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2013年を振り返る(4) [随筆・紀行・ルポ] [年頭回顧]

 2013年に読んだ随筆などのうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2013年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 まず、稲生平太郎さんの『定本 何かが空を飛んでいる』が本当に復刊されたのが嬉しい。読者の円盤観を刷新してしまう本として名高かった旧版に、西洋オカルトや民俗学まわりの文章を大量に追加して、分量にして二倍以上になったという決定版です。

 高野秀行さんの『謎の独立国家ソマリランド』は衝撃的でした。普段は未確認怪生物を追いかけたりしている著者が、何とソマリア北部にあるという未確認国家へ向かうというワクワク展開。今や機能不全を起こしているらしい日本の民主主義に活を入れてくれる一冊でもあります。

 高野秀行さんの著作としては、他に、日本国内に住む各国の人々と一緒に食事をするという国内世界一周旅行記『移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活』、飲酒が禁止されているイスラム諸国であえて酒を探し求める冒険を書いた『イスラム飲酒紀行』の二冊を読みました。どちらもべらぼうに面白い。

 なお、『移民の宴』にも登場する盲目のスーダン人、アブディンさんが書いた(高野秀行プロデュース)『わが盲想』も魅力的でした。

 町田康さんによる好評猫エッセイシリーズ、その第四弾『猫のよびごえ』も素晴らしい。ついつい捨て猫を保護して、多数の保護猫たちに大いに振り回され続ける著者。愛犬スピンクが見てないところで、生と死から眼を逸らすことなく猫たちに深い愛情を注ぐその姿に思わず涙と失笑が。

 愛犬との生活と別れを通じて静かに「いのち」を見つめる伊藤比呂美さんの『犬心』。単なる犬エッセイではなく、仏教説話を思わせるような無常観や哀切が静かに伝わってくる名作です。血の滴るような生々しい文章で女の人生を描く『閉経記』も強烈でした。

 他に、エッセイ集では、穂村弘さんの『もうおうちへかえりましょう』と『世界音痴』、万城目学さんの『ザ・万字固め』と『ザ・万歩計』、三崎亜記さんの『ミサキア記のタダシガ記』が面白いと思いました。

 異色作としては、一人の郵便配達夫が33年の歳月をかけ手作業で作り上げた奇怪な宮殿「シュヴァルの理想宮」の完成百周年を記念して出版された『夢の実現するところ 郵便配達夫シュヴァルの理想宮に捧げる』が忘れがたい。何しろ、福永信、山崎ナオコーラ、いしいしんじ、など豪華メンバーが寄稿しています。

 職業エッセイとしては、書評家が「名作のラスト一行」に注目した『名作うしろ読み』(斎藤美奈子)、ピアニストが「同業者がいかに変人であるか」を赤裸々に描いた『ピアニストという蛮族がいる』(中村紘子)、哲学者が「そもそも必要とされない哲学者というものが、大学を退官すると、どれほど不要になるものか」を実践的に探求した『不要家族』(土屋賢二)など。

 アルコール中毒の関係者(元患者、家族)が、その恐ろしさや対策を訴えた『実録! あるこーる白書』(西原理恵子、吾妻ひでお、月乃光司)は、著者たちの愛読者だけでなく、なるべく広く読まれて欲しい一冊。

 猫写真集も色々と読みましたが、特に印象に残っているのは、『のせ猫 かご猫シロとおなじみ4人弟子』(SHIRONEKO)、『みさおとふくまる』(伊原美代子)、の二冊です。


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