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『小さな家 UNE PETITE MAISON』(中村恩恵、首藤康之) [ダンス]

 2013年10月05日(土)は、夫婦で新国立劇場に行って中村恩恵さんと首藤康之さんの新作公演を鑑賞しました。

 近代建築の父、ル・コルビュジェの人生と思想をダンスで表現した上演時間65分の作品。

 舞台上に置かれているのは、人が何人も入れるような白い巨大な長方形。これがル・コルビュジェの「小さな家」という設定で、ちゃんとドアや窓もついていますし、背面には壁がないので中の「部屋」が丸見えになっています。どうやって観客に背面が見えるのかといいますと、舞台上で四人のスタッフが人力で回転させるのですね。

 中村さんや首藤さんが入った「小さな家」をスタッフが全員でゆっくり回したり、奥から手前に移動させたり、また奥に戻したり、という具合にスタッフも大仕事。お疲れさまです。さらに「小さな家」は、その白い壁面に映像(ル・コルビュジェが設計した代表的な建築物の写真、および各章の表題など)を投影するスクリーンとしても活用されます。

 この大道具を背景に、二人がそれぞれ何役かの人物を演じ分けます。首藤さんはル・コルビュジェ、中村さんはその妻、というのが基本。セリフはほぼ皆無で、人物像は服装とダンスだけで表現されます。

 これまで二人の共演においては、中村さんが演じる女性は極めて謎めいた、神秘的な存在であることが多かったのですが、今作ではもっと世俗的というか、初々しい可愛らしい若妻、凛々しい美人、品のある老女(配役リストによるとル・コルビュジェの母親)、といった具合に、ほぼ身体の動きだけで見事に演じ分けてみせます。

 すっと手をのばす、小走りになる、身体を傾ける。中村さんの一つ一つの動作が驚くほどの繊細さでダンスとなり、演じている人物像を表現するだけでなく、どこか内面へ内面へと掘り下げてゆくような凄みすら感じさせて、それはもう見ているだけで鳥肌が立つような感動を覚えます。

 中村さんの精微なダンスに対して、首藤さんは、巻き尺であちこち計る動作などコミカルな動きから、感情のたかぶりを外に外にと発散させるような爽快感ある動きまで、華のある気持ちいいダンスを見せてくれます。振付は中村さんですが、さすが首藤さんの「見せかた」を熟知しているなあ、という感じ。

 というわけで、対照的な二人のダンス、そしてそれが組み合わさったデュオ、すべてが美しく、感動的で、心を震わせます。二人の共演作品はいくつか観てきましたが、個人的には、本作が最も気に入りました。

[キャスト]

振付: 中村恩恵
出演: 首藤康之、中村恩恵


タグ:中村恩恵