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『ガーメント』(三島浩司) [読書(SF)]

 「タイムパラドックスについては、いままでにだれも考えつかなかったようなからくりがあるんだよ、きっと」(単行本p.54)

 戦国時代へとタイムスリップさせられた主人公は、同じ境遇の仲間たちと力を合わせて歴史を変えようとする。タイムパラドックスを引き起こすことでしか現代に戻れないというのだが・・・。『ダイナミックフィギュア』で巨大ロボットSFに新風を吹き込んだ著者が、タイムトラベルSFに持ち込んだ新機軸とは。単行本(角川書店)出版は、2013年05月です。

 さえない大学生である主人公は、あるとき大規模な時間停止現象に巻き込まれ、空中に開いた穴から美少女が落ちてくるのを目撃する。なりゆきで同居することになった彼女は、明らかにこの時代の人ではなかった。

 とまあ、「空から美少女が降ってきた」方式で始まります。ありがちな導入部だなあと思っていると、彼女は「決して扉を開かないように」と言い残して物置に閉じこもってしまう。中から響くのは、機織りの音。

 そ、そう来るか。

 もちろん物語の鉄則に従って扉を開ける主人公。その途端、彼は戦国時代へとタイムスリップしてしまうのであった。

 同じようにタイムスリップしてきた仲間と合流し、何とか現代へ戻ろうと試みる主人公。そのためには、タイムパラドックスを引き起こす必要があるというのだ。

 「ボクはいろいろ考えたんだ。ダッシュはなんでボクたちをタイムスリップさせるのかって。歴史を変えるほどのことをしないと現代に帰れない。それまでは帰ってくるな。つまり歴史を変えろっていってるわけだ」(単行本p.130)

 彼らには身に危険が迫ると自動装着される機動装甲「ヌキヒ」が与えられているが、歴史に大きく影響を与えるような重要人物にも「史実の壁」と呼ばれるバリアが張られている。このバリアを突破しなければ歴史を変えることは出来ないのだ。

 主人公たちは「信長討つべし」、「むしろ今のうちに家康殺っちゃおう」といった緻密な計画のもとに合戦に参加するが、何しろ倒さなければならない相手は、「ガトリング砲三体の一斉掃射で武田騎馬隊を薙ぎ払う信長機銃兵」やら、「巨大猿化して城の上に立ちはだかり、飛来するミサイルをウッホウッホと片手でばんばん叩き落とす秀吉」やら、何だか史実とはちょっと違う戦国武将たち。

 こうして、「身の丈10メートル近くに変身した柴田勝家とカプセル怪獣の激突」だとか、「無敵バリアを展開した信長水軍 vs 科学忍法“火の鳥”」みたいな戦国絵巻が展開することになるのですが、ここまでやっておいて「歴史を変えることの困難さ」を説かれても。

 戦国時代から現代に戻ると、こんどは美少女とのラブコメ生活に忙しい主人公。不思議なことに、どんなに歴史を変えても、戻ってくると現代には何の影響も現れていない。その背後には、驚くべきタイムパラドックスの秘密が隠されていたのだが・・・。

 さて、お待ちかね、タイムパラドックスの処理です。

 タイムトラベルSFでは、いわゆるタイムパラドックスに対して、おおよそ三つの解を用意しています。本当にパラドックスが起きてしまう、タイムトラベラーの行動はすべて歴史に折り込み済であり過去を変えることは出来ない、過去を変えるとそこから分岐したパラレルワールドが発生する、この三つです。

 ところが本作では、あるスケールの大きな設定を用いて、新しい解を作り出すことに成功しました。つまり、パラドックスは起こらず、実際に歴史を変えることが可能で、しかもパラレルワールドも時間線分岐もない、という解を。

 この設定にタイムトラベルをからめるアイデアはけっこう新鮮で、個人的にはちょっと類例を思い付きません。(しいて言うなら、ジョジョ第六部ラストとか割と近いかも)

 というわけで、タイムパラドックスに新機軸を持ち込んだ本格SFとして感心するもよし、時を越えた切ないラブストーリーに感動するもよし、若者たちが力を合わせて戦う戦隊ヒーローものとして盛り上がるもよし。文章や構成はけっこう癖が強く、独特のかったるさが感じられて個人的には苦手なのですが、前作『ダイナミックフィギュア』とテイストが似ているので、そちらが気に入った方なら本作も楽しめると思います。


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