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『スリランカの赤い雨 生命は宇宙から飛来するか』(松井孝典) [読書(オカルト)]

 「スリランカの赤い雨のサンプルを入手して研究を始めました。その中で、いくつかの面白い発見がありました。その一つが、高濃度のウランが細胞内と細胞壁の両方から見つかったことです。これはノリ・ミヤケの発見です。もう一つの発見は、リン酸がないことです。これはスリランカのグループの発見です。リン酸がないということはDNAがないことを意味します。(中略)リン酸の欠落だけでなく摂氏400度での増殖(複製)が報告されています」(単行本p.164、165)

 「今までの研究に基づいて言えることは、2001年にケララ州で降った赤い雨も2012年にスリランカに降った赤い雨も、少なくとも塵でもなければ藻でもなく、限りなく宇宙由来であることを示唆しているということです」(単行本p.165)

 2012年11月、スリランカで降った「赤い雨」。そこに含まれていた細胞状物質の分析結果は驚くべきものであった。地球上のものとはとうてい考えられない異質な有機体。それは宇宙からやってきたのだろうか? アストロバイオロジー(宇宙生物学)の研究者が赤い雨の謎に迫る一冊。単行本(角川学芸出版)出版は、2013年11月です。

 『生命はどこから来たのか? アストロバイオロジー入門』の松井孝典さんが、同書にも書かれていた、「スリランカの赤い雨」に関する最新報告をまとめてくれました。

  2013年11月07日の日記:
  『生命はどこから来たのか? アストロバイオロジー入門』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2013-11-07

 「2013年4月初め、三宅君とチャンドラから、急ぎの連絡が届いた。赤い雨から採集した細胞状物質の細胞壁部分にウランの濃集がある、というのである。加えてその部分には、スリランカの研究グループの分析によると、リンがなく、その代わりにヒ素があるという」(単行本p.30)

 空から降ってきた赤い雨、その中に地球上の生命とは考えられない細胞状物質が大量に含まれていた、というのです。にわかには信じがたい話です。そもそも、赤い雨が降った、などという話は本当なのでしょうか。

 「赤い雨だけではない。ミルク色や、その他、様々な色に着色した雨が降ったという記録は、世界各地に数多く残されている。それを調べた論文がある。(中略)赤い雨現象168例のうち、100例が赤い雨で、残りの68例がその他の色の雨等の現象である。100例の赤い雨現象のうち、80例が雨そのもの、残りの20例が、河が赤くなるなどの現象である。そのうち、隕石落下と関係するのは、赤い雨80例中23例、残りの20例中13例、その他の68例中24例である」(単行本p.50、53)

 どうやら色つきの雨が降ること自体は決して前代未聞の珍事というわけではなく、しかも記録されているケースの半分近くで同時に隕石の落下が観察されている、ということが分かります。もしや、隕石によって宇宙から運ばれてきた何かが・・・。

 「2001年7月25日から約2ヶ月に亘って、インド南西部に位置するケララ州の広範な領域で、赤い雨が降った。ケララ州の赤い雨に関して、本格的な研究成果は、2006年、ルイスとクマールによる論文で発表されている」(単行本p.68)

 「赤い色は、4~10ミクロンサイズの赤い雨粒子による。(中略)赤い雨粒子は、単細胞の生物のように見える。この細胞状の粒子は、色のついた、厚い外皮を持つ。(中略)層状の構造が見られるが、核は見られなかったという」(単行本p.72)

 「信じられないが、高圧釜の中で摂氏300度もの高温にしたところ、増殖したという。実際、われわれの手元にある試料にも、増殖により、新たに誕生した娘細胞が存在した」(単行本p.61)

 深海の熱水噴出孔付近のような高温水中で増殖し、核を持たない細胞状粒子。そんな報告が論文として発表されているということに驚かされます。

 そして、いよいよ舞台はスリランカへ。著者が現地に飛んで「赤い雨」を調査した結果が示されます。

 「赤い雨粒子は厚い外壁を持ち、その内部に多重の膜構造を持つ。ケララ州の赤い雨粒子と同じような細胞状物質であることが分かる。(中略)画像に示すように、細胞分裂が起こりはじめている細胞もある」(単行本p.78)

 「驚くべき発見は、細胞壁にウランが存在することである。EDAXを用いた元素分析によると、細胞全体と細胞壁とでは、その元素組成が異なる。細胞壁にはウランが存在し、細胞内にはリンが少ない。(中略)われわれの結果ではないが、スリランカのナノテクノロジー研究所の分析では、ヒ素の存在が確認されたという」(単行本p.79)

