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『ダイヤモンドは超音速で地底を移動する』(入舩徹男) [読書(サイエンス)]

 地下深くで作られたダイヤはマントル中を自動車並みの速度で進み、地表に近づくと何とマッハ4という猛スピードに達する・・・。地球科学の最先端トピックを平易に解説してくれる一冊。新書版(メディアファクトリー)出版は、2012年10月です。

 ダイヤモンドの生成過程から地表への噴出、ダイヤに封じ込められたマントル構成物質、超深部ダイヤやナノ多結晶ダイヤの発見など、ダイヤモンドという魅力的な鉱物を切り口に、地球科学の最前線を紹介するサイエンス本です。

 まず最初の「第1章 未知なる地底への旅」では、地面を掘削して地殻深部の、さらにはマントルのサンプルを手に入れるという目標に対して、人類がどこまで近づいているのかが語られます。これが、予想以上の困難さ。

 「地底を掘るには、非常に大きなエネルギーが必要です。地底を1m進むのに必要なエネルギーは、宇宙空間を1m進むエネルギーの約1億倍とも見積もられています」(新書版p.24)

 「他にも、「地底旅行」の方法はいくつも提案されています。面白い例を一つ挙げると、地表に大きな穴を開け、そこにドロドロに融けた高温の鉄を大量に流し込む方法があります」(新書版p.30)

 「周りの岩石を融かしたり破砕したりしながら、鉄は地底に向かって落ち込んでいく。(中略)融けた鉄の中に高温でも融けない「乗り物」を入れておけば、(中略)計算上では、1週間程度で核に到達するといわれています」(新書版p.30、31)

 ほとんどヤケになってるような議論ですが、地球内部物質のサンプルを手に入れるというのはそれだけ困難なことであり、また研究者にとって悲願なのだということがよく分かります。

 「第2章 ダイヤモンドは地底からの美しい手紙」では、ダイヤが地球科学にどれほど役立つかが解説されます。地面を掘る代わりに、地表に届いたダイヤモンドを分析することでも、マントル層について調べることが出来るというのです。

 「私たち地球深部を研究する者にとっては、ダイヤモンド自体より、そこに含まれるインクルージョンや欠陥のほうが重要です。インクルージョンのなかには、マントル内の鉱物がそのまま閉じ込められていることがあるからです。微細な欠陥は、ダイヤモンドがつくられた地底の温度や圧力を知る手がかりになります」(新書版p.50、51)

 魅惑的なタイトルの意味が詳しく説明されるのもこの章です。ダイヤが生まれてから地表に到達するまでの過程が語られます。それは驚異の旅。

 「地下深くでつくられたダイヤモンドは、キンバーライトマグマに乗って地表にやってきます。その速度は、後で述べるようにマントル中では自動車並み、ある見積もりでは地表付近でマッハ4にも達します」(新書版p.57)

 「マントル中では安全運転していたキンバーライトマグマは、地下50Kmで突然アクセルを踏み込み、レーシングカーをはるかに超える速度に加速します。そして地表の直前で旅客機の速さに達し、最後は戦闘機並の速度で大空に飛び出すのです。これが、ダイヤモンドの地底から地表までの旅といえるでしょう」(新書版p.61)

 さらに特殊な生成をしたダイヤ、ダイヤの原材料、など、この章を読むだけでもちょっとした(鉱石としての)ダイヤモンド通になれそう。

 「第3章 プレートが誘う地底世界」でプレートテクトニクス理論をざっと眺めた後、いよいよ「第4章 ダイヤモンドで探る地底世界」へと進みます。

 この第4章では、超高圧装置で地球内部環境を再現してそこにある物質がどのような状態にあるのかを調べるという、著者の研究分野について語られます。この装置に使われているのが、最も固い物質であるダイヤモンド。

 「現在では、ダイヤモンドアンビル装置を使えば、圧力は350万気圧くらい、温度も5000から6000度まで上げることができます。つまり、内核を含めた地球内部(中心で圧力約365万気圧、温度約6000度)をほぼ完全にカバーできるのです」(新書版p.113)

 こういった装置を用いた実験、理論計算、地震波測定などの手法を駆使して得られた情報は驚嘆すべきもの。マントル内に存在する多層構造、海洋プレート沈み込みと「メガリス」の形成崩落、そして地球中心核の構造など。中心核と地磁気の関係といった話題もここに登場します。さらに中心核についての最新情報ときたら、これがもう。

 「どうやら内核は地球全体に比べてわずかに速く回っているようです。地球の最も内側にあり、液体の外核で覆われた内核が、地球と別の動きをしている・・・。この結果は、(中略)1996年に発表され、大きな話題になりました」(新書版p.146)

 「核は地球の形成初期にできましたが、その直後に火星サイズの天体が地球にぶつかり、地球のマントルが飛び出して月ができたとする説があります(「ジャイアントインパクト説」といいます)。このとき、ぶつかった天体の鉄の核が地球のマントル内を沈んでいき、地球の初期の核と合体したと考えられています。そうだとすると、内核の中心部の最内核は、ジャイアントインパクト以前につくられた、もともとの地球の核だった可能性があるのです」(新書版p.148)

 奥深くに注目すると、地球も「未知の惑星」なのです。何とも心ときめいてしまう話じゃありませんか。

 最後の「第5章 新しいダイヤモンドによる挑戦」では、著者が発見した新しいナノ多結晶ダイヤモンド、「ヒメダイヤ」の紹介です。ヒメダイヤの発見に至る過程、構造、その有用性や応用などが熱く語られ、今後の展望や夢を提示して終わります。

 地学や地球科学、プレートテクトニクス理論といった話題については、『日本沈没』(小松左京)がベストセラーになった頃に勉強してからずっと疎遠だったもので、正直いって知らないことばかり。ページをめくる度に驚愕しました。

 解説は分かりやすく、研究現場の熱気も伝わってきます。地球科学の分野で現在どんな研究が行われているのか、その概要を知っておきたい方にお勧めです。


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