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2013年を振り返る(6) [サイエンス・テクノロジー] [年頭回顧]

 2013年に読んだポピュラーサイエンス本のうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2013年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 まず生物学関連では、昆虫の生存戦略を詳しく紹介した『食べられないために 逃げる虫、だます虫、戦う虫』(ギルバート・ウォルドバウアー)が衝撃的でした。進化の凄みを見せつけられたという感じです。

 昆虫まわりでは、『ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物』(バート・ヘルドブラー、エドワード・O・ウィルソン)も凄い。コロニー全体が「超個体」として振る舞うハキリアリの生態はまるで異星生物ですが、バイオマスで見ると彼らこそが地球生物の代表だという事実に、世界観の修正を迫られます。

 黄砂に乗って世界中を移動している微生物に関する『空飛ぶ納豆菌』(岩坂泰信)も興味深い。黄砂粒子の表面積を足し合わせると全陸地面積にほぼ等しくなる、つまり黄砂は大気中を循環している第二の肥沃な大陸だ、というイメージに圧倒されます。

 京都の大覚寺大沢池の景観復元プロジェクトの顛末を描いた『草魚バスターズ もじゃもじゃ先生、京都大覚寺大沢池を再生する』(真板昭夫)は、身近な事例を通じて、生態系をコントロールすることの難しさを教えてくれました。

 宇宙関連では、いわゆる「人間原理」の基本的な考えと、最近それが注目を集めている理由を解説した『宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論』(青木薫)、およびインフレーション宇宙論を拡張することで明らかになった「無からの宇宙創成」について解説した『宇宙が始まる前には何があったのか?』(ローレンス・クラウス、翻訳:青木薫)が素晴らしい。

 この宇宙がなぜ存在し、どうしてこのような宇宙であるのか、という根源的疑問に対して、インフレーションとマルチバースと人間原理を組み合わせることで、ついに「神の介入」も「万物理論」も必要としない解答を手に入れた現代宇宙論の到達点には、身が震えるような感動があります。

 一方、天文学と生物学の境界に位置する宇宙生物学やパンスペルミア説(地球生命は宇宙からやってきた、という考え)について紹介した『生命はどこから来たのか? アストロバイオロジー入門』(松井孝典)、およびそこでエピソードとして触れられていた「スリランカに降った赤い雨から地球外生命と思われる細胞状物質が発見された」という、ちょっと怪しい話について紹介した『スリランカの赤い雨 生命は宇宙から飛来するか』(松井孝典)の二冊にも興味深いものがあります。

 科学とオカルトの境界を探る試みとしては、いわゆる超能力(サイ現象)の研究がどうなっているかを概説した『超能力の科学 念力、予知、テレパシーの真実』(ブライアン・クレッグ)、および私たちの身の回りにあふれる怪しい偽科学的言説を斬ってのけた『謎解き超科学』(ASIOS)の二冊が楽しめました。

 人間の認知や心に関する最近の研究成果を紹介した本としては、使用言語によって認知が影響を受けていることを示す『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』(ガイ・ドイッチャー)、皮膚感覚が人間の精神に与える影響を解説した『皮膚感覚と人間のこころ』(傳田光洋)、さらに認知バイアスの代表的なものについてクイズ形式で易しく紹介する『自分では気づかない、ココロの盲点』(池谷裕二)の三冊が、知的好奇心を強烈にかきたててくれました。

 その他、心理学まわりの書籍としては、言語、感情、意識がどうやって進化してきたのかを高校生向けに解説した『「つながり」の進化生物学』(岡ノ谷一夫)、霊長類のなかで人類だけが持つ「家族」を基盤とする社会システムがどのように進化してきたかを探る『家族進化論』(山極寿一)、人間が持っている不誠実な性質に焦点を当てた『ずる 嘘とごまかしの行動経済学』(ダン・アリエリー)が面白い。

 コンピュータ技術に関しては、いわゆる「シンギュラリティ」(技術的特異点)の概念を分かりやすく紹介した『2045年問題 コンピュータが人類を超える日』(松田卓也)、ついに名人を打ち負かした将棋ソフトがここ数年でいかにして飛躍的に強くなったのかを技術面から解説した『人間に勝つコンピュータ将棋の作り方』(監修:コンピュータ将棋協会)、世界的にも類を見ないほどの巨大ネットワークシステムであるSuicaがどのように構築され運用されているかを解説した『ペンギンが空を飛んだ日 IC乗車券・Suicaが変えたライフスタイル』(椎橋章夫)が、強い印象を残します。

 コンピュータ技術そのものではなく、その急速な発展に対して人間がどのようにして適応しようとしてきたかを言語、特にメタファーの使用法から探ってゆく『デジタル・メタファー ことばはコンピューターとどのように向きあってきたか』(荒川洋平)、急速に実用化が進む超伝導技術の最新動向について教えてくれる『新しい超伝導入門』(山路達也)、話題のiPS細胞についての入門書『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』(山中伸弥、緑慎也)も大いに楽しめました。

 最後に、ハードウェアまわりの解説書としては、スナイピングの技術を紹介する『狙撃の科学 標的を正確に打ち抜く技術に迫る』(かのよしのり)、建築現場などで使われている巨大メカ、重機について、カタログ本の体裁をとりながら読者を重機萌えの世界に誘う『重機の世界』(高石賢一)が印象的でした。


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