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『季刊 ココア共和国 vol.14』(秋亜綺羅:編) [読書(小説・詩)]

 「今号は3名の新鋭歌人を招待しました。(中略)そして3つの若い才能に、わたしはびっくりしました」(編集前記より)

 ココア共和国 vol.14に掲載された、新鋭歌人たちの新作を読みました。個人誌(あきは書館)発行は2014年02月です。

 今回、書き下ろし新作が掲載された新鋭歌人というのは、木下龍也さん、堀合昇平さん、鯨井可菜子さんの三名です。うち二名については歌集を読んだことがあります。紹介はこちら。

  2013年06月06日の日記:
  『つむじ風、ここにあります』(木下龍也)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2013-06-06

  2013年07月18日の日記:
  『提案前夜』(堀合昇平)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2013-07-18

 さて、ココア共和国14号掲載作品ですが、まずは木下龍也さんの作品『小道具の月』より。

  「自転車を降りて自転車おじさんは自転車とおじさんに分かれた」

  「眼鏡屋は窓にもたれて人々の目が悪くなるのを待っている」

  「「犬 避妊手術費」と打つ牛乳の底の苺をぼろぼろにして」

  「夢のなかでは近視です はなびらのひとつひとつがてのひらでした」

 自転車とおじさんに分かれた、とか、そういう自分でも見ていたのに気付かなかった不思議を、ずばり言い当ててくれる快感があります。


 続いて、堀合昇平さんの作品『雨の祭りに』より。

  「横のひとに併せてめくる何度読んでも判らない厚い資料を」

  「欠席者が今日も多数であることをだれも咎めず議題が変わる」

  「割り箸を翳して綿を待てばまた噴き出す昨日までの疲労が」

  「お金では買えない日々の一日を終えて財布をテーブルに置く」

 仕事、そして会社員生活の、あまりといえばあまりの不条理を、ユーモラスに(目は笑ってない)うたう歌人による、休日テーマの連作。どうやら町内会か何かの秋祭りに裏方として参加させられ、雨に降られて散々な目にあって、それで貴重な休日が終わってしまったらしい。でも、深夜残業を詠んだ作品よりは楽しそうに見えるところがまた切ない。


 そして、鯨井可菜子さんの作品『笹舟の猫』より。

  「墨色の子猫の眠り 引き取り手なければ君は保健所へゆく」

  「通学路を子猫がゆくよ中学の指定バッグの暗がりのなか」

  「弟を猫の名で呼ぶ間違いもありその逆もあり家族みんなに」

  「結婚が決まった春はつじつまを合わせるように猫の世話して」

 学校で拾った子猫を必死で保護して持ち帰ったあの日。家族の一員になった猫だが、やがて結婚して家を出た後になって、その死を知らせるメールが届く。そんな思い出を情感たっぷりに表現した連作。猫好きなら感動必至。特に、引用はしませんが、ラスト一首には泣けます。


 他には、秋亜綺羅さんの『ひよこの空想力飛行ゲーム』がお気に入り。

 「ほやにはほやの実存論があってさ/刺身も美味だぞ/重要参考ほやの身柄は確保したぞ」

 「飛びかう飛びつく飛び込み自殺/飛び板飛び込み飛ばっちり/歌え酔いどれ天までとどろ/飛ぶな妹よ、妹よ飛ぶな/飛べば幼いふたりして/夕焼け捨てたかいがない」


[掲載作品]

『百鬼夜行の世界の闇に冥府の雨が降っている』(尾花仙朔)
『小道具の月』(木下龍也)
『雨の祭りに』(堀合昇平)
『笹舟の猫』(鯨井可菜子)
『syort film』(一方井亜稀)
『ツィゴイネルワイゼン』(江夏名枝)
『ひよこの空想力飛行ゲーム』(秋亜綺羅)
『おそらく私たちは冷めた場所から始めなければならない』(一方井亜稀)


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