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『日本SF短篇50 (2) 日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー』 [読書(SF)]

 「70年代、それは日本SFが大いなる飛躍を遂げた年代であった」(文庫版p.575)

 日本SF作家クラブ創立50周年記念として出版される日本短篇SFアンソロジー、その第2巻。文庫版(早川書房)出版は、2013年04月です。

 1年1作、各年を代表するSF短篇を選び、著者の重複なく、総計50著者による名作50作を収録する。日本SF作家クラブ創立50年周年記念のアンソロジーです。第2巻に収録されているのは、1973年から1982年までに発表された作品。

 ニューウェーブSFから明治SFまで、著名作が並んでいます。10代の頃に読んだ作品が多いため、自分のSF読書暦の原点を見るような思いが。第1巻と比べて、再読しても古びてない作品、今読むのはちょっとつらい作品、その差が広がったような気がするのは、そういった個人的事情が影響しているのかも知れません。

1973年
『メシメリ街道』(山野浩一)

 「私はこの考えに満足した。どこかへ向かっているのだ。どこか私の安息を得ることができるところ。どこか素晴らしいところ。 だが、いつまでも正午で、メシメリ街道はどこまでも続いていた」(文庫版p.43)

 歩道橋も横断歩道もなく、車両が間断なく走り続けている巨大な道路、メシメリ街道。何とかその向こう側に渡ろうとする語り手は、なすすべもなく翻弄されるばかり。そして時刻は常に正午。

 若いころ読んだときはその不条理感に驚かされましたが、今になって読むとそれほど不条理ではなく、むしろ比喩や風刺性があからさまに感じられます。しかし、それが今なお古びていません。傑作だと思います。

1974年
『名残の雪』(眉村卓)

 「歩きながら、ぼくは、伊藤さんがいたというその世界のことを空想した。どこにあるかは分からないが、堂々たる大国である日本・・・・・・。ぼくが生きているうちに、この日本がそうなるだろうか? そのことが頻りに思われてならないのである」(文庫版p.130)

 幕末期へとタイムスリップした一人の若者が、道場で剣の腕を磨き、新撰組に入る。だがそれが歴史にどのような影響を与えるか、彼は想像もしてなかった・・・。

 歴史改変SFですが、基本アイデア自体もその処理(ひねり)も、今から見るとかなり素朴。私を含む「しらけ世代」の若者が、「陽明学」的心証にハマり身勝手な正義感に酔って行動するとどうなるかを教えてくれた作品です。

1975年
『折紙宇宙船の伝説』(矢野徹)

 「女の声が白い霧の中を動いてくる。その声におされるように折紙の飛行機はどこまでも飛ぶ。声の主は裸の女だ。白い裸身が竹藪のあいだを動く」(文庫版p.134)

 閉鎖的な村落に伝わる謎めいた伝説。なぜか年をとらない美しい狂女。そしてその息子は、他人の心を読む力を持っていた・・・。デニケン的ネタをからめた伝奇小説。今読むと、色々な意味で差別意識が強く、あまりに昭和臭きつすぎて楽しめません。

1976年
『ゴルディアスの結び目』(小松左京)

 「傷や、むすぼれが、ある程度以上になると、もはや完全に癒す事も、ときほぐす事もできなくなるんだ。----ゴルディアスの結び目のように・・・・・・」(文庫版p.235)

 他人の精神世界に入り込んで探索する能力を持つ男が、人里はなれた研究所にやってくる。そこに収容されているのは一人の美少女。人を殺しその心臓を喰った後、何かにとり憑かれて昏睡を続けているという彼女の周囲では、驚くべき超常現象が起こり続けているのだった・・・。

 オカルトと精神医学と現代物理学を、レトリックの力で強引に結びつけてしまった怪作。この頃、ブラックホールとオカルトは紙一重でした。映画『エクソシスト』を連想しながら読んだものですが、今となっては『バルバラ異界』(萩尾望都)のビジュアルイメージでしか読めません。

1977年
『大正三年十一月十六日』(横田順彌)

 「はるか沖合に、海中より艦首だけもちあげている奇怪な潜航艇が見える。海底軍艦だ。ああ、上空にはジュラルミンの銀色に輝く巨大な空中軍艦が二隻、艦尾に大日本帝国海軍の旭日旗をはためかせている」(文庫版p.282)

 日本SFの祖、押川春浪の人生を短いページ数のなかで高速フラッシュバックさせてみせる作品。断片的なシーンの積み重ねが巧みで、SF的要素はほぼ皆無であるにも関わらず、SFファンの心をつかみます。

