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『宇宙人の探し方 地球外知的生命探査の科学とロマン』(鳴沢真也) [読書(サイエンス)]

 「私がOSETIを知った瞬間でした。2001年1月のことです。SETIは電波観測の専売特許と思い込んでいた私の体に衝撃が走りました。「ええ!? どういうこと? 光学望遠鏡でもSETIができるの?」 私が興奮したのは、この時のことだったのです。さっそく「OSETI」と打ち込んでネット検索をかけると、英語で書いたにもかかわらず、ヒットしたのはおせち料理のページばかりでした」(Kindle版No.2136)

 日本ではまだほとんど知られていない、可視光による地球外知的生命探査、光学(オプティカル)SETIとは何か。SETIの最新情報を専門家が分かりやすく解説したサイエンス本。その電子書籍版を、Kindle Paperwhiteで読みました。新書版(幻冬舎)発行は2013年11月、Kindle版配信は2014年02月です。

 地球外文明からの信号受信を試みる「SETI」については沢山の解説書が出ていますが、OSETI、さざんか計画、ドロシー計画など、実際に著者が関わった活動について詳しく紹介されているのが本書のキモです。

 「本書は、SETI(地球外知的生命探査)の一般向け解説書です。日本でもこれまでにSETIの書籍は何冊も出版されていますので、なるべく重複を避け、可能な限り最新の情報を入れるように努力しました。もう一つ著者として努めた点は、オリジナリティです。私自身が実際に経験したこと、見聞きしたことに重点を置きました」(Kindle版No.3786)

 全体は3つのパートに分かれています。

 最初の「パート1 宇宙人、いると思いますか?」では、SETIの基礎知識が解説されます。

 そもそも地球外知的生命は存在するのか。存在するとしてそれはありふれたものなのか。なぜコンタクトしてこないのか(フェルミ・パラドクス、グレートフィルター)。その探査は、私たちにとって、どんな意義があるのか。

 すでにSETIについてよくご存じの読者は、このパートは軽く読みとばしても大丈夫でしょう。

 「パート2 宇宙人の正しい見つけ方」では、まずは主流となっている電波探査SETIが詳しく解説されます。その大前提となる考え方はこうです。

 「ボルトの頭が六角形をしていることには意味がある。地球外の惑星でも、ボルトの頭はきっと六角形をしているはずだ。(中略)iET探査のベースは、「地球人にできることは、iETにもできる。地球人がしていることを、彼らもする」ということなのです。これを本書では「六角ボルトの定理」と呼びましょう」(Kindle版No.964、974)

 そういうわけで、地球人が他の星に電波信号を送るとしたらどうするか、ということを合理的に考え、それを相手もしていると仮定し、恒星間通信に使われるであろう電波の周波数(マジック・フリークエンシー)を推測したりするわけです。

 これまでに行われてきた様々な電波SETI計画、活躍した研究者が紹介されます。オズマ計画、SETI@home、Wow!シグナル、など様々なエピソードも詳しく解説。一方、日本の状況は。

 「実際にSETI観測を行ったことのあるプロは、私たちを含めて4グループしか存在しません。日本は明らかにSETI後進国なのです」(Kindle版No.1560)

とのことで、すこし残念です。

 「パート3 私が宇宙人を探す理由」では、著者自身が関わったSETIプロジェクトの詳細が語られます。まずは、OSETI(光学的SETI)の紹介から。

 「日本語の書籍には、OSETIについての詳細な説明がほとんどありませんので、本書ではやや詳しく記述します。一般の方には多少難しく思えるかもしれませんが、OSETIが夢物語ではなく、きちんとした根拠に基づく「科学」であることをご理解いただきたいので、少しお付き合い下さい」(Kindle版No.1883)

 OSETIとは、地球外文明がレーザ光で信号を送ってきているという仮定に基づき、その信号を検出しようというものです。なぜ電波ではなく可視光の方がコンタクトに向いているのか、実現性はあるのか、どうやって微弱なレーザ光を検出するのか、などの具体的な説明が書かれています。

 「現在の地球にある技術を組み合わせれば、恒星間レーザ放射は可能であり、OSETIには根拠がある、つまりサイエンスであることを理解していただけたかと思います」(Kindle版No.1972)

 「レーザは単位時間あたりに伝達できる情報量が電波より圧倒的に多く、その点はやはり魅力的です。ある程度以上の文明に到達すると、電波通信よりレーザ通信のほうが普及してくる可能性は大いにあります」(Kindle版No.2085)

