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『超能力の科学 念力、予知、テレパシーの真実』(ブライアン・クレッグ) [読書(オカルト)]

 「超能力が実在する証拠を求めて数々の研究を振り返ってきたが、1930年代に行われたラインの実験や、1970年代にSRIで検証されたゲラーの超能力の真偽についての話が、今でも繰り返し語られていることに驚いたかもしれない。(中略)十分な量のデータに基づいて超能力に肯定的な結果が出た研究を探そうとすると、昔までさかのぼらなければならない。このこと自体が真実を示していると言わなければならないだろう」(単行本p.251、252)

 念力、予知、透視、テレパシー。いわゆる超能力は実在するのだろうか。科学的な手法によりその答えを探してきた超心理学者たちの歴史を俯瞰した一冊。単行本(エクスナレッジ)出版は、2013年07月です。

 英国のサイエンスライターが、超心理学の歴史と成果を包括的に紹介する本です。全体は大きく前半と後半に分かれており、まず前半では、いわゆる超能力に関する研究成果をカテゴリー毎に総括してゆきます。これまでに行われた主要な研究プロジェクトとその結果が示され、現時点における結論が示されます。

テレパシー(第3章)
 「ガンツフェルト実験では、初期の実験において指摘された数々の問題点を修正すべく、懸命な改善が試みられた。その結果、1990年代までに、正答率は偶然の確率とほとんど変わらないものになった」(単行本p.69)

念力(第4章)
 「結局のところ、念力は想像力を限界までたくましくしても信じがたい。心で念じることと隔離された場所での物理現象をつなげなくてはならないからだ」(単行本p.81)

予知(第5章)
 「20世紀の予知に関する実験はずさんな管理の下で行われているため、検討する価値がないものばかりだ」(単行本p.91)

 「2011年に行われた実験で驚くべき結果が出た。コーネル大学の心理学者ダリル・J・ベムが、真に予知が働いたと思われるケースに関する論文を発表したのだ。(中略)ベムの実験結果の重要性は低くなる。偶然の場合となんら違いが見られなかったという6つの実験によって、統計上の珍しいまぐれ当たりか、実験上の誤差を含んだ結果だったのではないかという見方が強まるのだ」(単行本p.91、100)

遠隔透視(第6章)
 「今日までに行われたあらゆる実験において、遠隔透視が自己欺瞞とでっち上げを混ぜたもの以上の何かであるという有力な証拠は、まったく見つかっていない」(単行本p.135)

 本書の後半では、しばしば取り上げられる話題として、デューク大学のラインによる研究(第7章)、米軍による超能力研究(第8章)、プリンストン大学における特異現象研究プログラムPEAR(第9章)、そしてユリ・ゲラーのパフォーマンス(第10章)について詳しく見てゆきます。

 「いくつかの実験結果は、単なる偶然の結果であったことは間違いない。そしていくつかの結果は、被験者----ヒューバート・ピアース、サラ・オウンビー、ジョージ・ザークルがすぐに思い浮かぶ----が、少なくとも何回かの試行においてインチキをしたことで作り出されたと思われる。(中略)それに加えて、ときにいい加減だった統計手法、そしてできる限りの結果の取捨選択という明らかな傾向も見られた」(単行本p.179)

 「ラインの実験のすべてがこのようにいい加減だったわけではないが、大半において実験管理が行き届いていなかった。(中略)なぜラインが実験管理をもっと一貫して行わなかったのかはまったく不明であり、そのせいで彼のデータを解明しようと試みる者は混乱の渦に巻き込まれてしまう」(単行本p.164)

 「アマチュア並みとも言える実験の実施方法のせいで、ラインの研究は、彼の意図したようなテレパシーや遠隔透視を証明する決定的証拠とはなりえないのだ。のちに行われた再現実験も、彼をおとしめる目的ではなく、彼の主張を裏づけようとして行われたものであるが、結局、同じ結果を再現することはできなかった」(単行本p.180)

 「軍による超能力研究はアマチュア同然の実験管理下で行われており、ユリ・ゲラーのショーのほうがまだましだと思えるものばかりだった。科学的な正確性、客観性を欠き、厳密な実験管理がまったく行われていないのだ。(中略)どこから見てもとにかくレベルが低いのだ。軍が行った研究だというのに、19世紀の降霊術に関する証言並の価値しかないと言える」(単行本p.191)

 「PEARの研究の信頼性を最も揺るがしたのは、学術界で精査を受けるために結果が発表されたときの経緯かも知れない。(中略)1996年にドイツのフライブルクとギーセンの研究所と、本家本元のプリンストン大学で同様の実験を行うための予備実験が行われた。 どの点から見ても実験は同様の手法で行われ、データ分析にも同一の方法がとられた。しかし、その結果はかかわった人々すべてにショックを与えた。プリンストン大学を始め、どの研究所でも期待値を外れる結果が出なかったのである」(単行本p.203)

 皮肉なことに、超心理学は大成功を収めたことになります。「人間の精神は、既知の物理法則を破ることが出来る」という、直観的には非常にもっともらしく感じられる仮説を、百年に渡るたゆまない努力と厳密な研究を繰り返すことで、合理的な疑いがほとんど残らないところまで明確に否定することが出来たのですから。もしこれが否定されなければ、これまで人間が計測してきた実験観測データは全て信頼できなくなるわけですから、科学全般にとって真に重要な貢献だといえるでしょう。

 というわけで、「超能力の実在はすでに科学的に証明されている!」といった結論を期待していた読者は失望するかも知れませんが、ここ百年近くの間に行われてきた主要な超心理学研究について、実験内容およびその評価について詳しい説明がまとめられている興味深い一冊です。

 超能力というと「胡散臭い話題」としか思わず、きちんとした科学的研究が行われていることをそもそも知らなかったという方から、ラインやプリンストン大学の研究などしばしば引用される有名な超能力実験について具体的に知りたい方、そしてオカルトとサイエンスの狭間に位置する話題となると無性に心ときめいてしまうという方などにお勧めします。

 また、超心理学の現状について非常に辛辣な批判が含まれていますので、真面目な研究者の方々も、一読して大いに発奮するとよいのではないでしょうか。

 「ダリル・J・ベムとディーン・ラディンの予知実験の結果は興味深く、引き続き詳細な調査が必要だが、私たちがもっと学ぶべきはランダム性と統計学なのではないかということを示している。 こんなことを言ったら超能力の研究に日々研鑽を積む超心理学者たちはやっきになって反論してくるだろう」(単行本p.262)

 「できることなら本書で取り上げてきたことの1つ1つについて、明確な言葉で締めくくりたかった。しかし、そうすることができない最大の原因は紛れもなく、超能力に対する科学的研究の質の低さである。そこには2つの大きな問題があり、これまで行われてきた超能力研究の大半は、そのどちらかあるいは両方を抱えている」(単行本p.264)

 「研究者によっては明確な答えを出すより、自分が研究者としてのキャリアを続けられるようにすることが重要だと思っているようにも思える。明確な結果が出れば自分の研究がそれで終わりになることを恐れ、わざと決定的な成果が出ないような実験を大量に行って論文を提出し続けているのではないか、と思わせられるような実験デザインが現にあるのだ」(単行本p.267、268)


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