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『一刀流無想剣 斬』(月村了衛) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 「無法に泣く民あらば、無敵の剣で悪を懲らす、たとえ相手が何者であろうとも、ただ一人にて立ち向かう、そして名乗ることなく立ち去る」

 「己を空とし、想を無とし、生の実を以て死の虚を打つ。一刀流『無想剣』。」

 追われる姫と小姓を助けた剣の達人が、一国の軍勢を相手に大立ち回り。人気シリーズ『機龍警察』の著者が書き下ろす痛快時代劇。単行本(講談社)出版は、2012年10月です。

 落ち武者狩りの軍勢に取り囲まれた姫と小姓、その命、もはや風前の灯。そこにふらりと現れた剣の達人が、たった一人で一国の軍勢に立ち向かう。ばっさばっさと敵を斬り捨て、絶体絶命の危機を鮮やかな策略で切り抜けてゆく達人。だがその行く手に、無敵の秘剣を極めた刺客たちが立ちはだかる。

 というような時代小説を読んでみたい方にお勧めの一冊。時代小説というか、むしろ中国の武侠小説か『北斗の拳』のノリ。細かい段取りはすっ飛ばして、ひたすら見せ場だけをつないでゆくそのスピード感がすさまじい。

 最初に2ページの導入部(あの剣、まさしく一刀流切落)、本編が始まって2ページ目でいたいけな姫が追い詰められ、3ページ目で主人公が登場(邪魔立てするか、ええい、斬れっ)、8ページ目でライバルとの対決(この決着は、いずれ必ず)、13ページ目で恐るべき刺客兄弟が現れ(覚えておけ、奴は我等が討つ)、30ページ目で敵の軍勢の真っ只中に単身斬り込んだ主人公、31ページ目で刺客の兄と対決(先に動いた方が、負ける)。

 対決する毎に深手を負って生死の境を彷徨う主人公。一刀流究極奥義「無想剣」を体得せぬ限り、南斗鳳凰拳のサウザーは倒せぬっ。

 いやもう怒濤のような勢いで、危機と対決と策略のつるべ打ち。前半は落ちつく間もなく、だーっと話が進みます。中間部で少し緩やかになりますが、その間にも伏線はせっせと張られ、ラスト40ページ、意表をつく驚愕の展開へと向かってゆきます。

 というわけで、長い回想パートをはさみつつ見せ場に向けてじっくり盛り上げてゆく『機龍警察』シリーズに比べると、筆の勢いと、ほとんどパロディのようなTV時代劇的定番演出で押し切ってしまう破天荒な作品。真面目な時代小説や剣豪小説だと思ってはいけませんが、武侠小説や『北斗の拳』を期待して読めば文句なく楽しめるでしょう。


タグ:月村了衛
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