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『ブラジル妖怪と不思議な話50』(野崎貴博) [読書(オカルト)]

 「ブラジルには多くの妖怪がいて、ブラジル人にとって妖怪は、非常に身近な存在だったのです。(中略)本書では、ブラジルの妖怪と不思議な話、合わせて50のエピソードを盛り込みました」(Kindle版No.15、22)

 人が近づくと頭を地面に落とす妖怪、人を捕えて家族に脅迫状を送りつけてくる妖怪、近づけば近づくほど大きくなってゆく妖怪。さらには金銀財宝にあふれる秘密の王国から魔女伝説まで。ブラジルで言い伝えられている伝統的な怪異譚を50話収録した本が電子書籍化されました。Kindle版配信は2013年05月です。

 「トゥトゥは美少年が大好きで、可愛い男の子を見つけるとコソコソと後を追う。そして欲望を抑えきれずに、ついにはペロリと食べてしまう」(Kindle版No.866)

 「フロール・ド・マトゥは、しばしば人を捕まえては無事に帰すことと引き換えにタバコをねだる。捕えた者がタバコを持っていない場合には、その家族あてに手紙を書き、パイプやタバコの葉を要求する」(Kindle版No.452)

 「クルピラは、人間の小さな子供を誘拐し、7年間、人間と自然の関係の大事さを子どもに教えた後に、子どもを親へ返す」(Kindle版No.414)

 妖怪にしてはやることがあまりに人間っぽいというか、人をとって喰らう恐ろしい魔物にしては妙な愛嬌があるというか。南米ブラジルで言い伝えられている妖怪は、やはり日本の妖怪とは一味違うようです。

 「カベッサ・サターニカに誰かが近づくと、服が裂け、頭が取れて地面に落ち、ゲラゲラと笑い始める。この頭に触れた者は気分が悪くなって死ぬ」(Kindle版No.233)

 「ピザデイラは、人々が眠った頃を見計らって、そっと天井から降りてくる。そして、ぐっすりと眠っている人の胸の上に座り、安らかな呼吸の邪魔をする」(Kindle版No.801)

 「カベッサ・ジ・クイアは、川に漂流するひょうたんにまぎれて、川で水浴びをする子どもを水中に引き込む」(Kindle版No.224)

 「ボトゥは、パーティに現れて女性をナンパする(中略)そんなときは、彼が帽子を被っているかどうかに注目するとよい。ボトゥの正体はカワイルカなので、頭には噴気孔がある」(Kindle版No.144)

 「カペロボは獰猛な肉食怪物であるが、ヘソを攻めると、この妖怪を退治できる」(Kindle版No.288)

 「体の正面に踵があり、体の背面につま先があるということになる。これだと足跡は普通と反対の方向を向く。そのため、この足跡を追いかけてもクルピラの進行方向とは逆に進むことになり、この妖怪にたどり着けない」(Kindle版No.406)

 「ブラジルのゾンビは、近づけば近づくほどに徐々に体が大きくなっていき、その大きさは手を伸ばしても届かない高さにまでなるという」(Kindle版No.880)

 いかにも日本妖怪と似ているタイプもいますが、「ひょうたんにまぎれて近づく」とか「ヘソが弱点」とか「正体はカワイルカ」とか、やはり恐怖だけでなくどこかユーモラスな明るい雰囲気が漂っている感じが魅力的だと思います。それにしてもブラジルのゾンビはあまりに独特というか、おまえは見越し入道かと。

 妖怪だけでなく、不思議な伝説も多数収録されているのも嬉しい。

 「ヨーロッパ人がブラジルへ入植してくる以前に、白人女性が女王として君臨していた王国が存在していた」(Kindle版No.80)

 「シダージ・エンカンターダは、金銀財宝の溢れる豊かな都市で、そこへ行くには秘密の洞窟を通らなければならないという。その洞窟は、セアラ州のジェリコアコアラにあるといわれている」(Kindle版No.349)

 「クカはドラゴンで、キリスト教の聖人である聖ジョージに北アフリカのリビアあたりで退治された。その後、命からがらブラジルに逃げてきたのだという。そのときにクカを導いた魔女の老婆がおり、その老婆もまたクカと呼ばれている」(Kindle版No.379)

 「7人姉妹の末娘で、生まれてから7日目までに長女によって洗礼を施されない子が、ブルーシャ(魔女)になる」(Kindle版No.180)

 「7人姉妹の次に生まれた8番目の子が男の子だった場合、その子がロビゾーメン(狼男)になる」(Kindle版No.548)

 どうも、7人姉妹は不吉なものと思われているらしい。

 妖怪というより、都市伝説あるいは学校怪談に分類されるような話もあります。

 1980年代半ば頃からサンパウロの学校で広まったといわれている「トイレのロイラさん(ロイラ・ド・バニェイロ)」がそれ。トイレの一番奥の個室に入って水を3回流すとロイラが鏡の中に現れる、その姿を見ると連れ去られてしまう、電話をかけて「ロイラ1、ロイラ2、ロイラ3!」と連呼すると呼び出せる、など、いかにも学校の怪談そのもの。

 タクシーが白い服を着た女性(モッサ・ジ・ブランコ)を乗せたところ、彼女はすっと消えてしまう。シートには指輪が残されている。あるいは消えたあたりは墓地だった。こうしてみると、「消えるヒッチハイカー」や「トイレの花子さん」の仲間は南米にもいる、というか、たぶん移民についてきた、ということがよく分かります。

 それから、「シュパ・カブラス」(日本ではチャパカブラと呼ばれることが多い)、「マピングァリ」(大型猿人だが、脚はロバ、踵は前後逆、口は顔ではなく腹にあり、人間を食べてしまう。UMAファンに人気があり、探検隊がアマゾンのジャングルを捜索したこともあるとのこと)、「ミニョケォン」(超大型ミミズ。地中を動くと地震が起きる)、など日本では妖怪というよりむしろUMA(未確認動物)の本に出てくる連中についても、現地でどのように語られているかが書かれていて、興味深いものがあります。

 こういう魅力的な妖怪がごく当たり前に信じられていたり、民家を普通に出入りしたりしていることを考えると、ブラジルで奇想天外な宇宙人遭遇譚が多いのも、何となく納得できるものがあります。


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