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『裏島』(石川美南) [読書(小説・詩)]

  「FW:FW:FW:FW:FW:見た?」

 どこにでもある日常的な光景が、実は摩訶不思議なものであると気付いてしまう歌集。『離れ島』と同時刊行されました。単行本(本阿弥書店)出版は、2011年09月です。

 様々な作品が収録されていますが、勝手に分類して、ざざっと書き写してみましょう。


 [会社] オフィスは謎でいっぱい。

  「眠り課の暗躍により第五号議案もつつがなく夢の中」

  「熱い手で額に判を押されたらここからは眠り課の管轄」

  「鼻うたや夢の類も記録して完璧な社史編纂室よ」

  「<うなぎになりたい貴方のためのプチうなぎレッスン初回二時間無料>」


 [日常] ありがちな光景も、よく考えてみるとずいぶん変。

  「立ち話してゐた主婦がふいに声ひそめて腕をはためかすなり」

  「「次、滞納したら打ち首ですから」と真顔で脅す阿部さんなりき」

  「何ひとつうまく行かざる金曜よポップだらけの書店にひとり」

  「手を振つてもらへたんだね良かつたねもう仰向きに眠れるんだね」


 [水辺] 海に河童はいません。

  「湖の底までとどく水の皺あれが悪意、と教へられたり」

  「海猫がむだ・むだ・むだと鳴くといふ近ごろ本が読めないといふ」

  「目に見えぬ力に竿をあやつられ小さな亀を何匹も釣る」

  「砂浜の砂をぬぐふと一枚の証書出てきてそこに印鑑」


 [春] 一年は春で終るのかも知れません。

  「ニュースソースは定かならねど再来週あたり日本に春の大風」

  「又のおこ・心よりおま・上げますと言って途切るる春の放送」

  「春ニナレバ寂シクナイヨ温イヨと扉の外で踊るのは誰」

  「空腹です、空腹でした。ふかぶかと告げて季節は春へと移る」


 [議論] 何の為にやってるのか分からない人の営み。

  「父と祖父が二時間かけて議論する「最も華麗な凧の揚げ方」」

  「枝豆のさや愛でながら<パンダの尾は白か黒か>についての議論」

  「話し合つて分け方決める 沖に浮く島は私の方でひきとる」

  「ナイーブな結論を出しその後は二人ころころ寝転がるのみ」


 というわけで、他の人が見過ごしているような、奇妙なこと、不可解なこと、変なことを、丹念に拾い上げたような歌集です。いっけん奇矯に見えて、意外と伝統的。同時刊行の『離れ島』についても、明日の日記でご紹介します。


タグ:石川美南
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