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『かあさんは どこ?』(クロード・K・デュポワ:作、落合恵子:訳) [読書(小説・詩)]

 「この本の主人公と母に共通していることは、ともに見放された子どもであること、暴力、悲しみ、恐怖など、子どもが理解できない、巨大な社会の理不尽な現実に、幼くして向きあわなければならなかったことです」
(作者の言葉 『母からゆずりうけた指輪』より)

 戦争に巻き込まれた幼子の体験を描いた絵本。単行本(ブロンズ新社)出版は、2013年02月です。

  「ないた。ときどき ないた。たびたび ないた。
   かあさんをおもって いもうとをおもって
   ともだちをおもって
   その子は ないた」

 突然、戦争に巻き込まれた故郷。外で遊んでいた幼子が戻ってみると、家は破壊され、家族は誰もいなくなっていた。散乱するたくさんの遺体の間を走り続けて、やがて難民キャンプに収容された幼子。だがそこに軍の兵士がやってきて、幼子を強制徴用する。かあさんは どこ? ぼくはどうなるの?

 子供の目から見た理不尽な社会的暴力を、ほとんどモノクロのスケッチ調の絵で描いた絵本。遺体や難民の様子もリアルに描かれていますが、絵柄のおかげで直接的に陰惨な印象はありません。ただ、その理不尽な恐ろしさはひしひしと伝わってきます。

 状況を理解できないまま、恐怖と惨めさにうちひしがれて、母親をもとめる幼子の姿には胸をつかれます。これは今も世界のあちこちで起きている現実ですし、戦争に限らず、子どもたちの身に起きていることなのです。

 「この本では、戦争下の子どもを描きましたが、2011年に日本で起きた大きな自然災害に巻きこまれた子どもについても、わたしは考えずにはいられません」
(作者の言葉 『母からゆずりうけた指輪』より)

 というわけで、大人や社会の理不尽さ、現実の悲惨さに、気づかせるためにも、早めに子どもに読ませてあげたい一冊。

 個人的には、昨日の日記で紹介した絵本『やだよ』(クラウディア・ルエダ:作、うのかずみ:訳)と一緒にこっそり甥っ子に贈ろうと思います。『やだよ』は、母熊とはぐれてしまった小熊のお話ですが、「これはもちろん寓話で、本当の話はこっちの絵本に書いてあるからね」と優しく教えてあげよう。


タグ:絵本
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