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『SFマガジン2013年12月号 ジャック・ヴァンス追悼特集』 [読書(SF)]

 SFマガジン2013年12月号は、今年亡くなったSF界の巨匠、ジャック・ヴァンスの追悼特集ということで、短篇3篇を翻訳掲載してくれました。さらに先月号に前篇が掲載されたストロス作品の後篇、そして草上仁さんの短篇も。


『世界捻出者』(ジャック・ヴァンス)

 「人は悪夢のあいだに起きたことに責任を負うんだろうか?」(SFマガジン2013年12月号p.33)

 重要な情報を持ったまま逃亡した女を追って宇宙を駆け巡る主人公は、ある異星生物の“思念内世界”でついに彼女に追いつくが・・・。仮想現実ファンタジィや狂った自然法則など、ヴァンス色が既に色濃く感じられるデビュー作。


『ミス・ユニバース誕生!』(ジャック・ヴァンス)

 「宇宙の至宝、究極の美女たちが一堂に! カリフォルニア州三百年記念博覧会で見よう! ミス宇宙(ユニバース)誕生の瞬間を!」(SFマガジン2013年12月号p.47)

 第一回汎銀河美人コンテストが開催され、様々な星から異形のエイリアンたち(雌)が地球に集結。体側を18本の多間接脚が取り巻くミス・ケンタウルス座9518、100匹のクラゲがからみついた大きな回転草のようなミス・牡羊座44R951、狩りバチの頭を持ったアルマジロそっくりのミス・エリダヌス座アルファ星など、あまりにも多様な「美女」の美しさを公平に比べるため、主催者は巧妙な手段を考え出したのだが・・・。

 ミス・ユニバース候補「美女」たちの説明が延々と続いたりして、おバカ満点のドタバタSF。


『暗黒神降臨』(ジャック・ヴァンス)

 「それこそは、大いなる暗黒神のごとき存在にほかなりません。それは圧倒的な危機をもたらします。それはいかなる抵抗をも許しません」(SFマガジン2013年12月号p.83)

 採掘場で働いている作業員たちが定期的に全消失してしまう小惑星の謎。調査に赴いたのは、老哲学者マグナス・リドルフ。シリーズものの一篇で、意外にもハードSFっぽい展開になりますが、何しろヴァンスなので、読み所はむしろ舞台となる小惑星の風景描写。


『ウンディ』(草上仁)

 「ただ想うところを表現したいのではなかった。ただコンテストに優勝したいのではなかった。ただ認められ、プロになりたいのではなかった。優しく、真面目で、いい音色をしたサッコと一緒に、それを成し遂げたかったのだ」(SFマガジン2013年12月号p.139)

 生きた楽器として使われる異星生物ウンディ。サッコという名のそのウンディを「弾く」バイオミュージシャン、シロウが仲間と共に音楽コンテストに参加する。だが、完璧な演奏のためにはサッコでは力量不足。もっと「性能」の高いウンディを手に入れろ、という忠告を聞き流し、大切な友であるサッコと共に音楽の高みを目指すシロウだったが・・・。

 ミュージシャンの楽器に対する愛情をテーマとした音楽SF。ウンディの演奏シーンでは、『猫弾きのオルオラネ』(夢枕獏)を思い出しました。


『パリンプセスト〈後篇〉』(チャールズ・ストロス)

 「そのヴァージョンのきみの反復タグは数百万という膨大な数にのぼる。これはただのパリンプセスト待ち伏せではない。書き換えと注釈と企図された矛盾からなる口伝律法(タルムード)が積みあがって、恐ろしい非歴史の津波となり、きみの頭の上からなだれ落ちる」(SFマガジン2013年12月号p.261)

 タイムパトロール組織「ステイシス」のエージェントとなった主人公は、謎の敵から待ち伏せ攻撃を受ける。その時間帯は、書かれていた文字を消してから再利用される羊皮紙(パリンプセト)のように、何度も何度も上書きされていたのだ。九死に一生を得た彼は、この事件の背後にある陰謀を探ってゆくが・・・。

 ストロス版『永遠の終り』(アイザック・アシモフ)という趣向の中篇。展開はアシモフと大差ありませんが、そこはストロス。平気でこんな目茶苦茶スケールのでかいことを書いてしまいます。

 「銀河系からボイドに向けて太陽系を脱出させるための〈長期噴射〉は一万世紀続く。千億年がたったが、地球は局部銀河群から二億光年しか移動してない。銀河星団は宇宙の事象地平面の向こうへ去ってしまう。それから百京年が過ぎた。遠からず最後の〈再播種〉のときが訪れる」

 ほかにも、「宇宙の終わりが近づいて水素原子がなくなってきたため、三百億年ほど前に、全生物の酵素系に手を加えることで生物圏を「重水素化」した」とか、「ステイシスへの忠誠を誓う儀式として「二秒前の自分を殺せ」と命じられた主人公がいざそれを実行しようとしたとき、背後から刺された」(・・・バカ)とか、あまりに節制なくストロスなので、たじろいでしまいます。


[掲載作品]

『世界捻出者』(ジャック・ヴァンス)
『ミス・ユニバース誕生!』(ジャック・ヴァンス)
『暗黒神降臨』(ジャック・ヴァンス)
『ウンディ』(草上仁)
『パリンプセスト〈後篇〉』(チャールズ・ストロス)


タグ:SFマガジン
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