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『食堂つばめ2 明日へのピクニック』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]

 「おいしいものをおいしいと思うことで、生きることを思い出してもらうのが、この食堂つばめなんです(中略)作るのはあなたの思い出の料理です」(文庫版p.28、32)

 生と死の境界にあるという不思議な街の「食堂つばめ」では、誰もが自分だけの思い出の料理を食べることが出来るという。大人気『ぶたぶた』シリーズの著者による新シリーズ第二弾。文庫版(角川書店)出版は2013年11月です。

 「はっきり申し上げますけど、あなたは今、臨死体験をなさってるんです」(文庫版p.23)

 そのまま死んでしまうか、生き返るかの境目にいる人に、思い出の料理を食べさせて生きる気力を取り戻させる(ついでに自分も相伴にあずかってうまいものを食う)という目的で開かれた小さなお店。食堂つばめ。

 「ぬいぐるみ+中年男性」という意表をついた組み合わせで好評を博した『ぶたぶた』シリーズの著者が、今度は「臨死体験+食いしん坊」というこれまた意外性のある設定を打ち出した『食堂つばめ』シリーズ、その第二弾が早くも登場です。

 今巻には、四つの話が収録されています。幼児、少女、青年、老人、年齢性別さまざまな人々が食堂つばめを訪れ、自分の命を見つめることになります。


『第一話 なつかしい街』

 「そもそも女房との出会いのきっかけがその肉じゃがなんです」(文庫版p.40)

 その青年が食べたいと思ったのは、妻が作ってくれた肉じゃが。「肉じゃがではなくて、じゃがいものそぼろ煮なのでは・・・・・・?」(文庫版p.40)と指摘されながらも、「うちの肉じゃが」を食べた彼が思い出した大切なこととは。ここで設定と物語の基本パターンが提示されるので、前巻を読んでない方でも大丈夫。


『第二話 夢のランチバスケット』

 「小さなお弁当箱を開けた時の気持ちはどんなプレゼントよりもうれしかった。(中略)ママが作ってくれたお弁当のおかずは、なんでもおいしかった」(文庫版p.101)

 身体が痛くない、苦しくもない、何でも出来る。病院で子供が目覚めたとき、そこは夢のなかのような不思議な場所。やがて彼女はその街で出会ったお姉さんとピクニックに出かけ、「食堂つばめ特製ランチバスケット」(文庫版p.104)を開く。何でも食べられることの喜び。

 生まれたときからずっと病弱だった薄幸な幼子の健気さに、うるうる、くる話です。「迷子にも一度なってみたかったの!」(文庫版p.80)、「苦しくなくて寝るのは初めて」(文庫版p.83)、「大人にはならないと思うな」(文庫版p.99)など、泣けるセリフが満載。だからこそラスト一行のキメに感動します。


『第三話 最後の待ち合わせ』

 「あの「待ち合わせ」という時間は贅沢だったんだな、と今思う。携帯電話もない時代、ただひたすら相手が来ると信じて待つだけ」(文庫版p.132)

 「私は生き返る気はありません」(文庫版p.123)ときっぱり言い切ったその老人が望んでいるのは、亡き妻との再会。そのためには妻との待ち合わせ場所を見つける必要があるのだが・・・。

 今回は喫茶店となった食堂つばめ、冷たいコーヒーゼリー、香りが爽快なレモンパイ、もちもちのマカロニがとろとろホワイトソースと溶け合うマカロニグラタンという、昭和感あふれる懐かしの味を次々と出してくれます。料理の美味しそうな描写という点では、本書収録作のうち最高でしょう。


『第四話 そこにしかない道』

 「あたしなりに人生全うしたよ」
 「十六歳でやり直しが効かないと思っている時点で、全うしているとは言えません」(文庫版p.182)

 やってきたのは、自殺した少女。「そこまで生きるつもりなかったなあ。昔から早死にするって決めてましたから」(文庫版p.173)などと斜に構えたことを口にしながらも、生きたい死にたくないと身体が叫んでいるような彼女を、「おばあちゃんの揚げ餅」は救うことが出来るのだろうか。


 四話とも、みんな文字通り「命がけ」の状況に立っていて、設定としてはシリアスなんですが、何しろ基本「食いしん坊」の世界観で書かれているので読後感は明るく、のどかで、どこかユーモラス。病気や自殺といった薬味と、よろこびあふれる料理の描写、そのさじ加減が素晴らしい。

 「死ぬことは逃げ道ではないのよ(中略)いつかはそこにしか道がなくなるの。生きることだって同じよ。生きるしかないから、生きるのよ」(文庫版p.191)

 などと、じんとくるセリフを抜き出しつつ、しかし今巻で個人的に最もウケたセリフは、「服装で『今日どれくらい食べるか』がわかる女でしたね」(文庫版p.147)というもの。ぜひ本書でご確認ください。

 というわけで、この食と人生への肯定感に満ちた幸せな物語が、『ぶたぶた』と並ぶ人気シリーズに成長することを期待したいと思います。

 「おいしいところをわかってくれるとうれしい。 おいしいものを食べると、とりあえずうれしい。 だから、この食堂があるんだな」(文庫版p.197)


タグ:矢崎存美
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