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『ケレヴェルム』(関かおり振付) [ダンス]

 2014年3月16日は、夫婦でシアタートラムに行って、関かおりさんの新作公演を鑑賞しました。男女8名のダンサーが踊る80分の公演です。

 舞台上に敷かれているシートは光を部分的に反射するようで、また観客は舞台を見下ろすような位置にいるため、床にぼんやりとダンサーの鏡像が見える仕掛けになっています。

 公演中に匂いが流れてくる演出がありますが、残念なことに、花粉症で鼻がつまっていたせいか、あまり明瞭には嗅ぎ取れませんでした。おそらく、無意識レベルで情動を刺激されていたとは思います。(なお、公演終了後、使用した香りのサンプルが配布されました。「ひんやりと湿った場所を思い浮かべるような香り」と「過去の記憶のどこかに繋がっていそうな香り」の二種類です)

 他に舞台装置はなく、照明効果だけで勝負します。音楽もありません。ごくたまに、呼吸音、金属が鳴る音、電子音など、環境音がかすかに流されるだけ。

 薄暗い照明がともると、舞台上には数名のダンサー。ゆっくりゆっくり動き、組み合わさります。乗っかったり、ぶら下がったり、しがみついたり。そしてそのまま塊として動き続けている様は、まるで何やら奇怪な植物、あるいは棘皮動物を連想させます。

 けっこう無茶な体勢からのリフト。リフトというより、身体をよじのぼるような動作。接触によって理解不能な人外のコミュニケーションがとられているようでもあるし、群生生物に見える瞬間もあります。いずれにせよ、人間の動きや姿勢や意図から大きく逸脱したような奇怪な動作とポーズに、観客も意識が吸い込まれてゆくようで、舞台から目が離せなくなります。

 床に倒れたままじっとしているダンサー。よく見るとゆっくり手足がうごめいていたり。少しずつ身体を起こしてゆき、またそれが床の鏡像と合わさって奇怪なオブジェに見えたり。カレイドスコープのよう。

 すべては静寂のなかで進行し、自分が観ている光景が現実なのかどうかだんだん分からなくなってきます。時間の感覚も変な具合で、もしかしたら意識下で香りの演出が効果を発揮していたのかも。

 と、いきなり舞台は暗転。しばらく闇の中に取り残される観客。やがてまた、薄暗い照明がともると、舞台上には人数も開始ポーズも異なるダンサーがいて。

 この繰り返しで進んでゆきます。ソロで動くシーンもあるし、二名、三名、群舞、様々な人数で構成される場面も次々と登場して、床面の鏡像とも相まって、これまで見たことがなかったと感じさせるカタチや動きが次々と立ち現れる。観客を飽きさせません。

 この「飽きさせない」というのが冷静になって考えてみると凄いことで、80分もずっとこれをやっていて、動きのアイデアが尽きない。ときどき同じか類似した動きの繰り返しやフラッシュバックもありますが、それも含めて尋常ではない構成力で新鮮な驚きをもたらし続ける舞台です。

 特に印象的だったのは、舞台上の照明を落として、暗闇の中、胸部に照明を仕込んだダンサーたちが群れなしうごめくシーン。全体像がつかめないせいもあって、夢の中にいる感覚が強く感じられます。ダンサーたちが、円を描くように、互いに背を向けて立ち、同期して動くシーンも、思わずはっとするインパクトがありました。

 というわけで、人体の組み合わせによって「これまで見たことがない」と感じさせる、奇怪で異様なのに不思議な感動に包まれる光景、を創り出した舞台で、その独創性には目を見張るものがあります。これからも作品を観たい、というか体験したいと思います。

[キャスト]

振付・演出: 関かおり

出演: 梶本はるか、黒須育海、後藤ゆう、鈴木清貴、髙橋和誠、薬師寺綾、矢吹唯、関かおり


タグ:関かおり
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