1978年
『ねこひきのオルオラネ』(夢枕獏)

 「基本的には右手でねこをいじくり、つまり音を出し、左手をねこののどにあて、音を調整する。左の指で、音を切ったり、バイブレーションをつけたりするのである。 言うなれば生きた三味線だった」(文庫版p.309)

 失業したチェロ演奏家が、オルオラネと名乗る不思議な老人に出会い、いっしょに演奏することになる。猫を。宮沢賢治を下敷きにしながら、「ニャオニャオぴニャオ! ニイッふにゅナーゴ ギャゴナッふ ふーるイイイイ」とタイポグラフィがページ狭しと跳ね回る楽しいメルヘン作品。

1979年
『妖精が舞う』(神林長平)

 「それを操る者たちといえば、任務上、良くいえば冷静、悪くいえばより非人間的冷酷心を求められた。零はまさにうってつけだった。信じているのは雪風だけだったから」(文庫版p.339)

 正体不明の侵略者ジャムを迎撃すべく創立されたフェアリィ空軍。そこに、たとえ仲間を見捨ててでも生還を至上命令とする特殊部隊所属の最新鋭偵察戦闘機があった。シルフィード、異星の空を舞う機械の妖精、コードネーム「雪風」。

 ご存じ「戦闘妖精 雪風」シリーズの原点となる短篇です。後に連作短篇集に収録されるに当たって大幅に改作されたので、雑誌初出時のまま再録されるのは本書が初めてとのこと。貴重。

1980年
『百光年ハネムーン』(梶尾真治)

 「我々は仮にそのような百周年の長寿を保ったカップルの祝婚儀式を大和石結婚式(ヤポニウム・ウェディング)と名付けました。百光年果てのトリスタンへ旅立つ結婚百周年を迎えるカップル。こんなロマンチックなイメージがあるでしょうか」(文庫版p.395)

 大企業を統括する冷酷無慈悲な総帥が、会社のイメージ戦略のためだと説得され、地球から百光年先にある惑星へ旅行に出かける。そこで彼が見つけたもの、長い間忘れていたものとは。

 『クリスマス・キャロル』を下敷きにしながら、距離を時間にするりと入れ代えて読者を感動させる手際は、今読んでも感心させられます。美亜やエマノンと並ぶ、懐古的時間SFの名手による代表作の一つ。

1981年
『ネプチューン』(新井素子)

 「あの娘のせいだわ、ネプチューン。 今まで何とか平静を保っていたあたしの心に、突然降ってきた小石。描きだされる波紋」(文庫版p.443)

 三人の男女が海で拾った美しい人魚姫、ネプチューン。それまで危うい均衡を保っていた彼らの三角関係は、そのために次第に崩れてゆく・・・。時間テーマ、進化テーマをからめた青春ファンタジー。色々な意味で若い作品で、この歳になって読むと、登場人物の誰にも共感できないことに気づきます。

1982年
『アルザスの天使猫』(大原まり子)

 「汎銀河法では、天使の翼は、第一発見者に所有権が生じることになっているが、ほんとうは翼が人を選ぶのだ。翼を背負う人間に心のきたない者はいない。だからこそ天使とよばれるのだ」(文庫版p.537)

 様々な場所を旅する心優しき天使猫は、だがその驚異的な力ゆえに、常に暗殺者に追われているのだった。そして惑星アルザスを舞台に巻き起こる凄まじい超能力戦闘。ご存じ「未来史」に属する短篇。

 全体を通して、個人的に気に入ったのは、『メシメリ街道』(山野浩一)、『ねこひきのオルオラネ』(夢枕獏)、『妖精が舞う』(神林長平)です。あと、『ゴルディアスの結び目』(小松左京)、『百光年ハネムーン』(梶尾真治)も悪くないと思います。

[収録作品]

1973年 『メシメリ街道』(山野浩一)
1974年 『名残の雪』(眉村卓)
1975年 『折紙宇宙船の伝説』(矢野徹)
1976年 『ゴルディアスの結び目』(小松左京)
1977年 『大正三年十一月十六日』(横田順彌)
1978年 『ねこひきのオルオラネ』(夢枕獏)
1979年 『妖精が舞う』(神林長平)
1980年 『百光年ハネムーン』(梶尾真治)
1981年 『ネプチューン』(新井素子)
1982年 『アルザスの天使猫』(大原まり子)


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