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『、そうして迷子になりました』(ブリングル) [読書(小説・詩)]

 「ご覧下さい。鍛え抜かれた指が選んだ、柔らかい新芽ばかりを摘み取った言葉たちを。きめ細かくなめらかなので味がよく染みこむはずですからぜひご家庭でもお試しください。」
  (『ニュースの時間です。』より)

 はじける言葉が解放感と高揚感を生む、気持ちのよい詩集。単行本(思潮社)出版は、2012年10月です。

 「ほんととか嘘とかいらないの。だってわたしはぷすんぷすんと軽石みたいに酸素を孕んで今日もごきげんよかよかと過ごしている普通のおんなのこですから言葉に押し倒されても固く閉じた身体を投げ出してされるがままでいるおぼこなだらしのないおんなのこでしかないのです。」
  (『いつだってどこかでおこってる』より)

 こう、読んでいるうちに何とも言えない解放感と高揚感に包まれてゆく、あげぽよ(使ってみたかった)詩集であります。ごきげんよかよか。

 何といっても、解放された言葉がわらわらと飛び跳ねる様子がとっても素敵です。

 「海王星。山椒魚。金曜日。ノン! カタカナでお願いします。蛙によく似た昼下がり。砂時計に埋もれ首だけを突き出す。電送の時間ね、はじめましょう。雷魚の給食。七ツ。鵺。朝顔の種。どこに行っても見つからない。身代わり。実がなる。よく聞いて。ウリム。ハッサヌイーシ。時報。」
  (『散歩日和』より)

 繰り返し読んでいると、どんどん気分が晴れて昂奮してくるのですが、いったいどこら辺に何が仕込んであるんでしょうか。

 「シリーズ「旨味の濃い匿名性」、今週はノマドと小窓の見分け方・育て方です。1分以内にまとめないと熱しやすく醒めやすい肌にアミノ酸降りしきるおやじギャグが着火しますので取り扱いにご注意下さい。爆撃をくりかえすツンデレですが上記の分布図によるとみずみずしい饒舌が精度2120度をまたぎ北上した位置に停留しているので突然のさぶいぼにご注意下さい。」
  (『ニュースの時間です。』より)

 耳慣れた言葉もいやがうえにも鮮度ましまし。

 「赤白しましま棒キャンディーのように/固くいつまでも/いついつまでも/とけずに残るぬれぬれのわたし/(かんじゃだめなめて)/苦みもえぐみもありません/いれたりだしたり迷ったり/だしたりいれたり(ぐぇっ/えづくまで気づかない距離感のないわたし//  (ざぬぅーん ざぬぅーん」
  (『はかる』より)

 ちょっとエッチな感じの言葉もほらこの通り全年齢対応に。

 しかし、高揚感だ解放感だと昂奮していると、いきなりそこに生活感。

 「ハンバーグ・歯ぎしり・ごはん・嫌み・ふりかけ。もうすきやきは鬼門だということがよくわかりました。いかがですか朝のはなしです。とにかく。//今日はもう寝ます。/だって虫歯だから。/どうせ人妻だから。」
  (『だってそうだから』より)

 「時間をかけても必ず選びとる不正解。中和できないままかかえてるメールの意味に苦しんでいます。どうせわたし馬鹿だから。言葉なんて上滑りだから。しゃべりこんで店を出ないおばちゃんたちのナックルボール並の会話を見習いたい。だらしなく使い分けしてきた身体だからカラダ。」
  (『だってそうだから』より)

 「毎度わたしはわたしの中で自分にしか話し掛けない、なんて素晴らしき自給自足、地産地消に今日もご満悦、ためらうこともなく、いっさいがっさいをパウンド型に流しこむがごとく、すっかり満ち足りることの自家製中毒を循環して盛り上がり、食後のケーキはおまけじゃなくて大切なクライマックスと有頂天にたいらげた、そしてげっぷした」
  (『すすめ、人生あたっかー』より)

 「空中から突如あらわれた目蓋から剥がれ落ちた書きかけの落ちこぼれが酸っぱい。背中に馬鹿と貼られました。四十肩だから手はあげません。信号を待たないでからめた舌。」
  (『ところで恋をしています』より)

 ずっしりとした生活感の底から浮上してきた言葉の泡がぽんぽん弾けてゆくような。その力強さ、ふんばり感、大いなる感銘を受けます。ぎゅってなる。

 というわけで、書き写しているだけで気分が晴れる個人的にお気に入りの詩集です。みんな読めばいいと思う。

 「節電におけるメイクのボリュームすら量りきれない迷子女子として徘徊の日々に血迷い気味で貧血必至です」
  (『すすめ、人生あたっかー』より)


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