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『パンツァークラウン フェイセズI』(吉上亮) [読書(SF)]

 「・・・・・・僕は、認められたというより、試され続けているということですか?」
 「そういうことになるわね。あなたにとって、本当に相応しい役割はいかなるものなのか。<co-HAL>は今もあなたの行動を通じて調べ続けている」(文庫版p.105)

 行動履歴解析(パーソナライズ)と層現(レイヤード・リアリティ)によって個人の行動と選択が常に最適化されている近未来都市、イーヘヴン。漆黒の強化外骨格をまとった「ヒーロー」として帰還した若者を待っていたものは、宿敵との対決だった・・・。新人によるアクションSFその第一弾。文庫版(早川書房)出版は、2013年05月です。

 近未来都市イーヘヴンの治安を守るために派遣された民間軍事会社の傭兵、DT小隊。その一員である若者は、シグナル911(対テロ要員)として漆黒の強化外骨格(戦闘用パワードスーツ)「黒花(ブラックダリア)」を身にまとい、ヒーローとしての役割を与えられていた。そんな彼の前に、純白の強化外骨格を装着した宿敵が立ちはだかる。

 「それではゲームを始めましょう。ルールは簡単----、私を止めてください。都市の守護者として、人々を守る鋼鉄の英雄として」(文庫版p.179)

 出来なければ市民を無差別に殺戮する。恐るべき挑戦に隠された真の目的とは。そして二人の戦いがイーヘヴンにもたらすものは何か。

 「着装(フェイス)----<黒花>(ブラックダリア)」

 というわけで、陳腐というか、ほとんどテンプレート化したようなストーリーが展開します。これは、もしかしたら、作中設定「複合劇場犯罪都市(マルチ・クライムコンプレックス)」と関係があるのかも知れません。つまり、分かりやすい定番ストーリーであればあるほど、それを動画ストリームで生中継したときの「価値」が高まるから。

 この、大規模犯罪やテロでさえ「観光資源」として消費してしまう未来都市イーヘヴンこそが本作のキモ。その存在を支えているのが、行動履歴解析(パーソナライズ)と層現(レイヤード・リアリティ)という技術です。

 「仮想人格(インターフェイス)を代弁者としてもうひとりの自分が指し示すのだ。自分自身の行動選択の総和から導き出した、もっとも自分らしく安全で快適な人生を進み続けるための指針(コンパス)を」(文庫版p.16)

 簡単にイメージするなら、ネットショッピングのとき、これまでの購入履歴から、「あなたへのおすすめ商品」、「これを買った人はこれも買っています」、「他の人がこれをチェックした後に買っているのはこれ」といった情報がどんどん表示され、それを選んでゆくだけで自分にとって最適な商品を購入することが出来る、あれを人生のあらゆる行動と選択に対して適用したような状態、です。

 さらに、眼球に装着したコンタクトレンズ型デバイスにより、パーソナライズされた「現実」だけが見え、視界内にはとるべき推奨行動が常に表示され、ビッグデータ解析にもとづく行動制御により個人の動きが全体として最適化される、そんなユートピアなんだかディストピアなんだか判然としない都市環境が背景となります。

 そんな、誰もが「自分らしい、快適で、安全な選択」を指示してもらえる世界において、「ヒーロー」であるということは何を意味するのでしょうか。

 背景世界の説明と主要登場人物の紹介(それと二回ほどの戦闘)だけで第一巻は終ってしまい、この先どのように話が進むのかはよく分かりません。

 それと、頻出するルビ付き造語を別にしても、必ずしも読みやすい作品とはいえません。活劇シーンはそれなりに面白いのですが、どこかの漫画・アニメ・映画で見たことがあるような場面ばかり、という印象も受けます。とりあえず第二巻以降に期待ということで。


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