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『SFマガジン2012年11月号  日本SFの夏』(宮内悠介) [読書(SF)]

 SFマガジン2012年11月号は「特集 日本SFの夏」ということで、最近の国内SFの話題作を中心に作家インタビューやレビューを掲載、さらに宮内悠介さんのシリーズ第三弾、そしてジェイ・レイクの『愚者の連鎖』(SFマガジン2010年06月号掲載)の続編を載せてくれました。

 『ジャララバードの兵士たち』(宮内悠介)は、南アフリカを舞台とした『ヨハネスブルグの天使たち』(SFマガジン2012年2月号掲載)、ニューヨークを舞台とした『ロワーサイドの幽霊たち』(SFマガジン2012年8月号掲載)に続くシリーズ第三弾。

 今作では、民族紛争が泥沼化したアフガニスタンが舞台となります。紛争地域で起きた奇妙な殺人事件、その背後には忌まわしい戦争犯罪が隠されていた。巻き込まれた二人は、地獄のような戦場から生きて脱出することが出来るのか。

 これまでの作品と同様にDX9と呼ばれるアンドロイドが登場しますが、今作ではそれほど落下しません(冒頭でパラシュート降下してきますが)。違法改造され、兵器として殺戮に使われるのです。少年兵のイメージがかぶることもあって、その陰惨さに気が滅入ります。

 前二作に比べると非常にシンプルな語りで、展開もまっすぐ。人間をうつす鏡のようなDX型アンドロイドという仕掛けを使って、想像力でこの世界の現実をえぐり出そうとする骨太な作風はこれまでと同じ。単行本にまとめられるのが待ち遠しい限りです。

 『星の鎖』(ジェイ・レイク)は、SFマガジン2010年06月号に掲載された『愚者の連鎖』の続篇。

 惑星が巨大な歯車として連動して動いている機械仕掛けの太陽系。地球の赤道上には大気圏外までそびえ立つ歯車の「歯」があり、その歯が太陽の周囲を回っている軌道環と呼ばれる構造物と噛み合って回転し続けることで、自転および公転が実現されている。

 腰を抜かすようなお馬鹿な設定ですが、作品の雰囲気はシリアスそのもの。前作は、その地球歯車にひっかけた鎖に沿って低地と高地の間を行き来するバケツ船の女船長の物語でしたが、今作では彼女は船長を引退して、宇宙飛行士を目指します。いや、マジ。

 別れた恋人の夢を受け継ぎ、宇宙を目指す彼女の周囲には、志を同じくする仲間が次々に集まってくる。地球歯車の先端近くにロケット発射基地を作り、軌道環と歯が噛み合ったタイミングで手作りロケットを発射。ロケット先端には接着剤を塗っておき、軌道環にぺたっと張り付ける。そうすれば軌道環によって宇宙船は自動的にエーテル空間まで運ばれるはず。そう、星々の世界へ手が届くのだ。

 大真面目にそんなことを云われても困りますが、読者が何を考えようとも、話はどんどん宇宙開発ものに突き進んでゆきます。立ちはだかる困難、打ち上げ失敗による犠牲。すべてを乗り越え、手作りの原始的なロケットに乗り込んで星々を目指すヒロインの姿に、SF者なら熱い感動を覚えることでしょう。いやまあ、そりゃバカですけど、それがSFの原点なんじゃないでしょうか。

[掲載作品]

『ジャララバードの兵士たち』(宮内悠介)
『星の鎖』(ジェイ・レイク)


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