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2013年を振り返る(3) [詩歌] [年頭回顧]

 2013年に読んだ歌集と詩集のうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2013年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 まず歌集ですが、昨年は「新鋭短歌シリーズ」に好みの歌人が多いことを発見して狂喜乱舞。こういう短歌を読みたかった、しみじみそう感じるような作品が無造作に転がっていて、書店に行く度に宝探し気分ですよ。今年も何冊か読んでみます。

 木下龍也さんの『つむじ風、ここにあります』は、現代に潜む抒情を的確にえぐりだす鋭さに感心させられます。
「女子アナの真顔で終えるザッピング眠るまえには女が見たい」

 斉藤真伸さんの『クラウン伍長』も、知っていたのに気づかなかった、思わず、はっ、とするような気付きを与えてくれます。
「ビッグバンはなかったのかも蝙蝠がいつのまにやら部屋制圧す」

 堀合昇平さんの『提案前夜』は、IT企業の営業職という現場の理不尽を見事に表現していて、笑うべきか泣くべきか戦慄すべきか大いに迷う、という感覚を教えてくれました。
「「ナイス提案!」「ナイス提案!」うす闇に叫ぶわたしを妻が揺さぶる」

 仕事の現場を詠むという点では、新鋭短歌シリーズではありませんが、高校教師の日常を詠んだ大松達知さんの『アスタリスク』も面白かった。
「ビミョウかも、ふつうに、なにげに、よくなくない? すれ違ふたび死ねと言ひたり」

 石川美南さんの歌集は、『離れ島』、『裏島』、『砂の降る教室』の三冊を読みましたが、いずれも個人的ツボにヒット。
「午前二時のロビーに集ふ六人の五人に影が無かつた話」

 石川美南さんが選考委員の一人ということで、期待して読んだ『怪談短歌入門 怖いお話、うたいましょう』(東直子、佐藤弓生、石川美南)も楽しめました。
「オバQはそうじゃないよとナミちゃんの描いたあの絵を忘れたかった」(小瀬朧)

 詩集としては、少なくとも現時点では珍しい「Kindle専用詩集」という、三角みづ紀さんの『夜の分布図』が素晴らしい。個人的に恋愛詩は苦手なんですが、それでも強烈に引き込まれました。
「あなたが降っている/絶え間なくあなたが/降っていたんだ」

 疋田龍乃介さんの『歯車vs丙午』のインパクトはもの凄くて、その狂騒感と言語ねじりには爆笑必至。昨年読んだ個人的ベスト詩集です。
「桜の森の満開の下A左右L上下丙午/まわる歯車の荒い吐息の60年」

 ブリングルさんの『、そうして迷子になりました』も、その解放感と高揚感でシアワセ気分。
「ぷすんぷすんと軽石みたいに酸素を孕んで今日もごきげんよかよかと過ごしている普通のおんなのこですから」

 河野聡子さんの『時計一族』および『Japan Quake Map "sapporo"によるヴァリエーション』も、その言葉のうねりと隠しSFセンスがたいそう好みです。
「このうましかしかうまかもしかももんがもーん。」

 阿賀猥さんの『真実のお多福豆』および『揺るがぬヘソ曲がりの心』は、一途さと辛辣な視点が印象的で、記憶に刻まれています。
 「私の不潔さが家をおおい、町をおおう/それから、悪運が私を襲う」

 他に、痛々しいまでの抑圧と抵抗に驚かされる『適切な世界の適切ならざる私』(文月悠光)、擬古文体から官能描写まで駆使した超絶技巧に圧倒される『カメリアジャポニカ』(高塚謙太郎)、育児詩としてかっこいい『ねこじゃらしたち』(栗原知子)、日常生活のなかに驚きを見出す『あさって歯医者さんに行こう』(高橋順子)、季節感を重くはらむ風景を描く『疾走光』(一方井亜稀)、などが印象に残りました。


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