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『偉大なる、しゅららぼん』(万城目学) [読書(小説・詩)]

 「わかる? この世で校長と面と向かって戦えるのは私たちしかいないの。だから、チャンスをちょうだい。もう一度だけ、しゅららぼんをして」(Kindle版 No.4903)

 万城目学さんの第五長篇の電子書籍版をKindle Paperwhiteで読みました。単行本(集英社)出版は2011年05月、Kindle版出版は2013年07月です。

 琵琶湖の周辺に、人智を超えた不思議な“力”を持つ一族がいた。それが日出家と棗家である。両家は不倶戴天の宿敵として、長い歴史を通じて常に対立してきたのだった。

 「日出家と棗家はともに「湖の民」だ。琵琶湖を離れては生きていけない。琵琶湖という心臓を失わぬため、両家はどれほど互いにいがみ合い、足を引っ張り合おうとも、力のことだけは絶対に暴かない、という暗黙のルールを守り続けてきた」(Kindle版No.3203)

 日出一族の分家に生まれた主人公が、自らの“力”を嫌いながらも、その宿命に従って本家にやってくるところから物語は始まります。

 「はじめて訪れたのは、生後三日目のことだった。そこで僕は父の腕に抱かれ、鳥居の下で大泣きに泣き、おでこに置かれたかわらけに注がれたご神水をほんの少しだけ撥ねさせた。 その瞬間、僕の名前は“涼介”に決まった。 ついでに十五年後、こうして石走に来ることもまた、同時に決定したのである」(Kindle版No.356)

 本家の跡取り息子といっしょに高校に通う主人公は、あるとき棗家の屋敷に出かけ、そこで見かけた美しい娘に一目惚れ。しかし、相手は日出家の仇敵たる棗家の一人娘。二人が結ばれることは許されないのでした。

 「力と力を持つ者同士は決して結婚してはいけない。 日出家の人間として生きるうえで、誰もが承知している絶対のルールである」(Kindle版No.3775)

 ああ、つまり近江版『ロミオとジュリエット』ですね、などと思ったら、まんまとひっかけられたことになります。実は、話はそっち方向には進みません。両家の消滅を企む恐るべき敵がいきなり現れ、主人公を含む両家の高校生たち三名が手を結び、力を合わせてこの強敵に立ち向かうという、熱血少年漫画風の展開に。

 いや本当です。

 誰も対抗できない、あまりにも強大な敵の“力”。次々と無力化されてゆく両家の人々。もはや最後に残された希望は、しゅららぼんだけ。果たして奇跡は起きるのか、敵に対抗できるのか、間に合うのか。というか、しゅららぼんって、何?

 「絶対に手を組まない、いや組めるはずのない日出と棗の力が合わさったとき、しかも二度それが起きたときだけ、人間はあれを呼びだすことができる」(Kindle版No.4878)

 まあ、「ホルモー」とか「サンカク」とか「大阪全停止」とか、あの類なので、深く考えても仕方ありません。しゅららぼん。

 これまでの作品よりファンタジー要素が強くなっており、前半のゆるやかな学園青春ドラマから、後半に入るや、激しい超能力バトルが勃発し、水柱が石橋を吹き飛ばし、琵琶湖は真っ二つに裂け、天空からは神龍が急降下、そしてついに発動する最終秘術とは、といった具合に、派手なシーン満載。コミック化、映画化されたのも、納得です。

 というわけで、『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』で作風を変えたかと思ったら、再びデビュー以来の路線に戻った第五長篇。京都、奈良、大阪に続いて、今作では滋賀県が舞台。少々、色々な要素を混ぜ過ぎてキレが悪くなっているような印象もありますが、最後まで楽しめる一冊です。


タグ:万城目学
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