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『戦いの虚空(老人と宇宙5)』(ジョン・スコルジー) [読書(SF)]

 「これでどういうのが彼らにふさわしい状況かわかっただろう。ハイリスク・ハイリターンで、成功への道が用意されてはおらず、毒ヒキガエルでいっぱいのジャングルを山刀で切り開かなければならないような状況だ。(中略)クラーク号のクルーのような連中がいてもかまわないじゃないか----ほかに打つ手がなくなったときにパラシュート降下させる特命チームだ」(文庫版p.111、112)

 外交チームを乗せた宇宙船クラーク号。そこに乗り込んだコロニー防衛軍ハリー・ウィルスン中尉の冒険(災難)を描く「老人と宇宙(そら)」シリーズ最新刊。文庫版(早川書房)出版は、2013年10月です。

 ペリー来訪により鎖国をとかれた地球は、コロニー連合との関係を途絶。さらにエイリアン諸種族連合「コンクラーベ」は、コロニー連合から地球を引き離したままにしようと画策している。

 「われわれは地球において活発な外交的存在感を維持してきている。おもな国家の首都のうち五つに外交使節を置き、地球の各政府と人びとに、たとえコロニー連合と和解しないという選択をしたとしても、地球にはつねにコンクラーベに加盟する道があるのだと意識させている」(文庫版p.275)

 しかし、コンクラーベ内部でも、人類は危険なので殲滅すべしと唱える強硬派が次第に勢力を伸ばしていた。

 一方、兵力の補給を断たれたコロニー連合は、生存のためにエイリアン諸種族との外交に全力で取り組むことに。だが見通しは暗かった。

 「最善の推定でも、政体としてのコロニー連合は五年から八年で崩壊するでしょう。コロニー連合という包括的な防御構造を失ったあと、残った人類の惑星は二十年以内にすべて攻撃を受けて一掃されるでしょう。つまり、いまこの瞬間からですと、人類の絶滅まであと三十年ということです」(文庫版p.34)

 そんなとき、外交船クラーク号に乗り込んでいるハリー・ウィルスン中尉をはじめとするメンバーは、ろくでもない任務ばかり押しつけられ、いつもひどい目にあっていた。

 「われわれが引き受けるのは、低レベルな任務か、もしも失敗したら、そもそもの命令ではなくわれわれに責任が押しつけられるような任務なんだ」(文庫版p.26)

 だが、それはコロニー連合上層部によるカモフラージュ。実は密かに特命チームに選ばれた彼らには、本人たちも知らないうちに、人類の命運がかかった重要任務が次々と与えられていたのだ。そして、もちろん、彼らはこれからもずっとひどい目にあうはめに。

 というような背景のもと、全13エピソード、1クール分のTVドラマという体裁で書かれたのが、本書です。これまでのシリーズと違って、ドンパチより外交に力点が置かれており、まあ懐かしTVシリーズ『バビロン5』みたいな感じ。

 登場人物はいつもの通り類型的。この宇宙には「有能で、態度は厳しく、常に辛辣なことを口にする女性上司」、「自虐的軽口と皮肉をとばしながら、仕事はしっかりやるタフガイ」、「足をひっぱる無能」、という三種類のキャラクターしか存在しないので、しかもエイリアン種族だろうと何だろうとみんな現在の米国中産階級リベラル白人の価値観および世界認識に沿った考え方しゃべり方をしますので、どなた様も安心して読むことが出来ます。

 内容については、登場人物が的確に要約してくれますので、それを引用しておきましょう。

 「この一年はいろいろあった。エイリアンたちに外交交渉の一環としてつばを吐きかけられた。乗っている船がミサイルで攻撃を受けてあやうく爆発しそうになった。また別の、ぜんぜんちがう交渉では、エイリアンから人間の頭を届けられた。そして、みんなも知ったばかりだけど、三つめの交渉では犬に電気を流して気を失わせた」(文庫版p.457)

 「CDFに利用されて、内部にいるスパイを探し出そうとしたことがあったが、うまくはいかなかった。地球の使節団が船をおとずれたときには、そのうちのひとりが別のひとりを殺害して、われわれに罪を着せようとしたが、その理由はいまだにわかっていない。アーシ・ダーメイ号の件もある。あの船は、コンクラーベと会おうとしたわれわれに発砲したが、どこの勢力にコントロールされていたのかは不明だ」(文庫版p.571)

 ただでさえクソのような状況なのに、さらにコロニー連合に対して謀略や直接攻撃を仕掛けてくる謎の敵勢力にも翻弄されるクラーク号チーム。果たして彼らはコロニー連合の外交戦略を成功させ、宇宙における人類の生存を確保することが出来るのか。というか、そもそもこのタフな状況で彼らは生き残れるのか。そして、地球、コロニー連合、コンクラーベという三つ巴の勢力争いはどこに向かってゆくのか。

 付録として、本篇の前日譚『ハリーの災難』、後日譚『ハフト・ソルヴォーラがチュロスを食べて現代の若者と話をする』が収録されており、独立した短篇として楽しめます。

 なお、『ハリーの災難』はSFマガジン2011年12月号に掲載されています。お読みになった方は、あんな感じの冒険(災難)が続く連作長篇だと思って頂ければ当たらずといえども遠からずかと。

  2011年10月28日の日記:
  『SFマガジン2011年12月号 特集:The Best of 2005-2010』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2011-10-28

 というわけで、外交中心なのでこれまでの『老人と宇宙(そら)』シリーズのなかでは地味な印象もありますが、最後には、TVシリーズでこの特撮は予算的に難しいだろう、という一大スペクタクルシーンが待っていますのでご期待ください。

 主人公をチェンジしてシリーズ再起動ということなので、『老人と宇宙(そら)』シリーズこれまでの巻をすっ飛ばして本書から読み始めるというのもアリです。なお、話はまったく完結してない、というか始まったばかりなので、セカンドシーズン(突入決定)が待ち遠しい限り。『バビロン5』は全5シーズン続きましたが、はてさて。


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