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『オオカミ』(エミリー・グラヴェット:作、ゆづきかやこ:訳) [読書(小説・詩)]

 「作者としては、この本を作っている間、ウサギが灰色オオカミに食べられることはなかったと伝えたいのです。フィクションですからね」

 図書館で『オオカミ』という絵本を借りたウサギを待っていた恐ろしい出来事とは。様々な仕掛けが施してあるメタフィクション絵本。単行本(小峰書店)出版は、2007年12月です。

 「ウサギは図書館にいきました。借りた本は、」

 『オオカミ』という本を図書館で借りて、熱心に読んでいるウサギ。書いてある内容、つまりオオカミが、読書しているウサギの背後に大きく描かれます。きわめてありふれた表現ですね。読書しているウサギは実景で、背後のオオカミは絵本の内容イメージ、のはず。しかし、読み進めるにつれて、次第にオオカミは背後からウサギに近づいてゆき……。

 仕掛けのある楽しい絵本。この絵本それ自体が、作中作である『オオカミ』になっていて、図書館の貸し出しカードは付いているし、貸し出し記録も張り付けてあります。ページには封筒やら何やら雑多な紙が挟み込んであり、読者はこの絵本の中でウサギが読んでいる絵本『オオカミ』そのものを自分が手にしている、という錯覚を起こすことでしょう。

 さて、絵本のなかにいるオオカミがウサギの背後に大きく迫ったところで、いきなり物語は途切れ、次のページには、ズタズタに引き裂かれた絵本が。

 どういうことでしょう。幼い読者はきっと困惑するに違いありません。どうして絵本の中にいるオオカミが、読者であるウサギを襲うことができるの? そこで利発な子は、はたと気付くわけです。この絵本『オオカミ』を今読んでいる自分はどうかと。

 フレドリック・ブラウンの著名短篇のアイデアをうまく絵本に活かしていて、感心させられます。メタフィクションを理解できる子どもなら、けっこう怖がるんじゃないでしょうか。

 さすがにこれで投げっぱなしというのはまずいのか、唐突に作者が登場。「やさしい読者のための結末はこうなります」と言って、無理やりハッピーエンドにしてくれます。その昔、筒井康隆さんの絵本でも、そういう手法が使われていましたね。

 しかし、そのハッピーエンドに登場するウサギは、千切れた絵を無理やりつないだものになっていたりして。センスのいい子どもなら、取り繕った大人の笑顔の背後にあるものを見たような気がして、さらなる恐怖を覚えることでしょう。ふ、ふ、ふ。

 作者のエミリー・グラヴェットは、他に『もっかい!』という絵本を書いています。そこでも、作中に登場するドラゴンによって絵本そのものに焼け焦げ穴があいてしまうという仕掛けがあったりして、よほどメタフィクションと仕掛け絵本が好きなんだろうなあ。『もっかい!』読了時の紹介はこちら。

  2012年07月20日の日記:
  『もっかい!』(エミリー・グラヴェット:著、福本友美子:訳)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2012-07-20


タグ:絵本
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