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2013年を振り返る(7) [教養・ノンフィクション] [年頭回顧]

 2013年に読んだノンフィクションのうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2013年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 まず、何と言っても『台湾海峡一九四九』(龍應台)には圧倒されました。国共内戦、国民党による台湾接収、台湾海峡危機という激動の時代を生きた人々の、黙して語られなかった歴史を、丹念な取材により掘り起こした一冊です。涙なしには読めません。

 また、民族集団によって異なる歴史認識が引き起こしている台湾社会の分裂を乗り越えるために、一世紀にわたって学ぶことさえ許されなかった台湾史を正面から語った『増補版 図説 台湾の歴史』(周婉窈:著、濱島敦:監修・翻訳、石川豪:翻訳、中西美貴:翻訳、中村平:翻訳)も素晴らしい。

 中国と台湾の近現代史に興味がある方にとって、この二冊は必読ではないでしょうか。

 他に歴史関連では、『中国化する日本』が話題となった與那覇潤さんが、昨年は何冊も著書を出してくれました。私が読んだのは、『日本の起源』(東島誠、與那覇潤)、『日本人はなぜ存在するか』(與那覇潤)、『史論の復権』(與那覇潤)の三冊ですが、どれも日本史のイメージを刷新する驚きに満ちていて、興奮させられました。

 個人的には、再帰性というキーワードを駆使して様々な文系学問の研究手法を紹介してゆく『日本人はなぜ存在するか』に強い感銘を受けました。一読すれば、民族、国籍、国民性、歴史認識といったものがいかにあやふやな思い込みに過ぎないか、にも関わらず、なぜ「そういうもの」として研究する意義が大いにあるのかが、明快になります。大学教養科目の授業を書籍化したものだそうですが、こういう授業を受けられる学生が羨ましい。

 社会問題に関してですが、まずは、ネットの普及により苦境に立たされていると言われる米国の新聞社とジャーナリズムの現状を取材した『アメリカ・メディア・ウォーズ ジャーナリズムの現在地」(大治朋子)が素晴らしい。日本の若きジャーナリストたちも、これを読んで奮起してほしいものだと思います。

 米国の精神医療の「押しつけ」により、世界中で精神疾患をめぐる状況が悪化している現状を告発した『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』(イーサン・ウォッターズ)はショッキングで、心の健康とは何かを改めて考えさせます。日本人にとっては、うつ病治療薬SSRIの内幕を暴いた章がとりわけ興味深い。

 環境問題については、温暖化ガス排出規制をめぐる各国の動きを概観した『エコ・ウオーズ 低炭素社会への挑戦』(朝日新聞特別取材班)が、ややまとまりに欠ける面はあるものの、興味深く読めました。日本は環境技術先進国、などと思っていたら大間違い。

 労働問題では、都市に住みながら下層階級民と見なされ差別と困窮に苦しむ「第二代農民工」と呼ばれる中国の若者たちに取材した『中国絶望工場の若者たち 「ポスト女工哀史」世代の夢と現実』(福島香織)が痛切。

 改憲問題では、憲法九条の根底にある「平和主義」が、しばしば批判されるように、「現実ばなれした空虚な理想論」に過ぎないのかどうかを突き詰める『平和主義とは何か 政治哲学で考える戦争と平和』(松元雅和)が興味深く読めました。

 食料問題については、米国の巨大企業による支配戦略を告発した『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』(鈴木宣弘)が強烈でした。

 食料といえば、身近な南国フルーツであるバナナをめぐる過酷な歴史と、そのバナナに迫る危機を解説した『バナナの世界史 歴史を変えた果物の数奇な運命』(ダン・コッペル)が、知らなかったことばかりで印象的でした。もう一冊、中国奥地から茶の木と製茶技術を盗み出した英国人の伝記、『紅茶スパイ 英国人プラントハンター中国をゆく』(サラ・ローズ)も、冒険小説顔負けの面白さ。

 出版や書店については、古今東西のベストセラーにまつわるエピソード満載の『ベストセラーの世界史』(フレデリック・ルヴィロワ)が大いに楽しめました。

 空前の大ヒットを連発し、日本に「新書」という書籍形態を定着させたカッパブックスの内幕を描いた『カッパ・ブックスの時代』(新海均)、「世界最大の書店」アマゾンを作り上げたベゾスを取材した『ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛』(リチャード・ブラント)も面白かった。

 宗教まわりでは、神社や神祇信仰が太古の昔から今日まで連綿と伝えられてきたという「誤解」を正す『「神道」の虚像と実像』(井上寛司)が参考になりました。また、宗教団体のうち特に反社会的なカルト集団を体当たりで取材した『「カルト宗教」取材したらこうだった』(藤倉善郎)も、野次馬的に楽しめました。

 オカルトまわりでは、神智学、超古代史、UFOコンタクティー、マヤ歴世界終末説、爬虫類人陰謀論、オウム真理教、幸福の科学といった、一見してばらばらに見える様々なオカルト潮流の元となっている「共通の思想体系」を整理して明快に解説してくれた『現代オカルトの根源 霊性進化論の光と闇』(大田俊寛)が素晴らしい。ちなみにトンデモのネタ本としては、『図説 偽科学、珍学説読本』(グレイム・ドナルド)も面白い。

 職業まわりでは、東日本大震災の医療現場を取材した『ドキュメント・東日本大震災 「脇役」たちがつないだ震災医療』(辰濃哲郎、医薬経済編集部)、40代で自分の生き方と職を見直すことを提案する『未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる』(ちきりん)、スポーツの現場における時間計測のプロが語る『「世界最速の男」をとらえろ! 進化する「スポーツ計時」の驚くべき世界』(織田一朗)などがいい感じでした。

 ピアノ調律師が大いに語る『今のピアノでショパンは弾けない』(高木裕)、くまモンをいかにして売り込んだか、その内幕を赤裸々に明かした『くまモンの秘密 地方公務員集団が起こしたサプライズ』(熊本県庁チームくまモン)も面白い。

 ソチ五輪に向けて盛り上がるフィギュアスケートについては、採点システムなど技術面から注目選手の紹介まで、入門書として素晴らしい『知って感じるフィギュアスケート観戦術』(荒川静香)、日本のトップスケーターたちが本音をぼろぼろしゃべってくれる『トップスケーターの流儀 中野友加里が聞く9人のリアルストーリー』(中野友加里)の二冊がお気に入り。

 その他、最新の犯罪理論を使った防犯の考え方を紹介する『犯罪は予測できる』(小宮信夫)、電車の中で居眠りするという世界に類を見ない(そうなの?)日本人の習慣に隠された秘密を探る『世界が認めたニッポンの居眠り 通勤電車のウトウトにも意味があった』(ブリギッテ・シテーガ)、ガンダムの中国語翻訳をサカナにあれこれ語った『オタク的翻訳論 日本漫画の中国語訳に見る翻訳の面白さ 巻十一「機動戦士ガンダム」』(明木茂夫)などが収穫でした。


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