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『SFマガジン2013年11月号 特集:The Best of Foreign Short Fictions(海外SF短篇セレクション)』 [読書(SF)]

 SFマガジン2013年11月号は、「海外SF短篇セレクション」として、最近の海外SF短篇話題作から5篇を選んで翻訳掲載してくれました。


『ホワイトフェード』(キャサリン・M・ヴァレンテ)

 「この制度はひどい状況のなかで最高の部分なの。ひょっとしたらどうしようもないほどひどいことになっていて、わたしたちには修復できないかもしれない状況のなかで」(SFマガジン2013年11月号p.20)

 断片的シーンから浮かび上がってくる、国家に生殖をコントロールされた核戦争後の米国。それでも古めかしいアメリカン・ウェイ・オブ・ライフの見せかけにしがみつき、それを必死で演じている大人たち。悲惨な人生を受け入れるしかない子供たち。

 ディストピアSFですが、実は現在アメリカ中産階級白人たちの痛々しい心象風景を表現した作品かも知れないと、個人的にはそう思いました。


『ジャガンナート----世界の主』(カリン・ティドベック)

 「わしらの世界が駄目になったとき、マザーがわしらを受け入れてくれた。マザーはわしらの守り手、わしらのふるさとだ。わしらはマザーの協力者であり、最愛の子供たちなのだよ」(SFマガジン2013年11月号p.39)

 「マザー」と呼ばれている生物(おそらく巨大ムカデ型バイオメカノイド)の体内に共棲している人類の末裔。そこで生まれた一人の少女(?)は、粘液のなかで消化器官の一部として働いていた。しかし、マザーに異変が起きたとき、彼女は外界を目指す旅に出ることに。

 生物都市というか、内臓版『地球の長い午後』、いやむしろジュブナイル版『皆勤の徒』というか。私たちからは悲惨に思える世界と状況のなかで、精一杯サバイブする子供たちの姿を描いた短篇。


『最終試験』(メガン・アーケンバーグ)

 「事態がとんでもないことになっているということを知ったのは----腹の底に達するほど、心の琴線に触れるほどに実感したのは----どの時点か?」(SFマガジン2013年11月号p.51)

 まるでTOEICのヒヤリングテストみたいに、選択肢の中から「正解」を答えよ、と読者に迫る作品。ジョン・スラディックにもそういう形式の短篇がありましたが、こちらは質問と選択肢から状況が浮かび上がってくるところがミソ。その状況とは、次のうちどれか。

  1. あなたの結婚生活は破綻してひどいことになっている
  2. 深海からやってきた怪物に人々が次々と喰われている
  3. 人生における選択肢の無意味さ
  4. 上記すべて


『真空キッド』(スティーヴン・バクスター)

 「あたしたちは未来なのよ、<真空キッド>くん。あそこに足止めされてちゃ無理だろうけれど」(SFマガジン2013年11月号p.81)

 宇宙船の事故に遭遇した青年は、クマムシのように「宇宙空間に直接さらされても死なない」という特殊能力を自分が持っていることに気づく。彼はコスチュームに身を包んだ覆面ヒーロー「真空キッド」となって、宇宙船事故から人々を救うレスキュー活動を開始、賞賛を浴びる。だが、当然のことながら、宿敵が現れて・・・。

 大規模ジオエンジニアリング(地球工学)を扱った作品なのですが、それをスーパーヒーローものとして書いてしまうという、お茶目なバクスター。


『パリンプセスト〈前篇〉』(チャールズ・ストロス)

 「きみは指を曲げながら、きみが殺そうとしている若者の後ろ姿を見つめる。もうきみの祖父になることのない男だ」(SFマガジン2013年11月号p.243)

 タイムパトロール組織「ステイシス」のエージェントになるためには、自分の祖先を殺すことで自らの存在を歴史から切り離すことが要求される。

 ステイシスのエージェントとなった主人公は、あるミッションで敵の待ち伏せ攻撃を受けて何度も暗殺されるはめに。その時間帯は、「書かれていた文字を消してから再利用される羊皮紙(パリンプセト)」のように、何度も何度も上書きされていた。誰が、なぜ、これだけの手間をかけてまで彼を殺そうとしたのか。

 ストロスお得意の、あれこれネタぶち込みエージェントもの、です。今作に登場する「ステイシス」というタイムパトロール組織は、人類滅亡後に地球を再生してそこに人類を「再播種」するという事業に取り組んでいるらしいのですが、まだ前篇だけなので全容はよく分かりません。後篇を楽しみにしています。どうせ次々と繰り出されるネタの数々に幻惑されて、煙に巻かれてしまうことは分かりきっていますが。ストロスだし。


[掲載作品]

『ホワイトフェード』(キャサリン・M・ヴァレンテ)
『ジャガンナート----世界の主』(カリン・ティドベック)
『最終試験』(メガン・アーケンバーグ)
『真空キッド』(スティーヴン・バクスター)
『パリンプセスト〈前篇〉』(チャールズ・ストロス)


タグ:SFマガジン