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『未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる』(ちきりん) [読書(教養)]

 「人生で最も楽しい20代、30代の時間や、働き盛りで視野も世界も広がる40代、50代という期間の多くを「将来の備え」のために費やすなんてつまらなすぎます」(単行本p.5)

 世の中は産業革命に匹敵する大変革期を迎えているというのに、これまで通りの働き方で幸福な人生を送るなんて出来るはずがない。おちゃらけ社会派ブロガー「ちきりん」さんが、自らの体験も含めて自分のアタマで考えた、これからの働き方とは。単行本(文藝春秋)出版は、2013年06月です。

 様々な社会問題や時事ネタについて独自の視点で「考えた」結果を、親しみやすく楽しい文章でアウトプットし、実に面白くて刺激的な記事に仕上げてみせる人気ブロガー「ちきりん」さん。彼女の四冊目の著書です。

 様々な問題を幅広く扱ってきたこれまでの本と違って本書は、私たちはこれからどのように働けばいいのか、仕事についてどう考えたらワクワクするような未来を生きることが出来るのか、という一つの問題を徹底的に考えます。

 「「最近の若い者は我慢がない」、「考えが足りない」などという人もいるのですが、私から見れば、今の中高年の方がよほど何も考えていません。だから、未だにやりたいことが見つかっていないのです」(単行本p.192)

 こう、何となく「今は不景気だから仕方ない。いずれ景気が上向けば雇用環境も改善される」だとか、「とりあえず定年までは我慢。その後にゆっくり人生を楽しもう」だとか、自分でも薄々「嘘くさい」と感じている考えに身を任して、とりあえず今日を生きている私たち。そんな私たちの「思考停止」を、ちきりんさんは容赦なく突いてきます。

 「大半の人が、とりあえず今の場所で頑張るという、静観の道を選ぶのです。 その気持ちはよくわかります。でも、その道の先に明るい未来が約束されているわけではありません。特にこれから40代を迎える世代にとって、このまま歩き続けるのは、あまりにリスキーです。(中略)40代以下の人たちの人生は、逃げ切るには長すぎます」(単行本p.127)

 大企業に勤める50歳の会社員としては悩ましいところなのですが、迫り来る「年給支給開始年齢70歳時代」を前に、本当にこのまま「延々と続く撤退戦」(単行本p.2)につきあうことに残りの人生を費やすのかと問われれば、真剣に考え込まざるを得ません。

 というわけで、本書の前半は、従来のような働き方がなぜ出来なくなるのかを様々なデータを元にはっきりさせてゆきます。

 グローバリゼーション、少子化、長寿化、定年延長、ビジネス構造の変化、子育て環境の変化。IT革命やグローバル化の進展が原動力となって起きている世界の大変動を、分かりやすく整理してゆきます。

 はっきり見えてくるのは、私たちが直面している事態が「失われた何十年」だとか「長引く不況」といったものではなく、世界中を巻き込んでいる後戻りのない大変動であり、私たちはその変化に適応するためにこれまでの生き方・働き方を抜本的に変えるしかないのだ、ということ。イクメン、ワークライフバランス、育児休暇延長、小学校英語教育義務化、そういった小手先の対応でどうにかなるようなものではないということ。

 これを厳しい結論と見るか、大チャンス到来と見るか、読者は自分の問題として考えなければなりません。

 後半は、ちきりんさんが提唱する「最初から「職業人生は二回ある」という発想」をする」(単行本p.128)という考え方の説明です。

 「怖いのは、何があっても辞められないという不安感を人質にとられ、止めどなく伸びる定年年齢まで働いているうちに、人生が終わってしまうこと」(単行本p.163)

 「大事なことは、20年も働き、様々な条件が整った40代という時点で、20代の就活後初めて、主体的に働き方を選びなおすという視点をもつこと」(単行本p.137)

 「40代で働き方をリセットする大きなメリットは、そういった生活のすべてにおいて、自分のコントロールを取り戻せるということです。とりあえず働き始めた20代とは異なり、「自分が望ましいと思える生活スタイルをまず想定し、それが可能になる働き方はないのか?」という順番で考えられる、それが「人生で二回目の働き方の選択」です」(単行本p.183)

 それまでに築いてきたキャリアを40代で捨てて、職や働き方をリセットする。そんなリスキーなことに挑戦するなんてボクには無理です、という読者を想定して、どうしてそれが最も危険が少ない、幸せな人生への近道であるのかを説得してゆきます。

 貯金(ストック)より収入を得る状況(フロー)の方が重要、それまでの会社にしがみつくと「市場で稼ぐ能力のない人」になる危険が高まる、人生の有限性を真剣に考えよう、そもそも自分が心からやりたいことが何なのか考えたことがない人生ってどうなの。

 社会のことも自分のこともよく分からず、「大失敗したくない」という思いだけで選んだ20年前の会社や職業に残りの長い長い人生を縛りつけていいのか? 金融業界から一躍転身して「おちゃらけ社会派ブロガー」への道を進んだ著者の言葉ですから、説得力があります。

 「若者は就活なんでやめて起業せよ」とか「これからは会社に縛られないノマドな働き方がトレンド」とかいった、けっこう無責任に感じられるビジネス書と違って、「40代になって色々と判ってから働き方を見直そう」というのは、地味ながら、現実的で、説得力のある力強い提言だと思います。自分の人生を主体的に生きたいと思うすべての人、特に20代および40代の方にお勧めします。


タグ:ちきりん
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