないように見えても、誰かを「普通じゃないから」「変だから」という理由で傷つけることは「本当にひどいこと」だと教えてくれる絵本です。

 傷ついたときに、黙っていたり、平気そうに振る舞ったりしていると、いずれみんながひどい目にあうことになる。だからみんなのために我慢するんじゃなくて、みんなのために言い返すことが大切。そんなことも教えてくれます。

 「ミケの魔の手から同級生を守ることができるのはトキオだけです」

 同級生たちに降りかかる災難の数々や、彼らが密かに持っている「変なところ」の列挙など、細かいところが魅力的です。いかにも松田青子さんらしい。

 それと、個人的には、正論をぶちながら、やってることは極悪非道、でもすぐ飽きてだらだらするという、動物寓話らしからぬ、あからさまに猫むきだしのミケが気に入りました。


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