 何と、今の私たちが持っている技術だけで「恒星間レーザ通信」が可能だというのです。びっくり。ならば、どこかで誰かが既にやっている可能性は確かにあります。特にレーザ推進宇宙船を使っている異星文明なら、そのための送信アンテナを「ときどき色々な恒星系に向けてみる」くらいの気軽さでやってくれているかも知れません。

 世界各地で試みられているOSETIの活動を紹介した後、いよいよ著者が中心となって実現にこぎ着けた、日本全国同時多地点・多波長・多方式観測のSETIである「さざんか計画」の話へ。さらにそれを拡大した「5大陸、15か国、18観測所が参加した一大プロジェクト」である「ドロシー計画」へと話は盛り上がってきます。

 熱心な研究者が細々と観測しているイメージが強い従来のSETIから、日時を決めて地球上の各地で同時観測を行って結果を突き合わせるという、マスコミへのアピールも兼ねたイベント的な派手SETIへ。SETIのイメージを刷新するこれらの計画の立案から実施までの詳しい経緯が書かれており、同様のプロジェクトを企画する人にとっては大いに参考になることでしょう。

 「パート4 宇宙人から信号が来たら?」では、他にも色々と考案されている変わり種SETIを紹介し、さらにシグナルをキャッチした際の行動についての議論が紹介されます。

 地球外文明が残した核廃棄物を検出するSETI。地球と月のラグランジュ点に潜んでいるかも知れない地球外文明からの探査プローブを探すSETI。さらには話題のガンマ線バースト(GRB)について次のような驚愕のアイデアが出ていたり。

 「GRB研究者のマイケル・ハリスさんは、3つのGRBが直線状に並んでいる場合、それは宇宙船の軌跡の可能性があると考えました」(Kindle版No.2912)

 今だ起源がはっきりしないガンマ線バーストは、宇宙船のエンジンから放射されているのかも知れない、というのです。うおおっ。

 さらにダイソン球の探査より「部分的ダイソン球」の探査の方が容易であるという提案、ブラックホール周辺の降着円盤に配置されている異星人の発電衛星「フォトン・フローター」を探査する提案、地球外文明に起源があるニュートリノや重力波を検出する提案、などなど。SFファンが喜ぶような話題が次々と、というか、むしろ大学SF研の例会といった様相。

 「このように、SETIにもいろいろなものがあります。学術雑誌に論文として掲載されているものも少なくありません。ただ、アイディア勝負の早い者勝ち、という気もしますが」(Kindle版No.2983)

 最後に、いつ見つかると想定すべきか、シグナル検出時の行動計画、その問題点、といった話題に進み、将来展望についての情報が載っています。この将来展望がまた凄い。

「現在オーストラリアと南アフリカで建設されている電波望遠鏡群「SKA」(Square Kilometer Array)の感度はアレシボの100~1000倍にもなります。(中略)完成すれば(2020年ごろ観測開始予定)、天の川銀河のどこにアレシボレーダがあっても、そこからの電波を検出できます。また、軍事用のレーダーなら数千光年、航空用レーダでも100光年以内にそれらが設置されていたら、それを受けることが可能です」(Kindle版No.1020、3123)

 「望遠鏡がさらに巨大化して解像度が上がってくると、人工的な構造物が見えるほどの空間分解能(解像度)が得られます。(中略)この惑星には建築物があるかないか、そういったレベルの調査ができるのです。「地球外建造物探査」(SETS)といったところです。電波SETIよりSETSで先に地球外文明が発見される可能性は十分あると思います」(Kindle版No.3167)

 地球人の天文観測テクノロジー、知らないうちに凄いレベルに達してるし。何だか、異星文明の発見もそんなに遠くない日のような気がしてきます。その日、Xデーがやってきたとき、地球文明には何が起きるのでしょうか。著者による緻密なシミュレーションの結果はこうです。

 「巷には宇宙人グッズがあふれます。私の職場のミュージアムショップも関連商品ばかり。ビジネスと結びつき、便乗商法を合わせて、ありとあらゆるものが世に出回ります。宇宙人の歌、惑星eの専門誌、宇宙人ファッション、宇宙人保険。総じて景気はよくなる可能性があります。「宇宙人景気」です。一方で、関連した悪徳商法、宇宙人詐欺も出てきそうです」(Kindle版No.3622)

 「ともかくXデーを楽しみに待ちたいと思います。長生きしましょう」(Kindle版No.3663)

 政府は、「宇宙人景気」による経済成長を期待してSETIに予算を投入してはいかがでしょうか。という軽口はさて置き、個人にとってSETIの意義とは、「ともかく長生きしましょう」と心から思えることではないでしょうか。


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