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『SFマガジン2014年4月号 「ベストSF2013」上位作家競作』 [読書(SF)]

 SFマガジン2014年4月号は、「ベストSF2013」上位作家競作ということで、『SFが読みたい! 2014年版』で発表された国内・海外のベストSFの著者による短篇を掲載してくれました。また、ローレン・ビュークスと草上仁の読み切り短篇も掲載されました。


『環刑錮』(酉島伝法)

 「千三百人余りの環刑囚が、第六終身刑務所と呼ばれる複合汚染された土壌の中を蠕進していた。広さ千平方米、深さ四十米に及ぶ地下一帯が、舎房であり作業房であった」(SFマガジン2014年4月号p.14)

 父殺しの罪で巨大ミミズのような環形動物形態に強制変形させられた主人公。多画数漢字と異常ルビ、独自の変態言語感覚で創られた異形世界を舞台に展開する、奇怪な脱獄劇。この作者らしいとしか言いようのない、常軌を逸した短篇。


『否定』(クリストファー・プリースト)

 「いつでも壁はあるんだ、ディック。あらゆることに両面がある」(SFマガジン2014年4月号p.46)

 文学を志す若き国境警備隊員と、作家モイリータ・ケインの交流。だが、軍部からスパイ容疑をかけられて……。

 『夢幻諸島から』に収録されている「リュース 忘れじの愛」の前日譚。

 「リュース」という、この謎めいた物語で、明に語られなかったいくつもの背景事情が本作で明かされています。例えば、作家モイリータ・ケインが辺境の島リュースまでやってきた理由。事故で死亡したという若き国境警備隊員とは誰なのか。彼の形見となったサイン入りの本とは。軍部にとってケインが「好ましからざる人物」だというのは。そして棺を見送りながらケインがすすり泣いたわけは。


『イシカリ平原』(谷甲州)

 「敗戦によって、失われた技術だった。設計資料はすべて廃棄され、実機も発見されなかったという。その伝説ともいえる画期的な技術が、さらに進化した形で実用化されようとしている」(SFマガジン2014年4月号p.83)

 第一次外惑星動乱の終結後、航空宇宙軍が次の戦争に備えて軍備を増強しつつあるという噂が流れていた。そんなとき、小惑星マティルドの研究所に謎めいた女がやってくる。研究者だという彼女の動きは、見間違えようもない、訓練された兵士のそれだった……。航空宇宙軍史の新シリーズに属する短篇。


『遊星からの物体Xの回想』(ピーター・ワッツ)

 「わたしは何をすべきかわからなくなった。さらに恐ろしいのは、わかる必要がないことだった。同化した皮膚が勝手に動きつづけたのだ。勝手に会話し、指示された仕事をこなしている。理解できなかった」(SFマガジン2014年4月号p.88)

 「魂を持っていない。彼らは生涯孤立したまま一人でさまよい歩き、声を身振り以外の会話を知らない。(中略)その孤独の深さと生涯の無意味さがわたしを圧倒した」(SFマガジン2014年4月号p.100)

 南極に不時着して眠っていたところを発見された「わたし」こと物体Xは、その星の住民の生物学的な異常さに衝撃を受ける。彼らは一体一体が孤立しており、魂や主体を持っていない、いわゆる哲学的ゾンビの集団だったのだ。しかも、彼らを救済すべく頑張って同化を進めるうちに、物体Xですら「わたし」が分離して複数化してゆくのを止められなかった……。

 もちろんカーペンター監督の映画へのオマージュ作品。原題は"The Things"と複数形になっており、これは物体Xの立場から見た地球人(魂のないバイオマスの集団)を指しているのでしょう。

 余談になりますが、地球の全人口が同化されるまでの時間を推定するシーンについて「そんな計算をする能力がマシンにないことも、そもそも元になるデータが存在しないことも、問題ではなかった」(SFマガジン2014年4月号p.94)といったり、主人公について「なぜかマクレディはつねに銃を所持し、つねに火炎放射器を所持し、つねにダイナマイトを所持していて、必要とあればキャンプを爆破する意志を持っていた」(SFマガジン2014年4月号p.98)といったり、そこは地球のお約束だからさらりと流しましょうよ、というポイントを律儀に指摘する物体Xの生真面目さがちょっと可愛い。


『ウナティ、毛玉の怪物と闘う』(ローレン・ビュークス)

 「立ち上がろうともがくウナティを尻目に、触手の怪物は寿司職人よろしく〈サイコー戦隊〉を手際よく料理していった」(SFマガジン2014年4月号p.236)

 突如、渋谷を襲った触手怪獣。〈サイコー戦隊〉の少女ウナティは巨大戦闘ロボで出撃するもあえなく敗北する。彼女を助けたのは、スパゲッティを茹でながら無意味で気障ったらしいセリフばかり口にする、たわごと作家のハルキ。彼と共に富士の樹海に入ったウナティは、ラスボスであるいかさまポップアーティストのタカシと対決する。

 南アフリカの作家が、ワンダーランドを描いた短篇です。基本的には『不思議の国のアリス』なんですが、何しろ竹下通りに巨大戦闘ロボを駐車したり(そして違反切符を張られたり)、ディスプレイ上に表示される数独を解かないと武装が使えなかったり、戦闘シーンで大量のパンティが空を舞ったりと、やりたい放題。ハローキティのバイブレーターから、「カウボーイの投げ輪よろしく精液をふりまわしている素っ裸のアニメキャラのフィギュア」まで、和風アイテムも豊富に登場します。

 なぜヨハネスブルグを離れたのかと尋ねられたウナティが、「だってあそこ、超クレイジーな街なんだもん」(SFマガジン2014年4月号p.249)と答えるラストシーンが印象的。


『スピアボーイ』(草上仁)

 「何千という数の全長八メートルのミサイルが、群れをなして飛んでいく。(中略)個体間の距離は数メートルもない。それでも、スピアたちは互いに衝突することなく、優美に編隊飛行を続けている」(SFマガジン2014年4月号p.258)

 ジェット推進で大空を舞う異星飛行動物スピア。その群れを飼育する牧場にとって、スピアを乗りこなして群れを導くスピアボーイは必要不可欠な存在だった。かつての恋人から「卑劣な牧場乗っ取りを阻止してほしい」と頼まれた老スピアボーイのマドックは、敵が雇った凄腕の若者と決闘するはめになる。

 痛快SF西部劇(+空戦)で、SFマガジン2013年12月号に掲載された『ウンディ』と同じく、異星生物との信頼関係によって試練を乗り越えてゆく物語です。


[掲載作品]

『環刑錮』(酉島伝法)
『否定』(クリストファー・プリースト)
『イシカリ平原』(谷甲州)
『遊星からの物体Xの回想』(ピーター・ワッツ)
『ウナティ、毛玉の怪物と闘う』(ローレン・ビュークス)
『スピアボーイ』(草上仁)


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