 もし本当にこれが宇宙からやってきた生命だとしたら、大発見です。信じがたい話としか思えませんが、著者によると「生命は宇宙からやってきた」という主張は古くからあり、総称して「パンスペルミア説」と呼ばれています。

 宇宙が有機物に満ちていること、地球上での生命の発生は予想外に困難であること、いくつかの種は地球上ではあり得ない環境に適応する遺伝子を持っていること、などを挙げつつ、著者はフレッド・ホイルとチャンドラ・ウィックラマシンゲによる現代の「パンスペルミア説」に対して肯定的な見解を示します。

 「彼らの考えは、荒唐無稽ではない。科学的に検討されてしかるべき考えである。現在の科学の水準は、ようやくその検討が可能なレベルに達したと言える。「赤い雨」現象と同様、彼らのパンスペルミア説も今後、科学的検討が始まるであろうことを著者は予感している」(単行本p.104)

 というわけで、ここで終わっていればわくわくサイエンス本なのですが、本書には「第2部」として著者とチャンドラ・ウィックラマシンゲ博士の対談が収録されています。これが問題でして、ウィックラマシンゲ博士があまりに過激なことをしゃべりまくるため、一気にオカルト本のノリへと突き進んでゆくのです。喜ぶか、眉をひそめるか、それは読者次第。

 「彗星は太陽や地球が誕生した時の物質そのものです。そしてその中に初めから生命が宿っていたと考えられます。それどころか宇宙塵そのものが、生命であると考えています」(単行本p.170)

 「確率論からも、地球上の池のような粘土の水溜まりの中から生命が誕生する可能性は、彗星の中と比較して1万分の1位です。その上、数ということになると、太陽系の中には膨大な数の彗星があります。(中略)いずれにせよ、生命が地球から発生した可能性はほとんどないと考えています。それどころか、その痕跡すら何一つ見つかっていません」(単行本p.140)

 「ダーウィンの進化論は、地球が絶えず宇宙から遺伝子が入ってくるという開放系であれば成立します。エビは地球上に誕生してからほとんど何も変わっていません。外部から遺伝子が挿入されなかった種は進化しないという一例です」(単行本p.147)

 「ウイルスの中に人間の遺伝子を2万5000個くらい入れて宇宙に放出すれば、人間は不滅でいられます」(単行本p.149)

 このあたりまでは何とかついてゆけるのですが、対話が進むにつれて、ギアがどんどんアップしてゆきます。

 「われわれの遺伝コードが宇宙に拡散していると考えればいいことですから。地球上で再編・再構築された遺伝コードを宇宙に輸出(放出)しているからです。われわれの中にある情報は、もう次の地球に提供されているはずです」(単行本p.188)

 「言語能力の遺伝コードが宇宙からやってきたウイルスなどに運ばれて、それが人間に挿入されることによって人間が変わった。このように考える方が科学的であって、ダーウィン的な進化の仮説は極めて非科学的で不自然です。ダーウィンの進化説は実証されていません。仮説です」(単行本p.174)

 「ビッグバン宇宙論が、宇宙の創成に関して正しいとも最終的に認められる理論になるとも思っていません。ビッグバン宇宙論は当面の仮の理論であって、今流行っている宇宙論にすぎないと考えています。(中略)今日にいたるまで定常宇宙論が宇宙の正しい理解であると考えています」(単行本p.197、198)

 「生命には宇宙意思のようなものがあって、複製して拡散することが使命のようなものです。ですから宇宙空間における恒星の誕生は、生命の指令によるものであると考えることができます。(中略)物理的に恒星が誕生しているのではなく、生命の永続のために生命の宇宙意思にしたがって、星や惑星が誕生している。このような考えです」(単行本p.195)

 「近い将来、われわれは人間が自分の自由意志で考えていると思っていることが、実は錯覚にすぎない幻想であることを悟ります。われわれは、単に外部からコントロールされているだけであることを識るのです。人間は、宇宙から来て、そのDNA(ヒトゲノム)の中に静かに潜んでいるウイルスによって生かされているだけであることに気付くのです」(単行本p.213)

 エキセットリック科学者ラヴ、異端学説萌えの読者なら、小躍りしたくなるような奇抜な発言の数々。個人的には、この第二部のおかげで、せっかくの「スリランカの赤い雨」の分析結果の信憑性ががくんと損なわれたように感じられ、しょんぼりです。

 というわけで、アストロバイオロジーからパンスペルミア説へ、ウイルス進化論から大いなる宇宙意思へと到る、サイエンスとオカルトの間をきわどく駆け抜ける一冊です。このあたりの微妙な機微をこよなく愛する方々にお勧め。


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